先週金曜日は、
手のかかる主要メンバーがほぼ全員休んで、来たのが45人。
今日は少ないわね、ラッキー! と皆言った。
騒がしさの音量も普段の半分以下でほんとに助かった。
普段は、いつか難聴になるわ、と本気で思うくらい騒がしい。
とホッとしていたら、
後味の悪い問題が起きた。
姉妹2人を通わせている母親が、 夕方迎えに来た時に、
「うちの子達のペットボトルがなくなったんですが」
と曇った顔で問い合わせてきた。
なくなった?
子どもの登録数は74人。実質来るのが50数人。
物を失くした忘れたは毎日何人も言う。
持ち物を見直して、ここになければ、
たいがいは学校かバスか自宅で見つかる。
子どもも親もこちらも慣れっこだ。
だけど、その日は少し違った。
この暑さでは、
持参した水筒だけでは水分が足りないだろうと、
母親はコンビニでペットボトルのお茶を、
姉妹に2本ずつ計4本買って、
朝、入り口でそれぞれに手渡した。
姉妹はそれぞれ、リュックや水筒と一緒に、
2本ずつ入った袋ごと自分のロッカーに入れた。
姉妹は1年生と3年生で、
2人とも優しいおっとりさん。
だけど、飲もうと思ったら、なかったの。
私も、お昼ご飯の時にはなかったの。
そうなの?
じゃあ、2人とも12時にはなかったわけね。
その時に、ない、って言ってくれたら良かったねえ。
その時は無いなあと分かったけど、言うの忘れたの。
しかたないからね、水道のお水飲んだよ。
そうなの、ママが買ってくれたお茶が無くて困ったねえ。
見つかるか分からないけど、探してみるからね。
母親は、
私が名前を付けておかなかったから、ご迷惑をおかけします。
と頭を下げて帰った。
コンビニのペットボトルにも記名かあ・・
なんだかなあ、と思うけど、今後はそれしかない。
母親と姉妹の話を三人とも何も言わずに聞いていたが、
三人三様に、ちょっと思い当たるフシがあった。
三人で顔を寄せ、ため息をついてから話し合った。
あれかな?って気がする。
私もちょっとそんな感じのを見たわ。
あの子、持っていたのよねえ、コンビニの袋のまま。
私は、四年生男児が、
母親がここに入るや否や身支度が済んでいたのを奇妙に感じた。
建物の外は、子どもの居る場所からは見えない。
非常口からずっと母が来るのを待っていたのか。
リュックの他に、片手に荷物を持ち、足早にやって来て、
私に弟の居場所を聞いた。笑顔だったが、焦っていた。
玄関のそばで遊んでいた弟は母親が来たのに気づいてなかった。
兄は弟を呼び、急かしながらロッカーに連れて行った。
一人は、
その男児が弟の帰り支度を急かす様子を見ていた。
兄や姉は、弟や妹が泣いたり体調を崩すと気にするが、
いくら手間取っていても、帰り支度を手伝うことはない。
その男児も、普段は弟の面倒などみない。
なのに、焦って弟のリュックに何かを詰め込んでいて、
膨れ上がったリュックを背負わされた弟は、
お兄ちゃん、重いよ!と叫んだ。
一人は、
廊下を歩く男児が、
開封していない2本のペットボトルを入れたコンビニ袋を、
右手に下げているのを見ていた。
帰る時に、手付かずのお茶を2本も持っているのは不自然だ。
だから、ペットボトルの銘柄まで目がいった。
姉妹の母親が話したお茶2種類と一致する。
あれ? 何か変だな、と三人が感じた場面をつなげれば、
その男児が持って行ったというストーリーが成り立つ。
持って行った・・・
3人ともそれ以上の表現は避けた。
他のスタッフと所長に概要を報告し、
保護者には記名を徹底するよう伝えましょう、で終わった。
小さな小さなことだ。
同じことは昨年夏もあった。
誰が持って行ったかは分からなかったし調べなかった。
ペットボトルのお茶なんか、欲しいかな。
持ち帰れば、親に理由をきかれ、嘘をつかねばならない。
みんなに2本ずつ配られたんだよ、とか何とか。
弟が余計なことを言わないように、口止めも必要だ。
お茶そのものが欲しいのではない。
中・高校生のようにスリルを求めたのでもない。
彼の中で何かが足りないのだ。
足りないから、自分で埋める行為をしたのだ。
大人しくて手のかからない子だ。
友達とトラブルを起こすことはない。
兄弟仲もいい。
父親は大らかな感じで、母親は優しそう。
迎えに来るのは、ほとんど父親だ。
彼の深い部分を傷つけている、表現できないヒズミが、
たぶん家庭内に、親子関係のどこかにあるのだろう。
たまに彼が話かけてくるのに応じていると、
私の顔色を見ながら言葉を選び、気持ちをすり寄せてくる。
ギャングエイジと呼ばれる小4男児には珍しいタイプだ。
まるで幼な子のように体を私にくっ付けて座り、
胸のあたりで両手指をお祈りのように組み、
下から目線を投げかけ、左エクボをくっきり浮かべて話す。
学校の先生や親にも、こうして話すのだろうか。
明らかに何かが満たされていない。
短期間に同じ事が起きない限り、この件はもみ消される。
この子だという確証もないし。
だけど、彼の中では消えない。
うまくいったと思っていなければいいが。
親はなかなか気づかない。
側から言われてようやく我が子の姿が見えたりするものだ。
問題の芽は育たぬうちに、早く摘んだ方が良いけれど。
どうなっていくやら。
親業をやっていくのは他の何よりも大変だ。
お父さんもお母さんも頑張れ。