「リリ……」と、サトルは自分の顔を覗きこんでいるリリに、どうしたの、と言おうとしましたが、自分が天馬から落ちた事を思い出すと、はっと我に返って体を起こし、あわてて辺りを見回しました。
「ここは……」
サトルがいるところは、空の上ではありませんでした。天馬は、草原の上で横になっていたサトルが動き出すと、やっと目が覚めたか、とでも言いたげに、もさもさと茂った草をおいしそうに食みながら、大きくブルルッ、と鼻息をつきました。
「……ここは、どこ」と、サトルは、心配そうに顔をのぞかせているリリの手を握ると、立ち上がりました。
二人の目の前には、一軒の家が建っていました。森の外れに、でんと大きな門を構えたその家は、二階建てで、なにやら看板らしき物が掲げてありました。
サトルは、看板の字を読もうとしましたが、黒と黄色の縞模様でよくわからず、リリと一緒に、近づいて行きました。
二階建ての家の前まで来たサトルは、やっと看板に書いてある文字を読む事ができました。それには、“おいしい空気製造会社”と書いてありました。サトルは、変な会社もあるもんだなぁ、と思いながら、いぶかしげに、家を上から下まで注意して見ていきました。
会社だというのに、人は一人もおらず、もしかすると、休みの日ではないか、とも考えましたが、まさかねむり王のイタズラであるはずもなく、サトルは「うん」とうなずくと、二階にある出入口と書かれたドアに向かって、階段を上っていきました。
「大丈夫だよ……心配しないで……」と、サトルは、おびえて腕を引っ張っているリリに言いました。「ぼくにまかせて――」
サトルは、出入口の前まで来ると、トントントン、と軽くドアを叩いてみました。しかし、いくら待っても、返事はありませんでした。サトルは、薄暗い部屋を写しているガラス窓に、そーっと顔を近づけました。
リリが、そんなこと止めなさい、と言うようにサトルの服を何度も引っ張りましたが、サトルは窓に顔を張りつけるようにして、部屋の中を覗きこみました。
「……ちぇっ、ほんとに誰もいないみたいだ――」
と、いきなりサトルの耳元で、カミナリのような大きな声が聞こえました。
「こらー! 貴様そんなとこでなにしとるんか。働きたいなら、大きな声で工場長を呼べと言っといただろうが! ……まったくあいつも役にたたんわい……。さ、入った入った……」
サトルはびっくりして、手すりに倒れかかったまま、目をまん丸くしていましたが、やっと人に会えたので、男の人が手招きするまま、部屋の中に入っていきました。
「ほら……なにしとるんか。さ、そこに座りなさい……」と、男の人が、大きな野太い声で二人に椅子をすすめました。リリは、サトルの背中でこそこそして、なかなか椅子に座ろうとしませんでしたが、サトルにうながされて、やっと三人が椅子に落ち着きました。
「君達ねー。ウチはこれで、なかなかいそがしいんだよ。それは聞いてきたんだろうねー。まぁ、こんなしがない商売をやっとるが、私の仕事以上に、世の中に貢献しとるもんもなかろうよ……。見た目も変わってるし、ちょっと若すぎるようじゃが、やる気さえあれば気にはせん。ようは、おまえさん達の働きしだいだ……」
「ここは……」
サトルがいるところは、空の上ではありませんでした。天馬は、草原の上で横になっていたサトルが動き出すと、やっと目が覚めたか、とでも言いたげに、もさもさと茂った草をおいしそうに食みながら、大きくブルルッ、と鼻息をつきました。
「……ここは、どこ」と、サトルは、心配そうに顔をのぞかせているリリの手を握ると、立ち上がりました。
二人の目の前には、一軒の家が建っていました。森の外れに、でんと大きな門を構えたその家は、二階建てで、なにやら看板らしき物が掲げてありました。
サトルは、看板の字を読もうとしましたが、黒と黄色の縞模様でよくわからず、リリと一緒に、近づいて行きました。
二階建ての家の前まで来たサトルは、やっと看板に書いてある文字を読む事ができました。それには、“おいしい空気製造会社”と書いてありました。サトルは、変な会社もあるもんだなぁ、と思いながら、いぶかしげに、家を上から下まで注意して見ていきました。
会社だというのに、人は一人もおらず、もしかすると、休みの日ではないか、とも考えましたが、まさかねむり王のイタズラであるはずもなく、サトルは「うん」とうなずくと、二階にある出入口と書かれたドアに向かって、階段を上っていきました。
「大丈夫だよ……心配しないで……」と、サトルは、おびえて腕を引っ張っているリリに言いました。「ぼくにまかせて――」
サトルは、出入口の前まで来ると、トントントン、と軽くドアを叩いてみました。しかし、いくら待っても、返事はありませんでした。サトルは、薄暗い部屋を写しているガラス窓に、そーっと顔を近づけました。
リリが、そんなこと止めなさい、と言うようにサトルの服を何度も引っ張りましたが、サトルは窓に顔を張りつけるようにして、部屋の中を覗きこみました。
「……ちぇっ、ほんとに誰もいないみたいだ――」
と、いきなりサトルの耳元で、カミナリのような大きな声が聞こえました。
「こらー! 貴様そんなとこでなにしとるんか。働きたいなら、大きな声で工場長を呼べと言っといただろうが! ……まったくあいつも役にたたんわい……。さ、入った入った……」
サトルはびっくりして、手すりに倒れかかったまま、目をまん丸くしていましたが、やっと人に会えたので、男の人が手招きするまま、部屋の中に入っていきました。
「ほら……なにしとるんか。さ、そこに座りなさい……」と、男の人が、大きな野太い声で二人に椅子をすすめました。リリは、サトルの背中でこそこそして、なかなか椅子に座ろうとしませんでしたが、サトルにうながされて、やっと三人が椅子に落ち着きました。
「君達ねー。ウチはこれで、なかなかいそがしいんだよ。それは聞いてきたんだろうねー。まぁ、こんなしがない商売をやっとるが、私の仕事以上に、世の中に貢献しとるもんもなかろうよ……。見た目も変わってるし、ちょっと若すぎるようじゃが、やる気さえあれば気にはせん。ようは、おまえさん達の働きしだいだ……」