スマートじゃない!? 新幹線ネット予約 障害者割引が適用されず2021年10月17日 19時00分:東京新聞 TOKYO Web https://t.co/XeAZHlcYdD
— Naoya Sano (@109Yoroshiku) October 17, 2021
JR東海などが新幹線で紙の切符を減らし、インターネット予約システムへの切り替えを進めている。このシステムを利用すれば一定程度、料金が安くなる一方、より安価になる障害者割引は適用されない。割引を受けるには、みどりの窓口まで行かなければならない。そんな不便な仕組みに対し、障害者から不満の声が上がっている。(宮畑譲)
◆バリアフリー逆行の「見本」
「ネットを使ったノーマライゼーションの見本になりうるのに、逆に差別の見本になっている。時代に逆行したシステムだ」。そう語るのは名古屋市内に住む歯科医師の男性(48)だ。脳血管の障害で両手指、両足に障害が残り、身体障害者第2種3級に認定された。
男性が怒りを向けるのは、JR東海がJR西日本と提供するネット予約システムだ。年会費無料の「スマートEX」、同1100円で割引率の高い「エクスプレス予約」の2種類がある。東海道新幹線と山陽新幹線が対象で、ネット予約すれば交通系ICカードなどで改札を通ることができる。今年8月末時点の登録者は約832万人に上る。
大きな特徴の一つが、割引を受けられる点だ。東京―名古屋間の「のぞみ」の指定席は通常、乗車券と特急券を合わせて1万1300円なのに対し、ネット予約システムを使えば1万310円~1万1100円となる。
一方で障害者の場合、これらとは別に割引される仕組みがある。JR東海では身体障害者が1人で乗車する場合、100キロ超で乗車券料金の5割を割り引く。そのため、東京―名古屋間で「のぞみ」の指定席に乗る場合、8000円余りで済む。
◆足が不自由「窓口行くのつらい」
先の男性が憤るのは、こうした障害者割引がネット予約システムに適用されていないからだ。毎回、みどりの窓口で障害者手帳を提示したうえ、紙の切符を購入しなくてはならない。
男性は介助がなくても歩けるが、足が不自由になり出歩くのは以前より負担に感じるようになった。みどりの窓口までわざわざ行くのはつらい。乗車日より前に切符を買おうとすると、なおのこと大変だ。みどりの窓口のある最寄り駅まで行くには、自宅からバスで往復1時間半かかる。
「ネット予約を使えれば、どれだけ楽になるか。それに窓口で自分の最もつらい過去を毎回伝えなくてよくなる。会員登録する際に障害者情報を入力すれば、解決する話なのに」
◆JR東海「現時点で導入予定なし」
男性はJR東海に何度も改善を求めているが、いつも回答は同じ。「ご要望いただいたサービスの実施は予定しておりません」。しびれを切らした男性は6月、株主の一人として書面で問いただしたが、JR東海は「障害者手帳の内容や乗車距離、介護者の有無により割引適用条件が異なる」などとして、実施予定はないと答えた。
「こちら特報部」があらためてJR東海に取材すると、「現時点では導入する予定はないが、課題として認識しており、検討を進めている」との回答だった。
やはり納得いかないのが、先の男性だ。
そもそもJR東海はネット予約の利用が広まっていることもあり「紙の切符離れ」を進めようとしている。具体的には東海道新幹線の指定席の回数券販売を来年3月に終了させる。男性は「JR自身が紙の切符はすでに時代遅れだと示した」と述べ「ネット予約システムに障害者割引を適用しないのは障害者排除だ」と語る。
◆航空大手は対応実施済み
JR東日本も新幹線のネット予約システムがあるが、身体障害者への対応はほぼ同じだ。
一方で、大手航空会社はネット予約で身体障害者の割引を実施。会員として情報を登録すれば、基本的には空港で障害者手帳を提示しなくても飛行機に乗ることができる。
日本航空(JAL)では、障害者手帳のコピーなどを送付した上で、障害者だと登録した会員カードをつくれば、全ての国内線で障害者割引が適用された運賃でネット予約できる。運賃割引は最大で48%。会員登録しない場合でも、ネットで予約、割引適用は受けられる。その場合は有人のカウンターで手帳を提示する必要がある。全日空(ANA)でも同様の運用が行われている。
先の男性はこうした航空会社の対応を引き合いに「JRが実施できない理由がわからない。運賃体系は航空会社のほうが複雑なはず。新幹線は利用者が多いからかもしれないが、面倒くさがっているとしか思えない」と憤る。
◆「なりすまし問題は防げる」
障害者団体でつくるDPI日本会議も以前から改善を申し入れており、佐藤聡事務局長も「JRはなりすましを恐れているのかもしれないが、手帳を登録すれば済む話だ。システム、仕組みを作ればよいだけのはずで、なぜできないのか不思議」と話す。
2016年施行の障害者差別解消法では、行政や事業者に不当な差別的取り扱いを禁じ、合理的配慮を求めている。今年5月に成立、3年後に施行の改正同法では、企業にも合理的配慮の提供を義務化する。
合理的配慮とは、事業者側などに過度な負担がない限り、障害者に対する障壁をなくすことを指す。ただ、東洋大の元教授で自身も車いすで生活する川内美彦さん(68)は「テクノロジーは進化していて、改良しようと思えばできるはずだ。なりすましへの対応は車掌が確認すればいい話だ」と断じ、JR側に過度な負担は生じないと考える。そして、「障害者がほかの人以上に努力しないと切符を取れないわけで、不当な差別的取り扱いに当たる」と指摘する。
さらに、川内さんはこういって現状を嘆く。
「情報技術は全ての人を同じスタートラインに立たせることができる有力な道具だというのは明白。ネットで予約して、タッチするだけで改札を通れる。そういう世界が目の前にあるのに。今まで以上に取り残された感じがある」
◆「もうけ第一という民営化の弊害」
国もICカードなどを使い、障害者の移動の利便性向上、割引の簡素化を各公共交通機関に通知を出して求めている。国土交通省バリアフリー政策課の担当者は「(JR東海のシステムが)合理的配慮に欠けるかは直ちに判断できないが、オンライン予約が普及する中で、障害者が取り残されることのないように対応してもらいたい。引き続き要請していく」と言う。
こうしたJR東海の対応の根本に「1987年の国鉄民営化に問題がある」とみるのは、評論家の佐高信さんだ。「障害者への配慮は社会の進歩とともに生まれてきた。しかし、JR東海は、そもそも社会とは、公共輸送はどうあるべきかを分かっていないから、障害者への対応も遅れてしまう」と批判し、こう続ける。「民営化によって、公共交通機関なのにもうけ第一という考え方になった。本来、公共輸送は利用者全般の利便性を考えたものでなくてはいけない」
◆デスクメモ 人員削減、不便にしたままで済ませるな
みどりの窓口と言えば、JR東日本が7~8割減らす方向で調整に入ったと報じられた。よく立ち寄る駅では既に廃止された。人員削減のためかもしれないが、利用者が別の窓口まで行く負担は小さくない。体が不自由な方々は特にそうだろう。不便にしたままで済ませてほしくない。(榊)