くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(108)

2020-07-20 19:42:09 | 「地図にない場所」
「ちっきしょう!」
 と、サトルは言い様、博士が落としたロープを拾うと、素早く輪を作り、勢いよく空を上っていく深空魚に向かって、投げつけました。
 輪を結ったロープは、空を飛ぶ黒い帯のような深空魚の胸びれに掛かり、ロープを握っているサトルを、軽々と宙に舞い上げました。
「サトル君、無理してはいかんっ――」
「博士! 今、行きます……」
 サトルは、ロープを登りつめると、ちょっとでも油断すれば滑り落ちてしまいそうな深空魚の背中に、しっかりとしがみついて這い上り、博士を咥えている深空魚のあごまで、やって来ました。

「博士っ!」

「――サトル君、ここにナイフがある。これで、袋のひもを切ってくれ」

 博士はポケットからナイフを出すと、手を伸ばすサトルにやっとの事で渡しました。
 サトルは、博士からナイフを受け取ると、言われたとおり、袋のひもをゴシゴシと切り断ちました。 
 バツン――という音と共にひもが切れ、サトルは自由になった博士の手をつかむと、深空魚の背中に引き上げようとしました。しかしその途端、深空魚は急に体をねじり、博士は、サトルになにやら訴えるような視線を向けたまま、地の底の果てしのない谷に落ちていきました。

「ハカセーッ!」

 あっという間に小さくなっていく博士を、しかし白い稲妻が助け上げました。それは、リリが操った天馬でした。サトルは、天馬が谷を怖がっていたのに、なぜ? と思いましたが、見ると天馬の目に、しっかりと布で目隠しがしてありました。

「――サトルー! 乗ってー!」

 と、深空魚の牙をかわしながら、天馬がサトルの元へ駆けていきました。サトルは、すれ違い様に手綱を受け取ると、そのまま背中にまたがり、谷を上へ上へと戻って行きました――。
 ――パチッパチッ、と小気味のいい音を立てている火のそばに、サトルとリリ、そして風博士が、沈鬱な表情で座っていました。
 風博士のそばには、風の音を受信する機械が、無残にも中の機械をむき出しにして、転がっていました。サトルは、火に時折枯れ枝をくべながら、ため息をつき、その度に、周りの空気が少しずつ淀んでいくように、感じられました。
コメント
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