おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

誘拐

2020-06-04 07:29:29 | 映画
「ゆ」に入りますが、「ゆ」は少し思い当たる作品があります。

「誘拐」 1997年 日本


監督 大河原孝夫
出演 渡哲也 永瀬正敏 酒井美紀 柄本明
   新克利 石浜朗 西沢利明 山本清
   磯部勉 木村栄 岡野進一郎

ストーリー
とある日曜日の早朝、東昭物産常務の跡宮(石濱朗)が何者かに誘拐されるという事件が発生した。
目撃者の証言によれば、犯人グループは運転手の狭間(江藤漢)も一緒に連れ去ったらしい。
翌日、犯人は東昭物産に対し3億円の身代金と、その受け渡しのテレビ生中継を要求してきた。
身代金の運び役には同じ東昭グループの東昭開発監査役・神崎(西沢利明)が指名され、何十台ものテレビ・カメラと何百人もの報道陣が取り囲むなか、犯人はまるでゲームを楽しむかのように次々と場所を指定して、神崎を走らせる。
3億円の入った30キロものバッグを運ばされた神崎は、やがて心筋梗塞の発作で倒れてしまった。
後日、犯人は次の運び役に東昭銀行専務の山根(山本清)を指名するが、彼もまた力尽きて途中で倒れる。
犯人のやり口に激昂した警視庁のベテラン刑事・津波(渡哲也)が、山根の身代わりとなって現金を運び、後輩の若手刑事・藤(永瀬正敏)も彼の後を追った。
だが、犯人が指定した新橋の喫茶店を出た後で、津波もまた力尽きてしまう。
後を受け継いだ藤は、犯人の指示通り首都高速の非常駐車帯へバッグを置くが、犯人が姿を現さなかったにもかかわらず、バッグの中身はいつの間にかすり替えられていた。
その後、26年前に地下水汚染で多数の死者が出た下加佐村のアキワ公害訴訟を担当した弁護士・折田(新克利)が、誘拐の前日に跡宮と会っていたことが判明する。
この裁判は住民側が敗訴し、産業廃棄物を不法投棄した企業は何の責任も問われていなかった。
さらに、跡宮と神崎、山根の3人が当時、産業廃棄物処理の関連会社の責任者だったことがわかる。
吐血して入院した津波から捜査のアドバイスを受けた藤は、3億円をすりかえる唯一の機会が津波が寄った喫茶店だけであったことに気づいた・・・。


寸評
近年では出色の犯罪映画で、誘拐事件とその裏に隠された企業の巨悪を、二転三転のストーリー展開の中に描き出している。
身代金受け渡しのシーンでは、日本映画撮影監督協会の応援によって21台のカメラが同時撮影を行い、史上空前の東京ロケーション撮影が敢行されたそうだが、新宿、銀座などの身代金を運ぶシーンは空撮を含め臨場感たっぷりで迫力がある。
アップ多用やCG合成によるごまかしではない、本物の映像を感じさせる。
エンドクレジットでは、撮影協力者として多くの人の名前と、日本映画撮影監督協会の名前がクレジットされるが、それは撮影隊の苦労に報いるものとして当然だ。
都心のど真ん中で行われた撮影の苦労が感じ取れるシーンの存在がこの映画の魅力の多くを占めている。

テレビ中継されることになった3億円の身代金の運び役として神崎が指名される。
渋る神崎だが人命がかかっていることで渋々引き受け車に乗り込むが、途中から犯人の指示により徒歩で運ばされることになる。
ここからはただ身代金を運んでいるだけなのだが、映像は非常に緊迫したムードを出してくる。
神崎が筋梗塞の発作で倒れるなんて映画としては都合よすぎる展開なのだが、それを感じさせないものがある。
続いて指名されたのは東昭銀行専務の山根で、彼はかたくなに運び役を拒絶する。
ところが企業イメージを重く見た会長からの指示で引き受けざるを得なくなる。
記者会見は社会的責任を果たすためと言う欺瞞に満ちたもので、それは組織が偽善者ぶって取り繕う姿だ。
組織が目指すものは、あくまでも全体利益で、個人のことなどどうでもいいのだと思わせる。
組織の重圧に抗えない個人の力というのは社会の中では、経験もし見聞きすることでもある。

山根が倒れた後は刑事の津波が引き継ぐ。
津波をお父ちゃんと慕う酒井美紀とのエピソードが挟まれ、さらに津波の体調面も加わって緊迫感はさらに増していく展開は息をも飲ませない。
両エピソードとも、下手をすると感動を強要するあまりの空振りとなることもあり、描き方に失敗した作品もあったように思うけれど、ここではそれも上手く処理されている。
永瀬正敏の藤刑事はパターン化された役柄ではあるが、 酒井美紀との関係を丁度よい距離で描いているのが良かったと思う。
誘拐事件を扱った作品では、現金の受け渡しが最大のポイントとなり、それぞれの作品では工夫を凝らしている。
「天国と地獄」のように意表をつくものであることもあるが、ここではいつ盗られるのだろう、そしていつ盗られたのだろうとの疑問を観客に抱かせ続ける上手い描き方だ。
やがて事件の背景に公害問題が浮かび上がってくる。
高度成長期には日本の各地で生じていた問題であるが、現在でも見逃されている環境問題は数多くあるのではないかと思うし、描かれたような思いを抱いている人は結構存在しているのではないかと思う。
そんな環境問題をテーマの一つに据えていることも今日的であった。
渡哲也は高倉健なんかと同じで、あまりしゃべらないほうが雰囲気がある。