サトルは、まじまじと葉っぱを見ると、憎々しげに粉みじんに引き裂きました。そして、宙にぶちまけて、
「うそつき。リリはぼくのいた異世界に、行ったことがあるって言ってたじゃないか。 ぼくを戻せないなんて、嘘だよ」
「――わたしは、わたしは」と、リリは泣きそうになりながら、言いました。「もう、あなたのいた世界には行けない……今度行ってしまうと……わたし、二度とドリーブランドに戻ってこれなくなるもの」
リリは、ワッと泣き出すと、ごめんなさいと謝りながら、工場の奥へ走って行ってしまいました。一人残されたサトルは、唇をギュッと噛みしめたまま、まんじりともせず、リリの走って行った方を、くやしそうに見ていました。
突然リリのいなくなった広場は、急に静かになってしまいました。リリの歌を聞きに集まっていた仲間達は、目が覚めたように、それぞれの場所に戻っていきました。最後に残ったのは、行き場のないサトルだけでした。
サトルは、それからというもの、工場長の家で、日がな一日泣いてばかりいました。リリが運んでくれる食事も断り、カーテンも閉め切ったままで、決して外に出ようとはしませんでした。リリも、そんなサトルをじっと見ていて、もしも自分がサトルのいた世界へ行ってあげられたら……と、自分の弱さに目をうるませました。
リリは、できることなら、今すぐにでもサトルを連れて行ってあげたかったのです。しかし、サトルのいる世界では、あまりにも悲しみが多すぎるのでした。リリには、その悲しみに耐えられるだけの力は、ありませんでした。
工場長も、サトルを見て、これじゃ使いもんにならん、と不機嫌でしたが、リリがどうしても置いてあげてください、と頼むので、このまましばらく、家に置いておくことにしました。しかし内心は、サトルの事が心配で心配で、しょうがなかったのです。
ある日、
(くそっ……ぼくが元に戻れないなんて……。くそっ……ぼくが元に戻れないなんて……)
サトルは、もうすっかり涙を流しきってしまったのか、もうほとんどすすり泣く声も上げず、ただベッドに横になったまま窓の外を眺めて、しきりにブツブツと、心の中でつぶやいていました。
と、そこへ仕事を途中で抜け出してきたリリが、ギギーッと戸の音をさせて、サトルの部屋に入ってきました。
「リリ……」と、サトルがはれぼったい顔で、力なく振り向きました。
「サトル、帰りましょう。あなたの世界へ行くわ。――さぁ、わたしの手をつかんで」と、リリはきびしい表情をして、サトルにそっと手を伸ばしました。
サトルは戸惑いながら、リリの手を握りました。と、リリが、そっと目を閉じました。すると、サトルを取り巻いていた景色が、みるみるうちに、まるで絵の具をでたらめに流したようにごちゃごちゃになって、グルグルと、ものすごい早さで回り始めました。
「リリ……」と、サトルは、リリがだんだんと苦しそうな表情をしていくのを見て、言いました。
(あの子は、たくさんの悲しみを見すぎたのだ――)
「うそつき。リリはぼくのいた異世界に、行ったことがあるって言ってたじゃないか。 ぼくを戻せないなんて、嘘だよ」
「――わたしは、わたしは」と、リリは泣きそうになりながら、言いました。「もう、あなたのいた世界には行けない……今度行ってしまうと……わたし、二度とドリーブランドに戻ってこれなくなるもの」
リリは、ワッと泣き出すと、ごめんなさいと謝りながら、工場の奥へ走って行ってしまいました。一人残されたサトルは、唇をギュッと噛みしめたまま、まんじりともせず、リリの走って行った方を、くやしそうに見ていました。
突然リリのいなくなった広場は、急に静かになってしまいました。リリの歌を聞きに集まっていた仲間達は、目が覚めたように、それぞれの場所に戻っていきました。最後に残ったのは、行き場のないサトルだけでした。
サトルは、それからというもの、工場長の家で、日がな一日泣いてばかりいました。リリが運んでくれる食事も断り、カーテンも閉め切ったままで、決して外に出ようとはしませんでした。リリも、そんなサトルをじっと見ていて、もしも自分がサトルのいた世界へ行ってあげられたら……と、自分の弱さに目をうるませました。
リリは、できることなら、今すぐにでもサトルを連れて行ってあげたかったのです。しかし、サトルのいる世界では、あまりにも悲しみが多すぎるのでした。リリには、その悲しみに耐えられるだけの力は、ありませんでした。
工場長も、サトルを見て、これじゃ使いもんにならん、と不機嫌でしたが、リリがどうしても置いてあげてください、と頼むので、このまましばらく、家に置いておくことにしました。しかし内心は、サトルの事が心配で心配で、しょうがなかったのです。
ある日、
(くそっ……ぼくが元に戻れないなんて……。くそっ……ぼくが元に戻れないなんて……)
サトルは、もうすっかり涙を流しきってしまったのか、もうほとんどすすり泣く声も上げず、ただベッドに横になったまま窓の外を眺めて、しきりにブツブツと、心の中でつぶやいていました。
と、そこへ仕事を途中で抜け出してきたリリが、ギギーッと戸の音をさせて、サトルの部屋に入ってきました。
「リリ……」と、サトルがはれぼったい顔で、力なく振り向きました。
「サトル、帰りましょう。あなたの世界へ行くわ。――さぁ、わたしの手をつかんで」と、リリはきびしい表情をして、サトルにそっと手を伸ばしました。
サトルは戸惑いながら、リリの手を握りました。と、リリが、そっと目を閉じました。すると、サトルを取り巻いていた景色が、みるみるうちに、まるで絵の具をでたらめに流したようにごちゃごちゃになって、グルグルと、ものすごい早さで回り始めました。
「リリ……」と、サトルは、リリがだんだんと苦しそうな表情をしていくのを見て、言いました。
(あの子は、たくさんの悲しみを見すぎたのだ――)