「やわらかい生活」 2005年 日本
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監督 廣木隆一
出演 寺島しのぶ 豊川悦司 松岡俊介
田口トモロヲ 妻夫木聡
大森南朋 柄本明
ストーリー
35歳。独身。一人暮らし。
一流大学から大手企業の総合職とキャリア街道を突き進み、仕事もプライベートも気を張りつめてがんばってきた橘優子(寺島しのぶ)。
しかし、両親と親友の突然の死をきっかけに、うつ状態へ落ち込む。
仕事も、男も、全てを失った。
人生はどん底のまま、出会い系サイトで知り合った50歳の“趣味のいい痴漢”である建築家Kさん(田口トモロヲ)に連れられてきた蒲田を不思議と気に入り住みはじめる。
理由は、この町には下町のような”粋”はないけど、今の無気力な自分をまるごと受け入れてくれる温かさがあるから。
「俺のビッグマックを盗ったトンビを45オートで撃ち殺した」と自慢する、まだ幼さの残るうつ病のやくざ(妻夫木聡)、「できないんだ。EDなんだ」と告白する元同級生でED(勃起不全)の議員、本間(松岡俊介)、そして、競馬ですって車を駐車場から出せないから泊めてくれと突然現れた、能天気ないとこの祥一(豊川悦司)が優子の周りに集まってくる。
はじめは優子の躁と鬱の落差に戸惑う祥一だったが、それでも優子のためにと、かいがいしく世話を焼く。
彼らとの関わりの中で、少しずつ優子の固くなっていた心がほぐれていく。
夏から秋へ。
ゆるやかに結びついていた彼らとの関係は、ゆるやかに変化していくが、それは優子にとっても新しい時間へのはじまりでもあった。
寸評
35歳で躁鬱病のヒロインの何気ない日常が繊細な描写によって描かれている。
ヒロインの優子は病気を抱え孤独だけれど、けっして不幸とも言い切れない女性だ。
気持ち良くなることをしようと思っていると言う優子は、どこか投げやり的なところもあるけれど、蒲田のスナップを撮り続けて生き生きとしている面も持ち合わせている。
優子は田口トモロヲ演じる痴漢プレーにはまる男と落ち合って、その男と合意の痴漢プレーを行う。
かと思えば偶然出会ったかつての学生仲間の本間を自宅に誘うし、うつ病のヤクザにも平気で会いに行く。
それだけを見ると、随分といい加減な生き方をしているように見えるけれど、彼らとの会話シーンを見ていると彼女の優しさを感じ取ることもできる。
ちょっと異常だけれど、その中にあるオアシスのような雰囲気に僕は癒された。
妻夫木聡が演じる気の弱そうなヤクザもうつ病で、居酒屋では酒ではなく水を注文してうつ病の薬を飲む。
彼もヤクザに似合わぬ心根を持った青年なのだ。
優子はイヤと言えない性格なのか、つまらない男なのに誘われると出かけてしまう。
でも、ダメな連中とふれあううちに、優子も少しずつ癒されていっているようでもあるのだ。
そんな微妙な女性の心理を巧みにすくい取っていた。 癒される相手というのは人によって違うということだ。
彼女の生活に変化をもたらすのが豊川悦司演じるいとこの祥一で、二人の関係がとてもよく描けている。
長いカラオケボックスでのシーンは二人の仲の良さがにじみ出ていた。
彼女にとって、祥一は幼馴染のように育ったいとこというだけでなく、優子の処女を奪った男でもある。
そういう複雑な関係をドロドロさせないで上手く描き出している。
いきなりの痴漢シーンで始まったショッキングな映画だけれど、祥一との同居生活に描かれるような何気ない日常の描写がいい。
優子は両親を阪神大震災で亡くしたと言っているが、7回忌の法事を博多で行っている。
両親の出身地が博多で、幼少時をそこで過ごしたことを暗示するための事だったのかと想像していたが、その理由は後半で明かされる。
刺青をしているのでバスタオルを巻いて銭湯の終い湯に入っている真の理由も同じように後半に明かされる。
それが明らかにされたところで、僕は彼女の人生を共有できたような気もした。
祥一は「結婚期間が空白のように感じてしまっていた」と言うが、それは祥一にとっては過去のことで「今がもったいない、昔のアルバムより今だ」と優子といることで変わってきている。
優子と祥一がデジカメで撮るスナップはその象徴だったのだろう。
ラストの出来事はある程度予測できたことだが、「どんなに悲しいことが起きても、彼女は生きていくのだ」という強いメッセージは感じなかった。 だからこそ「やわらかい生活」なのかもしれない。
廣木隆一はにっかつのポルノ時代もあって随分と多作だが、これといった作品が思い当たらない。
例外的に異彩を放つ作品が「ヴァイブレータ」と、この「やわらかい生活」だ。
どちらも寺島しのぶの主演作だから、彼女とのコンビでのみ力が発揮されるということか?
それとも脚本の荒井晴彦を含めたトリオがいいということなのかな…。
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監督 廣木隆一
出演 寺島しのぶ 豊川悦司 松岡俊介
田口トモロヲ 妻夫木聡
大森南朋 柄本明
ストーリー
35歳。独身。一人暮らし。
一流大学から大手企業の総合職とキャリア街道を突き進み、仕事もプライベートも気を張りつめてがんばってきた橘優子(寺島しのぶ)。
しかし、両親と親友の突然の死をきっかけに、うつ状態へ落ち込む。
仕事も、男も、全てを失った。
人生はどん底のまま、出会い系サイトで知り合った50歳の“趣味のいい痴漢”である建築家Kさん(田口トモロヲ)に連れられてきた蒲田を不思議と気に入り住みはじめる。
理由は、この町には下町のような”粋”はないけど、今の無気力な自分をまるごと受け入れてくれる温かさがあるから。
「俺のビッグマックを盗ったトンビを45オートで撃ち殺した」と自慢する、まだ幼さの残るうつ病のやくざ(妻夫木聡)、「できないんだ。EDなんだ」と告白する元同級生でED(勃起不全)の議員、本間(松岡俊介)、そして、競馬ですって車を駐車場から出せないから泊めてくれと突然現れた、能天気ないとこの祥一(豊川悦司)が優子の周りに集まってくる。
はじめは優子の躁と鬱の落差に戸惑う祥一だったが、それでも優子のためにと、かいがいしく世話を焼く。
彼らとの関わりの中で、少しずつ優子の固くなっていた心がほぐれていく。
夏から秋へ。
ゆるやかに結びついていた彼らとの関係は、ゆるやかに変化していくが、それは優子にとっても新しい時間へのはじまりでもあった。
寸評
35歳で躁鬱病のヒロインの何気ない日常が繊細な描写によって描かれている。
ヒロインの優子は病気を抱え孤独だけれど、けっして不幸とも言い切れない女性だ。
気持ち良くなることをしようと思っていると言う優子は、どこか投げやり的なところもあるけれど、蒲田のスナップを撮り続けて生き生きとしている面も持ち合わせている。
優子は田口トモロヲ演じる痴漢プレーにはまる男と落ち合って、その男と合意の痴漢プレーを行う。
かと思えば偶然出会ったかつての学生仲間の本間を自宅に誘うし、うつ病のヤクザにも平気で会いに行く。
それだけを見ると、随分といい加減な生き方をしているように見えるけれど、彼らとの会話シーンを見ていると彼女の優しさを感じ取ることもできる。
ちょっと異常だけれど、その中にあるオアシスのような雰囲気に僕は癒された。
妻夫木聡が演じる気の弱そうなヤクザもうつ病で、居酒屋では酒ではなく水を注文してうつ病の薬を飲む。
彼もヤクザに似合わぬ心根を持った青年なのだ。
優子はイヤと言えない性格なのか、つまらない男なのに誘われると出かけてしまう。
でも、ダメな連中とふれあううちに、優子も少しずつ癒されていっているようでもあるのだ。
そんな微妙な女性の心理を巧みにすくい取っていた。 癒される相手というのは人によって違うということだ。
彼女の生活に変化をもたらすのが豊川悦司演じるいとこの祥一で、二人の関係がとてもよく描けている。
長いカラオケボックスでのシーンは二人の仲の良さがにじみ出ていた。
彼女にとって、祥一は幼馴染のように育ったいとこというだけでなく、優子の処女を奪った男でもある。
そういう複雑な関係をドロドロさせないで上手く描き出している。
いきなりの痴漢シーンで始まったショッキングな映画だけれど、祥一との同居生活に描かれるような何気ない日常の描写がいい。
優子は両親を阪神大震災で亡くしたと言っているが、7回忌の法事を博多で行っている。
両親の出身地が博多で、幼少時をそこで過ごしたことを暗示するための事だったのかと想像していたが、その理由は後半で明かされる。
刺青をしているのでバスタオルを巻いて銭湯の終い湯に入っている真の理由も同じように後半に明かされる。
それが明らかにされたところで、僕は彼女の人生を共有できたような気もした。
祥一は「結婚期間が空白のように感じてしまっていた」と言うが、それは祥一にとっては過去のことで「今がもったいない、昔のアルバムより今だ」と優子といることで変わってきている。
優子と祥一がデジカメで撮るスナップはその象徴だったのだろう。
ラストの出来事はある程度予測できたことだが、「どんなに悲しいことが起きても、彼女は生きていくのだ」という強いメッセージは感じなかった。 だからこそ「やわらかい生活」なのかもしれない。
廣木隆一はにっかつのポルノ時代もあって随分と多作だが、これといった作品が思い当たらない。
例外的に異彩を放つ作品が「ヴァイブレータ」と、この「やわらかい生活」だ。
どちらも寺島しのぶの主演作だから、彼女とのコンビでのみ力が発揮されるということか?
それとも脚本の荒井晴彦を含めたトリオがいいということなのかな…。