競輪では、回転型の選手と地脚型の選手がおり、なぜか圧倒的に評価されるのが後者。つまり、ただスピードだけが速い選手は嫌われるというか、速いだけで強くないというレッテルが貼られるようである。
しかしながら思うに、地脚だけでは成績は安定しない。また、国際大会の短距離種目を見る限りにおいて、単純に地脚型と呼ばれる選手ははっきりいっていない。
もちろん、地脚をつけることは重要だ。地脚がなければ回転もついてこない。しかしながら、地脚型スプリンター、とでもいっていいのか、そういった選手はロードレースのスプリンターにほぼ限定される。ロード選手の場合、トラックで練習する選手でもない限り、スプリント力を特別につけるような練習はほとんどしていない。要は相対的に他選手と比較してスプリント力がある、といった類のもの。したがってロードスプリンターというものは、トレーニングだけでは体得することは難しい、天性のものだといわれる。
しかしながら、トラックの短距離選手の場合、ある程度まではトレーニングでスプリント力をつけることは可能だ。
ところで今年、競輪ではバンクレコードが3場ほど塗り替えられている。松戸・中村浩士、広島・石橋慎太郎、熊本・石丸寛之。
しかしながら、これら3選手はいまだタイトルを取ったことがない選手たちだし、記念でも上位常連級の選手とは言いがたい。したがって今や、バンクレコードそのものが軽視されつつあるのが現状。だが、かつてのバンクレコードホルダーといえば、例外なくタイトルホルダーか、あるいはそれに準じる選手たちがズラリと名を連ねていた。
一方、国際大会に目を向けると、今や200のFTTは9秒台が当たり前の様相になりつつある。2年前にボスが9.77秒の世界新記録を樹立した際には驚かされたが、今年の北京オリンピックでは、スプリント優勝のホイが9.815秒の五輪新をマーク。また同2位のケニーが9.857秒をマークしている。つまり、ホイやケニーの時速は約74km。
これだけのタイムをマークしようと思えば、一定のスピードをできる限り持続させようとする地脚型では到底覚束ない。それなりの回転力が要求されるのは言うまでもなし。
北京で三冠王となったホイは、かつての1kmTTの王者であるが、スプリントやケイリンといった、瞬時のスピードを要求される種目には長らく出ていなかった。さらに、2005年の国際競輪にも参加したことがあるが、その当時はただの「逃げ屋」といったイメージしかない選手。つまり、地脚はあっても競輪が求める強さには程遠い選手だった。
ところが、1kmTTが五輪種目から外れることになり、新たな活路を求めて、まずはケイリンに取り組んだところ、2007年の世界選ではボスを完封。翌2008年の世界選ではスプリントにも出場したところ、ここでもボスに勝ってしまった。そしてケイリンでは昨年来、負けたレースというのを見たことがない。
昨年の世界選のレース以降、ホイは明らかに変わった。一定のスピードを出せばソコソコ頑張れる、といった走り方は鳴りを潜め、踏んでは流し、また踏んでは流し、そして最後にまた踏む、といったことを繰り返していた。単純な地脚型の選手だと、なかなかこういったことはできない。つまりホイはここ2年の間、徹底してダッシュ力を身につけたといっても過言ではない。
対してボスといえば、北京五輪では惨敗もいいところだったが、今年の世界選や五輪では、明らかにダッシュ力が落ちていた。つまり、踏み込んだ際にピッチが上がらないのである。ちなみにボスの五輪における200MFTTのタイムは10.318秒。渡邉一成と比較してもコンマ028しか違わないという「平凡な」ものだった。
そういえば阿部良二が、全輪協が発行していたフリーペーパー誌上で、ダッシュ力とは地脚の上についてくるものだと思っていたが、高校生を指導していくうちに、そうではないということを気づかされたということを述べていた。要は回転力をつけないことには、ダッシュ力はつかないのだと。
しかしながら上述した通り、地脚をまずはつけないことには、ダッシュ力もついて来ない。今、若手選手がダッシュ力はあっても力強さに欠けると言われているのは、要はまさしく、地のついた練習がほとんどできていないから。とりあえずは3年ほどは徹底した乗り込みというのは必要だろうな。とはいっても、街道だけでそれをやろうにも、道路事情等の問題があって、なかなか覚束ない面も出てこよう。
亡くなった内田慶、いや、神山雄一郎もそうだったが、10代から20代前半にかけては、ポイントレースなどの長距離種目を得意としていた。神山は作新学院時代にアジア大会のポイントレースで2位に入っているし、内田は4年前のアジア選手権のスクラッチで、「アジアの虎」とも言われているワン・カンポに勝って優勝している。
ということを考えると、日本ではごく少ないが、ロードレースの大会に合間を見て参加するなり、はたまたトラックレースの実業団大会に、参加が許される限り、中長距離レースに出るというのも一つの手ではないかということも考えられる。
そうした経験を数年経た上で、今度はダッシュ力をつけるといった練習に出たほうがいいのかもしれない。但し、回転系の選手というのは例外なくスピード持続力が短い選手が多い。中野浩一はまさしくその典型であったが、そういったタイプの選手に、長距離レースに参加しろ、といったところで効果はほとんど見られまい。となると回転系の選手はとにかくバンクでの練習をとことんやること。ところが、大半の競輪選手というと、バンク練習といえば、「汗ばむ程度」しかやらないとも言われている。それじゃダメなわけで、バンクが使える時間があれば、時間が可能な限りそれこそ、血ヘドが出るくらいやってもらいたいもの。
中野浩一は街道練習をほとんどやらなかったため、「練習嫌い」とまでささやかれたが、実はバンク練習を重視していて、1日あたりのモガキの練習回数は、他の選手ではマネできないほどだったという。普段の練習でも「鬼」と言われた井上茂徳でさえ、「中野さんと一緒に練習するときはいつも「負けていた」。」という話をよくしていたし。