しかし、サトルの決心とは裏腹に、森の木々の中には、どうもサトル達が気に入らないらしく、抗議の意味で枯れ枝を頭上に落としてくる者がありました。工場長は、サトル達が会社を辞めると言い出しては大変と、不満そうな木に説明しましたが、こんな子供になにができるんだ、と言いたげな木は、ムスッと天に向かって枝を張り、じっと立っているだけでした。
サトルとリリは、次の日から、夢見の町にある工場長の家に寝泊まりして、毎日“おいしい空気製造会社”の工場に通って、熱心に働きました。
夢見の町は、工場から少し下がったところにある、小さな町でした。しかし、小さいとはいっても、人はたくさん住んでおり、一見する限り、希望の町よりも、多くの人が住んでいるようでした。
町の人々も、希望の町の人々とは違い、手に鍬や鋤を持った人などはおらず、どうもパリッとした背広のような服を着て、黒い革の鞄を持ち、せわしなく町の中を行き来していました。建っている家の形も様々で、色使いや設計に凝ったものが、多くありました。
夢見の町にある工場長の家は、町の中でも立派な家らしく、まるで工場長に生き写しのように、通りの真ん中にでん、と建てられていました。家には、工場長よりも少し若そうな奥さんがいて、二人の子供がありました。工場長は、この奥さんには頭が上がらないらしく、サトルが夜中に、ケンカの声で目が覚めることが度々ありました。
サトルは、そんな眠れない夜に、こっそりと樹王からもらった葉を、星明かりに照らして見ることがありました。
(このおかげで、ぼく達はこの町にやってこられたんだ)
と、しげしげと葉を眺めるのでした。
しかしサトルは、樹王の葉が、だんだんとしおれていくような気がしていました。工場長やリリにはなにも言いませんでしたが、夜中にこっそりと、わずかにしおれ黄ばんでいく葉っぱを見て、また自分が、死の砂漠に落ちてしまうかもしれない、と不安を抱いていました。
二人が一緒に働くようになってから、はやくも7日が過ぎていました。サトルは、昼休みに事務所に備えつけられた業務日誌をつけながら、このところ目に見えて明るくなったリリのことを、考えていました。
(……樹王は、リリを助けることができるなら、ぼくの世界に帰る事ができるだろう、と言っていたけれど、このしおれてしまった葉っぱを、元に戻すことができるんだろうか……。そうだな、ま、怖がってもしょうがないし、もうここが、ぼくの落ちてきたドリーブランドだって事はわかったけど、リリがだんだん元気になってきたようだから……うん。もう少しここにいよう――)
サトルは、ぱたんと日誌を閉じると、午後の仕事に向かいました。
「リリー! リリー!」と、サトルは、交代で昼食をとる時間だよ、と教えるために、姿の見えないリリを呼びました。「――あれ、おかしいなぁ」
サトルは、暗い森の奥に入っていきました。しかし、リリの姿は見つかりませんでした。サトルは、なにかあったのか、と思い、小走りに森の中を探しました。
サトルとリリは、次の日から、夢見の町にある工場長の家に寝泊まりして、毎日“おいしい空気製造会社”の工場に通って、熱心に働きました。
夢見の町は、工場から少し下がったところにある、小さな町でした。しかし、小さいとはいっても、人はたくさん住んでおり、一見する限り、希望の町よりも、多くの人が住んでいるようでした。
町の人々も、希望の町の人々とは違い、手に鍬や鋤を持った人などはおらず、どうもパリッとした背広のような服を着て、黒い革の鞄を持ち、せわしなく町の中を行き来していました。建っている家の形も様々で、色使いや設計に凝ったものが、多くありました。
夢見の町にある工場長の家は、町の中でも立派な家らしく、まるで工場長に生き写しのように、通りの真ん中にでん、と建てられていました。家には、工場長よりも少し若そうな奥さんがいて、二人の子供がありました。工場長は、この奥さんには頭が上がらないらしく、サトルが夜中に、ケンカの声で目が覚めることが度々ありました。
サトルは、そんな眠れない夜に、こっそりと樹王からもらった葉を、星明かりに照らして見ることがありました。
(このおかげで、ぼく達はこの町にやってこられたんだ)
と、しげしげと葉を眺めるのでした。
しかしサトルは、樹王の葉が、だんだんとしおれていくような気がしていました。工場長やリリにはなにも言いませんでしたが、夜中にこっそりと、わずかにしおれ黄ばんでいく葉っぱを見て、また自分が、死の砂漠に落ちてしまうかもしれない、と不安を抱いていました。
二人が一緒に働くようになってから、はやくも7日が過ぎていました。サトルは、昼休みに事務所に備えつけられた業務日誌をつけながら、このところ目に見えて明るくなったリリのことを、考えていました。
(……樹王は、リリを助けることができるなら、ぼくの世界に帰る事ができるだろう、と言っていたけれど、このしおれてしまった葉っぱを、元に戻すことができるんだろうか……。そうだな、ま、怖がってもしょうがないし、もうここが、ぼくの落ちてきたドリーブランドだって事はわかったけど、リリがだんだん元気になってきたようだから……うん。もう少しここにいよう――)
サトルは、ぱたんと日誌を閉じると、午後の仕事に向かいました。
「リリー! リリー!」と、サトルは、交代で昼食をとる時間だよ、と教えるために、姿の見えないリリを呼びました。「――あれ、おかしいなぁ」
サトルは、暗い森の奥に入っていきました。しかし、リリの姿は見つかりませんでした。サトルは、なにかあったのか、と思い、小走りに森の中を探しました。