それぞれに届いた2通目の手紙は郵送だった。
自宅ポストに投げ込むのはリスクがあると考えたのだろう。
封筒は市役所が市民に送る際の茶封筒、
中身はA4の安いプリント用紙だ。
文字はゴシックで、紙の上部に数行、やや曲がって印刷してある。
文面は、1通目よりも、さらに幼稚だった。
奥さんに届いた内容は、
旦那は○月○日も花の寺のおばさんと車に乗ってるよ。
見られてるとも、知らないで。2人で昼顔のドラマきどりだね。
友達が写メとっていて笑った。見たかったら送るよ。
旦那に不倫されてお気の毒さま。
・・ともう少し続きがある。
私に届いたものは、
人の旦那に、手を出していい気なもんだね。
○月○日の○時ころ駐車場で、人の旦那といるの見たよ。
写メあるから送ろうか。昼顔のドラマを見すぎだよ。
・・ともう少し。
「昼顔」?
上戸彩と斎藤工が出て視聴率をとったやつか。
そのドラマを、私は一度も見たことがない。
「昼顔」のタイトルが気に入らなくて、見る気もしなかった。
ケッセルの小説は高校生の時に読んだことがある。
カトリーヌ・ドヌーブ主演の映画も観たことはある。
医者の妻が、暇つぶしと好奇心で昼間だけ娼婦になり、
昼しか店に来ないから、源氏名を「昼顔」にした。
あれは不倫ではなく、
ふらっと娼婦をやってみた、ちょっとマゾなアホ女の話だ。
小説も映画もつまらない愚作だ。
映画に出てくる客達の風貌にはゾッとした。
あれとするのか娼婦となれば。
フランス映画の「昼顔」のタイトルをパクって、
オシャレで切ないニュアンスにでも包み込んだつもりの、
若い子のああだのこうだのつまらん不倫ドラマなど、
どこが面白くて大人が見るのだ。
後で確かめると、
小沢くんはタイトルすら知らず、奥さんも見ていないそうだ。
両方の手紙に、
昼顔のドラマきどり、昼顔のドラマの見過ぎ、と書いてあるから、
手紙の送り主は相当夢中になって見ていただろうし、
ドラマの主役らと同世代なのだ。
それにしても、この文章はわざとバカを装ったものなのか、
それとも実際この程度なのか。後者かもしれない。
テレビドラマのように密会する現場を目撃して面白くなり、
はしゃぎながら現場写真を撮ってみたり、
盗聴犯の誘導のままに、
何ヶ月にも渡って、朝と言わず夜と言わず私を追いかけて、
何がそんなに面白かったのだろう。尾行は大変な労力だ。
私の行動に付き合うために自分達の時間を割かねばならない。
その割には無駄骨も多かったはずだ。
何ヶ月も私に付きまとうだけの意味は、どこにあったのか。
低レベルの興味と、保育園の先生への嫌がらせか仕返しの感情と、
他に何か彼らに益があるか。
彼らは、娯楽として夢中になったのではないか。
後になって、小沢くんも同感だと言った。
アイツら、暇で、他に娯楽がないんだよ。
しかし、娯楽で尾行された方はたまったものではない。
私はあの頃、ノイローゼ気味だった。
娯楽として尾行する。
嫌がらせの手紙を送る。
娯楽として盗聴する。
昼夜盗聴の任務につく人を主役にしたナチス時代の映画を見たことがある。
あれは大変な忍耐だ。
個人的な興味か理由でやるとすれば、盗聴犯人は完全に病んでいる。
盗聴犯には私と外部との会話を聞かねばならない理由があったにせよ。
表面化しなければ、これは犯罪ではないのか。
そして確かに、
この手紙にある○月○日は、土曜日の夕方、
小沢くんと私は海岸線のとある駐車場で合流していた。
つづく
これはフィクションではありません。
実際に起きた話です。
自宅ポストに投げ込むのはリスクがあると考えたのだろう。
封筒は市役所が市民に送る際の茶封筒、
中身はA4の安いプリント用紙だ。
文字はゴシックで、紙の上部に数行、やや曲がって印刷してある。
文面は、1通目よりも、さらに幼稚だった。
奥さんに届いた内容は、
旦那は○月○日も花の寺のおばさんと車に乗ってるよ。
見られてるとも、知らないで。2人で昼顔のドラマきどりだね。
友達が写メとっていて笑った。見たかったら送るよ。
旦那に不倫されてお気の毒さま。
・・ともう少し続きがある。
私に届いたものは、
人の旦那に、手を出していい気なもんだね。
○月○日の○時ころ駐車場で、人の旦那といるの見たよ。
写メあるから送ろうか。昼顔のドラマを見すぎだよ。
・・ともう少し。
「昼顔」?
上戸彩と斎藤工が出て視聴率をとったやつか。
そのドラマを、私は一度も見たことがない。
「昼顔」のタイトルが気に入らなくて、見る気もしなかった。
ケッセルの小説は高校生の時に読んだことがある。
カトリーヌ・ドヌーブ主演の映画も観たことはある。
医者の妻が、暇つぶしと好奇心で昼間だけ娼婦になり、
昼しか店に来ないから、源氏名を「昼顔」にした。
あれは不倫ではなく、
ふらっと娼婦をやってみた、ちょっとマゾなアホ女の話だ。
小説も映画もつまらない愚作だ。
映画に出てくる客達の風貌にはゾッとした。
あれとするのか娼婦となれば。
フランス映画の「昼顔」のタイトルをパクって、
オシャレで切ないニュアンスにでも包み込んだつもりの、
若い子のああだのこうだのつまらん不倫ドラマなど、
どこが面白くて大人が見るのだ。
後で確かめると、
小沢くんはタイトルすら知らず、奥さんも見ていないそうだ。
両方の手紙に、
昼顔のドラマきどり、昼顔のドラマの見過ぎ、と書いてあるから、
手紙の送り主は相当夢中になって見ていただろうし、
ドラマの主役らと同世代なのだ。
それにしても、この文章はわざとバカを装ったものなのか、
それとも実際この程度なのか。後者かもしれない。
テレビドラマのように密会する現場を目撃して面白くなり、
はしゃぎながら現場写真を撮ってみたり、
盗聴犯の誘導のままに、
何ヶ月にも渡って、朝と言わず夜と言わず私を追いかけて、
何がそんなに面白かったのだろう。尾行は大変な労力だ。
私の行動に付き合うために自分達の時間を割かねばならない。
その割には無駄骨も多かったはずだ。
何ヶ月も私に付きまとうだけの意味は、どこにあったのか。
低レベルの興味と、保育園の先生への嫌がらせか仕返しの感情と、
他に何か彼らに益があるか。
彼らは、娯楽として夢中になったのではないか。
後になって、小沢くんも同感だと言った。
アイツら、暇で、他に娯楽がないんだよ。
しかし、娯楽で尾行された方はたまったものではない。
私はあの頃、ノイローゼ気味だった。
娯楽として尾行する。
嫌がらせの手紙を送る。
娯楽として盗聴する。
昼夜盗聴の任務につく人を主役にしたナチス時代の映画を見たことがある。
あれは大変な忍耐だ。
個人的な興味か理由でやるとすれば、盗聴犯人は完全に病んでいる。
盗聴犯には私と外部との会話を聞かねばならない理由があったにせよ。
表面化しなければ、これは犯罪ではないのか。
そして確かに、
この手紙にある○月○日は、土曜日の夕方、
小沢くんと私は海岸線のとある駐車場で合流していた。
つづく
これはフィクションではありません。
実際に起きた話です。
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