「ここまで追いかけて来るとは……思わなかったよ。どうやらあの子には……おまえが小さな生き物に……見えていたらしい」
「よくわからんが、理解できない存在が目の前に現れると、適当なイメージを存在に当てはめるらしいな」と、黒い獣が思案げに言いました。
「ほう。あの異人はワシを見ても……最初っからワシとわかっておったけどな」
「――知ったことか」
「ホッホッホッ……」と、樹王が目を細めて笑いました。
「――そのおかげで、リリは旅立つ決意ができたんだろ」
と、黒い獣が言うと、樹王がうれしそうに枝を揺らしました。
「俺もリリの歌が好きなんだ」と、黒い獣が言いました。「助けられて、よかったと思うよ」
「だから、次は俺も違う世界に送ってくれないか」
黒い獣が言うと、樹王がホッホッホッ……と笑い声を上げました。
「この砂漠だけでは、腹が膨れんか? だが上の世界に行っても……腹が膨れるほど食い物にあるつけるとは……限らんぞ」
「生き物の魂を食って生きているわけじゃないのは、知ってるだろ」と、黒い獣は言いました。「見てみたくなったんだ。ほかの世界をな――」
「決めたのか」と、樹王が言いました。「おまえの仕事はどうする。誰が落ち人の魂を……帰してやるのだ」
「仲間達がいる。心配するな」
「……」と、樹王は黙っていました。
「おまえも、深い根で繋がった別の世界の自分達が、どんな世界にいるのか、知りたいんだろ」と、黒い獣が言いました。「あちらこちらの世界で、自分と同じ存在が生きているのは感じていても、どんな世界に生きているのか、本当は知らないことぐらい、わかっているんだ」
と、樹王が言いました。
「――もしも別の世界に行けたとしても……またここに帰ってこられるとは……限らないんだぞ」
「ああ。その時は、根づいた場所で生きているおまえと一緒で、行った先の世界で生きていけばいいさ」と、黒い獣は言いました。「――自分に疑問を持つと、俺達はどうなってしまうんだろうな」
「ワシの気が変わらんうちに……その根の隙間に飛びこむのじゃ」と、樹王が言いました。「その先は、おまえ次第だ」
黒い獣が、わずかに笑ったように見えました。と、瞬く間に木枯らしが起き、黒い獣が霞のように消え去ると、樹王の根元にある狭い隙間に、小さな渦を巻いた風が、吸いこまれていきました。
「早く帰ってこい。友よ――」
樹王が、無言の雄叫びを上げるように、ワサワサと枝を揺らしました。
「よくわからんが、理解できない存在が目の前に現れると、適当なイメージを存在に当てはめるらしいな」と、黒い獣が思案げに言いました。
「ほう。あの異人はワシを見ても……最初っからワシとわかっておったけどな」
「――知ったことか」
「ホッホッホッ……」と、樹王が目を細めて笑いました。
「――そのおかげで、リリは旅立つ決意ができたんだろ」
と、黒い獣が言うと、樹王がうれしそうに枝を揺らしました。
「俺もリリの歌が好きなんだ」と、黒い獣が言いました。「助けられて、よかったと思うよ」
「だから、次は俺も違う世界に送ってくれないか」
黒い獣が言うと、樹王がホッホッホッ……と笑い声を上げました。
「この砂漠だけでは、腹が膨れんか? だが上の世界に行っても……腹が膨れるほど食い物にあるつけるとは……限らんぞ」
「生き物の魂を食って生きているわけじゃないのは、知ってるだろ」と、黒い獣は言いました。「見てみたくなったんだ。ほかの世界をな――」
「決めたのか」と、樹王が言いました。「おまえの仕事はどうする。誰が落ち人の魂を……帰してやるのだ」
「仲間達がいる。心配するな」
「……」と、樹王は黙っていました。
「おまえも、深い根で繋がった別の世界の自分達が、どんな世界にいるのか、知りたいんだろ」と、黒い獣が言いました。「あちらこちらの世界で、自分と同じ存在が生きているのは感じていても、どんな世界に生きているのか、本当は知らないことぐらい、わかっているんだ」
と、樹王が言いました。
「――もしも別の世界に行けたとしても……またここに帰ってこられるとは……限らないんだぞ」
「ああ。その時は、根づいた場所で生きているおまえと一緒で、行った先の世界で生きていけばいいさ」と、黒い獣は言いました。「――自分に疑問を持つと、俺達はどうなってしまうんだろうな」
「ワシの気が変わらんうちに……その根の隙間に飛びこむのじゃ」と、樹王が言いました。「その先は、おまえ次第だ」
黒い獣が、わずかに笑ったように見えました。と、瞬く間に木枯らしが起き、黒い獣が霞のように消え去ると、樹王の根元にある狭い隙間に、小さな渦を巻いた風が、吸いこまれていきました。
「早く帰ってこい。友よ――」
樹王が、無言の雄叫びを上げるように、ワサワサと枝を揺らしました。