「ここが、私の工場だ。見たまえ――」
「えっ?」と、サトルが耳を疑うように言いました。「これの、どこが工場なんですか」
工場長が指し示したのは、ただの大きな広い森でした。サトルは、なにか秘密の入口でもあるのか、と思ってよく見ましたが、まったくそういった気配もなく、本当にただの、どこにでもあるような森でした。
「ハッハッハッ……。あたり前じゃないか、これはただの森だよ」と、工場長は大笑いして言いました。サトルは、からかわれているのかと思って、怒って言いました。
「すみませんが、冗談もその辺にしておいてください――」
「いや、悪かった。これはな、ただの森だ。だが、ただの森じゃない」と、工場長は言いました。「じつはな、ここで、空気を作っておるのだ――」
「空気?」と、サトルが確かめるように言いました。
「そう、空気だ。今はな、みんなが料理をしたり、暖をとったりするのに物を燃やしてな、夢見の町では、空気が焦げ臭くて困っとるんじゃ。それでな、私はなにもない荒れ地に木を呼んで、ここで、おいしい空気を作っとるんじゃ」
「木を、植えるんじゃなくて、呼ぶ、んですか?」と、サトルは訳がわからんという顔で、言いました。
「そうじゃよ。働いてくれそうな木を見つけてな、どうだ、一緒に働かんか、と話しかけるんじゃ。すると、仕事に興味を持ったやつは、夜のうちに私の土地に根を下ろしてな、もちらん、雇用条件はばっちりじゃ。おいしい空気を作ってもらう代わりに、特別従業員達が下草を取ったり、肥料の供給も万全。おまけに、山から湧き出るおいしいミネラルウォーターの散布と、木肌の手入れにも目を配ってな、至れり尽くせりじゃ」
「――特別従業員って、もしかしてその仕事をやるんですか」
「いやいや、勘違いしちゃいかんよ。森の木の世話をするのは、虫や動物、それに妖精達じゃよ。彼らがいなければ、私の商売も成り立たん」
サトルは、ふーんと森を見ながら話を聞いていましたが、自分はなんの仕事をするのか、聞いてみました。
「そうそう。君達にはな、私の工場で働く従業員――まあ、森の木々だがね、彼らの見回りをやってもらいたいんだ。どうにも、工場の従業員達は、真面目なのはいいんだが、あまりに無口での。いつも見回っとらんと、異状が起こってもわからんのだ……」
工場長は、サトルとリリを連れて工場に入ると、二人に仕事の内容や、従業員の何人かについて、くわしく説明してくれました。工場はかなり広くて、これでは工場長が、なんとしても従業員を雇わなければならないのが、よくわかりました。サトルは、しばらくの間ここで働いて、この土地や町のことなどを訪ねて歩き、本当に自分達が元の場所に戻ってきたのか、確かめようと考えていました。
(よし、がんばるぞ……)
と、サトルは、内ポケットにしまった樹王の葉をそっと上から押さえました。
「えっ?」と、サトルが耳を疑うように言いました。「これの、どこが工場なんですか」
工場長が指し示したのは、ただの大きな広い森でした。サトルは、なにか秘密の入口でもあるのか、と思ってよく見ましたが、まったくそういった気配もなく、本当にただの、どこにでもあるような森でした。
「ハッハッハッ……。あたり前じゃないか、これはただの森だよ」と、工場長は大笑いして言いました。サトルは、からかわれているのかと思って、怒って言いました。
「すみませんが、冗談もその辺にしておいてください――」
「いや、悪かった。これはな、ただの森だ。だが、ただの森じゃない」と、工場長は言いました。「じつはな、ここで、空気を作っておるのだ――」
「空気?」と、サトルが確かめるように言いました。
「そう、空気だ。今はな、みんなが料理をしたり、暖をとったりするのに物を燃やしてな、夢見の町では、空気が焦げ臭くて困っとるんじゃ。それでな、私はなにもない荒れ地に木を呼んで、ここで、おいしい空気を作っとるんじゃ」
「木を、植えるんじゃなくて、呼ぶ、んですか?」と、サトルは訳がわからんという顔で、言いました。
「そうじゃよ。働いてくれそうな木を見つけてな、どうだ、一緒に働かんか、と話しかけるんじゃ。すると、仕事に興味を持ったやつは、夜のうちに私の土地に根を下ろしてな、もちらん、雇用条件はばっちりじゃ。おいしい空気を作ってもらう代わりに、特別従業員達が下草を取ったり、肥料の供給も万全。おまけに、山から湧き出るおいしいミネラルウォーターの散布と、木肌の手入れにも目を配ってな、至れり尽くせりじゃ」
「――特別従業員って、もしかしてその仕事をやるんですか」
「いやいや、勘違いしちゃいかんよ。森の木の世話をするのは、虫や動物、それに妖精達じゃよ。彼らがいなければ、私の商売も成り立たん」
サトルは、ふーんと森を見ながら話を聞いていましたが、自分はなんの仕事をするのか、聞いてみました。
「そうそう。君達にはな、私の工場で働く従業員――まあ、森の木々だがね、彼らの見回りをやってもらいたいんだ。どうにも、工場の従業員達は、真面目なのはいいんだが、あまりに無口での。いつも見回っとらんと、異状が起こってもわからんのだ……」
工場長は、サトルとリリを連れて工場に入ると、二人に仕事の内容や、従業員の何人かについて、くわしく説明してくれました。工場はかなり広くて、これでは工場長が、なんとしても従業員を雇わなければならないのが、よくわかりました。サトルは、しばらくの間ここで働いて、この土地や町のことなどを訪ねて歩き、本当に自分達が元の場所に戻ってきたのか、確かめようと考えていました。
(よし、がんばるぞ……)
と、サトルは、内ポケットにしまった樹王の葉をそっと上から押さえました。