くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(111 終)

2020-07-23 15:32:40 | 「地図にない場所」
         11
 サトルは、円盤ムシが飛び上がってから、ぐんぐんと小さくなっていくドリーブランドを、丸い窓から見つめていました。
 冴えるようなグリーンの星が、宇宙の中のぽつんとした点になると、サトルは円盤ムシの部屋の隅っこで、膝に顔を埋めて座りました。
 別に、なにが悲しいというわけではありませんでした。せっかく友達になった人達と別れるのは、つらいことでしたが、サトルは、もっと大きな所で、ぽっかりと心に穴が開いてしまったようでした。
 ドリーブランドと、地球――。サトルはそう考えると、なぜかドリーブランドに残っていた方がよかったのではないか、と後悔に似た気持ちがするのでした。
 地球に帰っても、サトルが本当に帰りたい、と願っていたままか、もしかすると、こんな所になんかいたくない、とがっかりしてしまうのか……。
 サトルは、しかしいくら考えても、答えは出ませんでした。
(悲しみが多いところ……)と、確かリリは、そう言っていたように思いました。
 そういえば、ドリーブランドで会った人達と、サトルの住む地球の人達は、見た目はそっくりでも、もっと大切な物が、大きく違っているように思いました。
 サトルにはそれが、のど元まで出かかっていましたが、がんばってもそこまでで、決して言葉になって出てきませんでした。

 パチン……。

 サトルは、風博士からもらった機械のスイッチを、探るようにひねりました。
 と、キューハハ……ハ……という耳障りな音が出て来たかと思うと、すぐに後から、女の人の声がしてきました――。
 “ハァイ! こちら銀河放送局。今回もあなたに送るハートのメッセージ……”
 “お送りするのは、あなたの恋人、DJエス……それではまず……”
 “ドリーブランドの風博士より、メンタルレター……サトル君へ、私には君が流れ星に見える……いろいろあったが、私は君を異人ではなく、普通の人と――認めるよ……それじゃ、よい旅を”
 サトルは、風博士のメッセージを聞いて顔を上げ、くすりと笑いました。そして、窓の外を、ちらりと見ました。
 “さぁ! それでは、たった今出たばかりのリリの新曲。夢の彼方に……”
「――リリ?」と、サトルは思わず、驚いて声を上げました。

 広く果てない輝く空に
 私は翼を広げ飛んでいく
 そこは無幻の生命の世界
 私は自由になって流れ星を探すの
 願いを叶えてくれる私だけの宝物
 悲しみを 笑顔に変える私だけの不思議な力

 夢の彼方に あなたはいるの――
 夢の彼方に 私はいるの――

 けれど そこは遠く果てしない所
 決して道はない

 そう そこは遠い遠い所
 でも 心の架け橋は いつまでも繋がっているの

 わたしと
 あなたと

――――

 サトルは、リリの歌を聞きながら、
 窓の外を覗き、もう決して行くことのないであろうドリーブランドが、なぜか自分のすぐ近くに、いつでもあるような気がするのでした。
 いつでも、すぐにでも会いに行ける。
 そう、夢の彼方に……。

コメント
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