「誘拐報道」 1982年 日本
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監督 伊藤俊也
出演 萩原健一 小柳ルミ子 高橋かおり
岡本富士太 秋吉久美子 和田求由
宅麻伸 三波伸介 藤谷美和子
高沢順子 賀原夏子 池波志乃
平幹二朗 菅原文太 丹波哲郎
ストーリー
豊中市の私立学園一年生の三田村英之(和田求由)が、下校途中に誘拐された。
県警本部の発表で、犯人が英之少年の父で小児科医の三田村昇(岡本富士太)に三千万円の身代金を要求していることが分かった。
各新聞社に“報道協定”の要請があり、子供の生命がかかっているため、各社は受けざるを得なかった。
三田村家には遠藤警部(伊東四朗)以下六名の警察官が入り込み、昇や妻の緋沙子(秋吉久美子)と共に電話を待ったところ、武庫川の川原に緋沙子が一人で来るようにとの電話があった。
川原には英之の学帽とランドセルが置かれてあった。
山岳地帯を貫いて日本海側へ向かう高速自動車道で、早朝の不甲峠を一台のムスタングが通過していく。
数刻後、そのムスタングからサングラスの男が降り、公衆電話ボックスに向かった。
ダイヤルをまわした先は三田村家で、男は今日中に金をそろえるように指示して受話器を置いた。
この知らせに大阪読売本社は色めきたった。
「協定を結んだ以上、取材・報道は自粛するが、協定解除に向けて取材の準備はおこたりなく!」檄をとばす吉本編集局長(永井智雄)。
同じ頃、日本海を見下す断崖の上から、犯人が布団袋に入れた子供を投げすてようとするが、密漁者たちがいるために失敗したため、その足で犯人=古屋数男(萩原健一)は老母(賀原夏子)のいる実家へ寄る。
そこへ数男の妻・芳江(小柳ルミ子)から電話がかかってきた。
芳江は喫茶店をだましとられた数男を助けようと造花工場で働いているのだ。
気が弱いくせに見栄っばりな数男は娘の香織(高橋かおり)を私立学園に通わせていた。
寸評
小柳ルミ子は1971年に「わたしの城下町」で歌手デビューし、デビュー曲の大ヒットでイメージを引き継いだ「お祭りの夜」、翌年の「雪あかりの町」に続く「瀬戸の花嫁」がまたまた大ヒット。
1977年の「星の砂」などで本格的な歌手としてスター歌手の地位を不動のものしていて、映画出演も1970年代に3本ほど果たしているが、いずれもお飾り程度の役で、本格的な役としてはこの「誘拐報道」が初めてだ。
本作の演技により、映画各賞で助演女優賞を受賞したのだが、多分に歌手の小柳ルミ子がこれほどの演技ができるのかと言った驚きも加味されていたのではないかと思う。
題名は「誘拐報道」なので、新聞社の奮闘ぶりがメインかと思いきや、それは半分ほど描かれるだけで、実際は犯人である古屋数男の屈折した人物像と、少年を誘拐しながらその扱いに戸惑い苦悩していく姿を描いている。
誘拐犯の古屋数男は当初、誘拐した英之少年をすぐにでも殺害するつもりでいた。
カットが代わると海女さんが海中を泳ぐ姿が捕らえられる。
関係のないカットのように思えたが、数男が少年を冬の海に投げようとした瞬間に、先ほどの海女さんたちが海面に顔を出し息をする口笛の音が聞こえ、数男は殺害を思いとどまる。
サスペンスとして緊張感が高まる上手いカット割りだ。
数男は別の場所で殺害を実行しようとするが、少年の「オシッコ」という声で殺害を中断し放尿を手伝う。
そこから数男の少年への接し方が変わっていく。
このあと少年はもう一度、お漏らししてしまったことを詫びるが、数男は慰めるような態度をとる。
ジャムパンが好きだと聞けば、やっとの思いで買い入れ与えてやっている。
子供への愛情を垣間見せるが、少年は車のトランクに押し込められたままだ。
現金受け渡し場所に警察の姿を発見した数男は持ち金もなくなっていき追い詰められていく。
「10円玉がもうあらへんのや!」とあせる数男。
「誘拐した子供の扱いに困っとるんや!」と泣きつく数男は、誘拐どころか行動自体破綻していく。
そこで英之の母親緋沙子は「息子は生きているんですね!」と叫ぶ。
直前で死亡したようなカットで終わっているので、このやりとりはサスペンスとして秀逸だ。
どうにもならなくなっていく犯人を 萩原健一が迫力満点の演技で魅せる。
本作は「犯人の家族」という視点も持っていて、今日的な問題提起を投げかけている作品でもある。
ビールを飲みながら「どうだった?撮れたか?」と問いただす支局長に「空振りでした」と虚偽報告する若い新聞記者・耕太郎の態度はわずかな救いだ。
直前で警捜査課長の平幹二朗が「警察にとって犯人逮捕が最優先だ」と人命を無視するような発言をしていることで、なおさら際立った描き方である。
テレビインタビューで英之は香織のことを思ってか、押し黙ったまま何もしゃべらない。
エンドカットは、英之が誘拐される前の子供2人の帰宅シーンで、香織が電車に乗っている英之にバイバイと手を振るシーンの写真なのだが、それは一番親しかった友達との別れでもあったのだ。
実際に起きた事件だけに、切ないものを感じる。
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監督 伊藤俊也
出演 萩原健一 小柳ルミ子 高橋かおり
岡本富士太 秋吉久美子 和田求由
宅麻伸 三波伸介 藤谷美和子
高沢順子 賀原夏子 池波志乃
平幹二朗 菅原文太 丹波哲郎
ストーリー
豊中市の私立学園一年生の三田村英之(和田求由)が、下校途中に誘拐された。
県警本部の発表で、犯人が英之少年の父で小児科医の三田村昇(岡本富士太)に三千万円の身代金を要求していることが分かった。
各新聞社に“報道協定”の要請があり、子供の生命がかかっているため、各社は受けざるを得なかった。
三田村家には遠藤警部(伊東四朗)以下六名の警察官が入り込み、昇や妻の緋沙子(秋吉久美子)と共に電話を待ったところ、武庫川の川原に緋沙子が一人で来るようにとの電話があった。
川原には英之の学帽とランドセルが置かれてあった。
山岳地帯を貫いて日本海側へ向かう高速自動車道で、早朝の不甲峠を一台のムスタングが通過していく。
数刻後、そのムスタングからサングラスの男が降り、公衆電話ボックスに向かった。
ダイヤルをまわした先は三田村家で、男は今日中に金をそろえるように指示して受話器を置いた。
この知らせに大阪読売本社は色めきたった。
「協定を結んだ以上、取材・報道は自粛するが、協定解除に向けて取材の準備はおこたりなく!」檄をとばす吉本編集局長(永井智雄)。
同じ頃、日本海を見下す断崖の上から、犯人が布団袋に入れた子供を投げすてようとするが、密漁者たちがいるために失敗したため、その足で犯人=古屋数男(萩原健一)は老母(賀原夏子)のいる実家へ寄る。
そこへ数男の妻・芳江(小柳ルミ子)から電話がかかってきた。
芳江は喫茶店をだましとられた数男を助けようと造花工場で働いているのだ。
気が弱いくせに見栄っばりな数男は娘の香織(高橋かおり)を私立学園に通わせていた。
寸評
小柳ルミ子は1971年に「わたしの城下町」で歌手デビューし、デビュー曲の大ヒットでイメージを引き継いだ「お祭りの夜」、翌年の「雪あかりの町」に続く「瀬戸の花嫁」がまたまた大ヒット。
1977年の「星の砂」などで本格的な歌手としてスター歌手の地位を不動のものしていて、映画出演も1970年代に3本ほど果たしているが、いずれもお飾り程度の役で、本格的な役としてはこの「誘拐報道」が初めてだ。
本作の演技により、映画各賞で助演女優賞を受賞したのだが、多分に歌手の小柳ルミ子がこれほどの演技ができるのかと言った驚きも加味されていたのではないかと思う。
題名は「誘拐報道」なので、新聞社の奮闘ぶりがメインかと思いきや、それは半分ほど描かれるだけで、実際は犯人である古屋数男の屈折した人物像と、少年を誘拐しながらその扱いに戸惑い苦悩していく姿を描いている。
誘拐犯の古屋数男は当初、誘拐した英之少年をすぐにでも殺害するつもりでいた。
カットが代わると海女さんが海中を泳ぐ姿が捕らえられる。
関係のないカットのように思えたが、数男が少年を冬の海に投げようとした瞬間に、先ほどの海女さんたちが海面に顔を出し息をする口笛の音が聞こえ、数男は殺害を思いとどまる。
サスペンスとして緊張感が高まる上手いカット割りだ。
数男は別の場所で殺害を実行しようとするが、少年の「オシッコ」という声で殺害を中断し放尿を手伝う。
そこから数男の少年への接し方が変わっていく。
このあと少年はもう一度、お漏らししてしまったことを詫びるが、数男は慰めるような態度をとる。
ジャムパンが好きだと聞けば、やっとの思いで買い入れ与えてやっている。
子供への愛情を垣間見せるが、少年は車のトランクに押し込められたままだ。
現金受け渡し場所に警察の姿を発見した数男は持ち金もなくなっていき追い詰められていく。
「10円玉がもうあらへんのや!」とあせる数男。
「誘拐した子供の扱いに困っとるんや!」と泣きつく数男は、誘拐どころか行動自体破綻していく。
そこで英之の母親緋沙子は「息子は生きているんですね!」と叫ぶ。
直前で死亡したようなカットで終わっているので、このやりとりはサスペンスとして秀逸だ。
どうにもならなくなっていく犯人を 萩原健一が迫力満点の演技で魅せる。
本作は「犯人の家族」という視点も持っていて、今日的な問題提起を投げかけている作品でもある。
ビールを飲みながら「どうだった?撮れたか?」と問いただす支局長に「空振りでした」と虚偽報告する若い新聞記者・耕太郎の態度はわずかな救いだ。
直前で警捜査課長の平幹二朗が「警察にとって犯人逮捕が最優先だ」と人命を無視するような発言をしていることで、なおさら際立った描き方である。
テレビインタビューで英之は香織のことを思ってか、押し黙ったまま何もしゃべらない。
エンドカットは、英之が誘拐される前の子供2人の帰宅シーンで、香織が電車に乗っている英之にバイバイと手を振るシーンの写真なのだが、それは一番親しかった友達との別れでもあったのだ。
実際に起きた事件だけに、切ないものを感じる。