フーララヒー ヒララー ラララ……
と、なにか風の音のような者が聞こえてきました。サトルは、黙って耳を澄ませましたが、風の音にしては、なにか音階のはっきりした。こう言っていてもいいのなら、歌のようでした。サトルは、誰か特別従業員の一人が、鼻歌でも歌っているんだろう、とまたリリを探しに行こうとしました。けれど、サトルの心のどこかで、もっとこの歌を聴いていたい、という強い思いが湧き起こり、いつの間にか目をつぶって、すっかり聞き入ってしまいました。サトルは、ふんわかとした素晴らしいものに出会ったような気がして、歌の聞こえる方へ、ゆっくりと引かれるように歩いて行きました。
(リリを……探さなきゃ……)
しかしサトルの体は、真っ直ぐにその歌声の方へ歩いて行くのでした。サトルは、見えないものに引かれるまま、工場の奥まった所にある、テーブルのように大きな岩石が置かれた場所にやって来ました。そこには、サトル以外にも、工場で働いているいろいろな特別従業員で溢れていました。
「あれっ?」と、サトルは目を疑いました。
大岩の上に座って、美しい歌を歌っていたのは、見たこともない女の人でした。その周りには、蝶の羽をした妖精が輪舞し、キツネやクマ、それにウサギや昆虫達までもが、ケンカをすることもなく、おとなしく女の人の歌声に耳を澄ませていました。従業員である大きな木々達も、歌にすっかり聴き入っているらしく、ピーンと立ったまま、風に揺れる梢も、サワサワと、心なしか遠慮がちでした。
「――サトル!」と、女の人が笑いながら手を振りました。
「えっ?」と、サトルはどうして女の人が自分の名前を知っているのか、首を傾げました。
「わたし、やっと元の姿に戻ることができたの。ありがとう――」と、女の人が、そっとサトルに近づいてきて、手を取りながら言いました。
サトルは、よく理解できないのと照れくさいのとで、顔を真っ赤にしていましたが、おずおずとした口調で言いました。
「あ、あの……なんでぼくの名前を……」
サトルが言うと、女の人はクスッと笑って言いました。
「わたしは、リリ。あなたと、ずっと一緒に旅していたわ……」
「……」と、サトルは信じられないという顔で、よくよく女の人を見てみました。どこか、自分の知っている特徴でもあるだろうか、と思ったからでした。
「あっ、そういえばその作業着――」
サトルが指をさすと、元の姿に戻ったリリが「うん」とうなずきました。