全国中学校体育大会 廃止の7競技 代替大会を検討【詳しく】 NHK 2025年3月6日 20時15分
中学生のスポーツの全国大会、全国中学校体育大会で、少子化などを理由に2027年度以降実施されないことが決まった9つの競技のうち、7つの競技が普及や選手の強化などへの影響が大きいとして、替わりとなる大会の実施を検討していることがNHKの取材で分かりました。
1979年から開催されている全国中学校体育大会=全中大会は現在、20の競技が実施されていますが、中体連=日本中学校体育連盟は、少子化や教員の負担軽減などを理由に2027年度以降規模を縮小し、水泳やスケートなど、合わせて9つの競技を実施しないことを決めました。
これを受け、NHKが各競技団体に今後の対応などについて聞いたところ、普及や選手の強化への影響が大きく、中学生のモチベーションにもなっているなどとして、水泳、体操、新体操、ハンドボール、男子のソフトボール、アイスホッケー、スキーの合わせて7つの競技は、替わりとなる全国大会の実施を検討していることが分かりました。
このうち日本ハンドボール協会は、既存のクラブチーム対抗の大会に学校の部活動も参加できるようにし、全国一を競う形を残す方針です。そのうえで、全国大会の予選とならない、都道府県レベルの大会などではリーグ戦を導入する方向性を打ち出し、さまざまなレベルの生徒の試合経験を増やす取り組みも進める考えです。
一方、日本相撲連盟は中学生日本一を決める大会が別にあるとして「教員の負担軽減や勝利至上主義からの脱却、開催地の負担などを考えると全中大会での廃止はやむをえない」としています。
各競技団体は、少子化が進む中、いかに競技のすそ野を維持するか強い危機感を持つ一方で、代替大会の実施には会場の確保など費用負担も生じるため慎重な検討が必要となり、生徒の意欲や成長を第一に考えながら時代にあった大会を模索することが求められています。
“急速に進む少子化” ハンドボールの現状は
全国中学校体育大会=全中大会の実施競技縮小の大きな要因には、急速に進む少子化があります。
中体連=日本中学校体育連盟の調査によりますと、取りやめ対象の1つ、ハンドボールでは、この10年で全国の部員数が男子ではおよそ2000人、女子ではおよそ4500人減っていて、複数の学校で行う合同部活動の実施チーム数も今年度・2024年度は41チームで、10年前よりおよそ4倍に増えています。
東京 府中市の府中第三中学校では、女子のハンドボールの部員が現在、6人で、おととしの夏の大会で3年生が引退してから単独でチームが組めなくなりました。
それ以降は、平日は男子に交じって練習するなどし、大会は2校による合同チームで出場していました。
現在、キャプテンを務める2年生の中尾百花さんは当時について「女子だけでは練習でやれることが限られ、男子に混じって練習するのもきつくて大変でした。試合に出られなくなるかもしれないと思うと心配で、何のために練習しているのかなと思っていました」と振り返ります。
こうした状況を受けて去年、市内にもともとあった小学生のクラブチーム「府中ハンドボールクラブ」に中学女子のチームが新たに設けられ、府中第三中学校のほか、市内のほかの中学校などからも生徒が加入して、週末の練習や大会参加が行われるようになりました。
学校が複数にまたがり、全員集まるのが難しかったり練習場所を転々としたりという課題はありますが、人数が増えたことで実戦形式の練習ができるようになり、大会出場への不安もなくなったといいます。
中尾さんは「自分のチームとして大会に出られるのがとても楽しいし、勝ったときの喜びを得られることがうれしい。練習も試合のために頑張れるので、どんどんできることが増えていくのが楽しいです」と話していました。
おととしまで府中市の中学校で教員として勤務し、府中ハンドボールクラブの中学女子チームを立ち上げた長谷川喜一監督は「競技人口も減っているし、合同チームで出てくる学校も多くなっているので、いろいろな生徒が加入できるような環境にできればと思っている」と話していました。
“教員の負担軽減” 全中大会スキー競技の運営は
日本中学校体育連盟は、全国中学校体育大会=全中大会の実施競技を縮小する理由の1つとして大会運営に関わる教員の負担軽減を図ることをあげています。
ことし2月に長野県野沢温泉村で行われた全中大会のスキー競技の事務局は村の近隣の中学校などの教員合わせて5人で担っていました。大会が近くなれば事務局長は専従となるものの、ほかの4人は授業や学校業務の合間をぬって大会運営に携わっています。
選手団の受け入れ準備のほか、各都道府県から出される出場申込書の受け付けや確認、それにポスターの発送や問い合わせへの対応など、大会が終わるまでさまざまな業務が続くということです。
大会開幕をおよそ1週間後に控えたことし1月下旬には、滑走順を決める抽選会の業務が行われました。パソコンを使って抽せんを行ったあと、選手の順番や名前などを一人一人間違いがないか確認し、最後はほかの教員の手も借りながらビブスを都道府県ごとに仕分けるなど一日中、作業に追われていました。
野沢温泉中学校の教員で、全中スキー大会長野県実行委員会事務局の前澤健太事務局長は「事務局員の教員はふだんは自分のクラスを持っていたり、授業をしていたりするので、大会期間であればまるまる1週間、学校を空けることになる。そうすると別の方に授業をお願いしないといけないので、学校側も教員を運営に出しづらい実情がある」と語りました。
事務局では、全員が集まる日をできるだけ減らしたり、業務を削減したりして効率化を進めているということですが、前澤事務局長は「運営する立場から言うと確かに大変な部分はある。開催地だけに任せるのではなく、参加チームから運営員を出すなどして、みんなで協力して大会を作っていかないといけないのではないか」と改善を指摘していました。
“進学で重要” 水泳連盟は実施継続を模索
各競技団体の声からは、学校の部活動を中心とした今の中学生のスポーツのさまざまな実情がうかがえます。
日本水泳連盟は、全中大会での活躍は進学で重要になっている側面もあるとして、実施継続を模索し、仮に代替大会を設ける場合でも中体連と自治体の教育委員会が主催する枠組みは維持すべきだとしています。
日本スケート連盟は開催地の自治体と対応を検討中だとしています。
大会のあり方を大きく見直す動きも
一方で、トーナメント形式で日本一を決める全国規模の大会が勝利至上主義となり、過度な練習や指導者の体罰などにつながっているおそれもあるという指摘を踏まえ、今回を期に大会のあり方を大きく見直す動きも出ています。
日本ハンドボール協会は全中大会での実施が取りやめとなる中、既存のクラブチーム対抗の大会に学校の部活動も参加できるようにし、全国一を競う形を残す方針です。
一方で、全国大会の予選とならない都道府県レベルの大会などでは、トーナメント形式ではなくリーグ戦を導入する方向性を打ち出しました。
負ければ終わりのトーナメント形式では試合数も出場選手も限られますが、リーグ戦であれば多様な競技レベルのチームどうしが数多く対戦することで、多くの選手が出場機会を得ることができます。
参考にしたのが8年前から小中高の各年代でリーグ戦の導入を進めているバスケットボールです。
千葉県では中学生の年代で部活動とクラブチームの両方が参加できるリーグ戦を開催しています。特に冬は、次の年度に向けて2年生以下が試合経験を積む機会にしてもらうのがねらいで、取材をすると、生徒たちは「全員でレベルアップしていけるのでリーグ戦のほうが好き」などと好評でした。
千葉県バスケットボール協会の15歳以下の部の山口健一部会長は「トーナメントのように一発で終わりではないので、勝ち負けだけにこだわらずにでき、生徒たちが試合を楽しむことができると思う」と話していました。
日本ハンドボール協会では『すべての子どもたちがワクワクすること』を重視し、生徒たちの試合経験を増やすことで、個々の成長やスポーツ本来の楽しさを実感できる大会を目指すとしています。
専門家「歴史的な転換点」
全国中学校体育大会=全中大会の実施競技縮小について、部活動に詳しい早稲田大学スポーツ科学学術院の中澤篤史教授は「歴史的な転換点だ。近年は大会が肥大化し、運営コストもかかり、大会の見直しが必要だという議論があったので、9競技廃止という決定に至ったのはやむをえないだろう。また『中学生で日本一を決める必要があるのか』とか、『全中大会があることで勝利至上主義が過熱するのでは』という批判の声もあり、中学校の大会のあり方全体を見直す重要なポイントになったと思う」と、改革の背景を指摘しました。
そして大会のあり方として、トーナメントでなくリーグ戦を取り入れる動きが出てきていることについて、中澤教授は「1つの改革の案だと思う。1回負けたら終わるトーナメントと違い、リーグ戦は、子どもが試合に出るチャンスが増え、『次の試合はこう取り組もう』と試行錯誤もできる。一方で課題もあり、リーグ戦になると試合数がトータルで増えるので運営するコストは上がり、1年中リーグ戦を行うと、休みがなくなってしまうことも考えられる」とメリット・デメリット両面をあげました。
そのうえで中澤教授は、スポーツの楽しみ方は多様であるべきだとし「交流を楽しむなど、スポーツの楽しみは試合結果だけに集約されるものではないはず。試合はスポーツの中心にあるものだが、スポーツをおもしろいと思える瞬間は試合だけではなく、『友達とおしゃべりしながら、スポーツしている時間が好き』という子どももいる。大会だけでは実現できない子どもの望みがあるかもしれないので、勝ち負けだけではないスポーツの可能性を探ってほしい」と大会のあり方だけではなく、子どものスポーツへの向き合い方についても、同時に考えていくべきだと指摘しました。
中学生のスポーツの全国大会、全国中学校体育大会で、少子化などを理由に2027年度以降実施されないことが決まった9つの競技のうち、7つの競技が普及や選手の強化などへの影響が大きいとして、替わりとなる大会の実施を検討していることがNHKの取材で分かりました。
1979年から開催されている全国中学校体育大会=全中大会は現在、20の競技が実施されていますが、中体連=日本中学校体育連盟は、少子化や教員の負担軽減などを理由に2027年度以降規模を縮小し、水泳やスケートなど、合わせて9つの競技を実施しないことを決めました。
これを受け、NHKが各競技団体に今後の対応などについて聞いたところ、普及や選手の強化への影響が大きく、中学生のモチベーションにもなっているなどとして、水泳、体操、新体操、ハンドボール、男子のソフトボール、アイスホッケー、スキーの合わせて7つの競技は、替わりとなる全国大会の実施を検討していることが分かりました。
このうち日本ハンドボール協会は、既存のクラブチーム対抗の大会に学校の部活動も参加できるようにし、全国一を競う形を残す方針です。そのうえで、全国大会の予選とならない、都道府県レベルの大会などではリーグ戦を導入する方向性を打ち出し、さまざまなレベルの生徒の試合経験を増やす取り組みも進める考えです。
一方、日本相撲連盟は中学生日本一を決める大会が別にあるとして「教員の負担軽減や勝利至上主義からの脱却、開催地の負担などを考えると全中大会での廃止はやむをえない」としています。
各競技団体は、少子化が進む中、いかに競技のすそ野を維持するか強い危機感を持つ一方で、代替大会の実施には会場の確保など費用負担も生じるため慎重な検討が必要となり、生徒の意欲や成長を第一に考えながら時代にあった大会を模索することが求められています。
“急速に進む少子化” ハンドボールの現状は
全国中学校体育大会=全中大会の実施競技縮小の大きな要因には、急速に進む少子化があります。
中体連=日本中学校体育連盟の調査によりますと、取りやめ対象の1つ、ハンドボールでは、この10年で全国の部員数が男子ではおよそ2000人、女子ではおよそ4500人減っていて、複数の学校で行う合同部活動の実施チーム数も今年度・2024年度は41チームで、10年前よりおよそ4倍に増えています。
東京 府中市の府中第三中学校では、女子のハンドボールの部員が現在、6人で、おととしの夏の大会で3年生が引退してから単独でチームが組めなくなりました。
それ以降は、平日は男子に交じって練習するなどし、大会は2校による合同チームで出場していました。
現在、キャプテンを務める2年生の中尾百花さんは当時について「女子だけでは練習でやれることが限られ、男子に混じって練習するのもきつくて大変でした。試合に出られなくなるかもしれないと思うと心配で、何のために練習しているのかなと思っていました」と振り返ります。
こうした状況を受けて去年、市内にもともとあった小学生のクラブチーム「府中ハンドボールクラブ」に中学女子のチームが新たに設けられ、府中第三中学校のほか、市内のほかの中学校などからも生徒が加入して、週末の練習や大会参加が行われるようになりました。
学校が複数にまたがり、全員集まるのが難しかったり練習場所を転々としたりという課題はありますが、人数が増えたことで実戦形式の練習ができるようになり、大会出場への不安もなくなったといいます。
中尾さんは「自分のチームとして大会に出られるのがとても楽しいし、勝ったときの喜びを得られることがうれしい。練習も試合のために頑張れるので、どんどんできることが増えていくのが楽しいです」と話していました。
おととしまで府中市の中学校で教員として勤務し、府中ハンドボールクラブの中学女子チームを立ち上げた長谷川喜一監督は「競技人口も減っているし、合同チームで出てくる学校も多くなっているので、いろいろな生徒が加入できるような環境にできればと思っている」と話していました。
“教員の負担軽減” 全中大会スキー競技の運営は
日本中学校体育連盟は、全国中学校体育大会=全中大会の実施競技を縮小する理由の1つとして大会運営に関わる教員の負担軽減を図ることをあげています。
ことし2月に長野県野沢温泉村で行われた全中大会のスキー競技の事務局は村の近隣の中学校などの教員合わせて5人で担っていました。大会が近くなれば事務局長は専従となるものの、ほかの4人は授業や学校業務の合間をぬって大会運営に携わっています。
選手団の受け入れ準備のほか、各都道府県から出される出場申込書の受け付けや確認、それにポスターの発送や問い合わせへの対応など、大会が終わるまでさまざまな業務が続くということです。
大会開幕をおよそ1週間後に控えたことし1月下旬には、滑走順を決める抽選会の業務が行われました。パソコンを使って抽せんを行ったあと、選手の順番や名前などを一人一人間違いがないか確認し、最後はほかの教員の手も借りながらビブスを都道府県ごとに仕分けるなど一日中、作業に追われていました。
野沢温泉中学校の教員で、全中スキー大会長野県実行委員会事務局の前澤健太事務局長は「事務局員の教員はふだんは自分のクラスを持っていたり、授業をしていたりするので、大会期間であればまるまる1週間、学校を空けることになる。そうすると別の方に授業をお願いしないといけないので、学校側も教員を運営に出しづらい実情がある」と語りました。
事務局では、全員が集まる日をできるだけ減らしたり、業務を削減したりして効率化を進めているということですが、前澤事務局長は「運営する立場から言うと確かに大変な部分はある。開催地だけに任せるのではなく、参加チームから運営員を出すなどして、みんなで協力して大会を作っていかないといけないのではないか」と改善を指摘していました。
“進学で重要” 水泳連盟は実施継続を模索
各競技団体の声からは、学校の部活動を中心とした今の中学生のスポーツのさまざまな実情がうかがえます。
日本水泳連盟は、全中大会での活躍は進学で重要になっている側面もあるとして、実施継続を模索し、仮に代替大会を設ける場合でも中体連と自治体の教育委員会が主催する枠組みは維持すべきだとしています。
日本スケート連盟は開催地の自治体と対応を検討中だとしています。
大会のあり方を大きく見直す動きも
一方で、トーナメント形式で日本一を決める全国規模の大会が勝利至上主義となり、過度な練習や指導者の体罰などにつながっているおそれもあるという指摘を踏まえ、今回を期に大会のあり方を大きく見直す動きも出ています。
日本ハンドボール協会は全中大会での実施が取りやめとなる中、既存のクラブチーム対抗の大会に学校の部活動も参加できるようにし、全国一を競う形を残す方針です。
一方で、全国大会の予選とならない都道府県レベルの大会などでは、トーナメント形式ではなくリーグ戦を導入する方向性を打ち出しました。
負ければ終わりのトーナメント形式では試合数も出場選手も限られますが、リーグ戦であれば多様な競技レベルのチームどうしが数多く対戦することで、多くの選手が出場機会を得ることができます。
参考にしたのが8年前から小中高の各年代でリーグ戦の導入を進めているバスケットボールです。
千葉県では中学生の年代で部活動とクラブチームの両方が参加できるリーグ戦を開催しています。特に冬は、次の年度に向けて2年生以下が試合経験を積む機会にしてもらうのがねらいで、取材をすると、生徒たちは「全員でレベルアップしていけるのでリーグ戦のほうが好き」などと好評でした。
千葉県バスケットボール協会の15歳以下の部の山口健一部会長は「トーナメントのように一発で終わりではないので、勝ち負けだけにこだわらずにでき、生徒たちが試合を楽しむことができると思う」と話していました。
日本ハンドボール協会では『すべての子どもたちがワクワクすること』を重視し、生徒たちの試合経験を増やすことで、個々の成長やスポーツ本来の楽しさを実感できる大会を目指すとしています。
専門家「歴史的な転換点」
全国中学校体育大会=全中大会の実施競技縮小について、部活動に詳しい早稲田大学スポーツ科学学術院の中澤篤史教授は「歴史的な転換点だ。近年は大会が肥大化し、運営コストもかかり、大会の見直しが必要だという議論があったので、9競技廃止という決定に至ったのはやむをえないだろう。また『中学生で日本一を決める必要があるのか』とか、『全中大会があることで勝利至上主義が過熱するのでは』という批判の声もあり、中学校の大会のあり方全体を見直す重要なポイントになったと思う」と、改革の背景を指摘しました。
そして大会のあり方として、トーナメントでなくリーグ戦を取り入れる動きが出てきていることについて、中澤教授は「1つの改革の案だと思う。1回負けたら終わるトーナメントと違い、リーグ戦は、子どもが試合に出るチャンスが増え、『次の試合はこう取り組もう』と試行錯誤もできる。一方で課題もあり、リーグ戦になると試合数がトータルで増えるので運営するコストは上がり、1年中リーグ戦を行うと、休みがなくなってしまうことも考えられる」とメリット・デメリット両面をあげました。
そのうえで中澤教授は、スポーツの楽しみ方は多様であるべきだとし「交流を楽しむなど、スポーツの楽しみは試合結果だけに集約されるものではないはず。試合はスポーツの中心にあるものだが、スポーツをおもしろいと思える瞬間は試合だけではなく、『友達とおしゃべりしながら、スポーツしている時間が好き』という子どももいる。大会だけでは実現できない子どもの望みがあるかもしれないので、勝ち負けだけではないスポーツの可能性を探ってほしい」と大会のあり方だけではなく、子どものスポーツへの向き合い方についても、同時に考えていくべきだと指摘しました。