先日ある重要な判決が出された。いわゆる婚外子の財産相続は婚内子の半分という民法の規定が違憲であるとの最高裁の判断だ。
問題は差別と人権であり、同じ親から生まれた子供が自分の瑕疵の無いところで一方的に不利な条件を押し付けられるのはは間違っているという、まあしごく当たり前の結論だ。
ただ、ぼくの意見は「どうでもいい」だ。
確かに子供は親を選べない。自分で選べない理由によって差別されるのはおかしい。しかしそれを言うなら、貧乏人の子供は貧乏を選んで生まれてくるわけではない。子供が自分の責任でないところで差別されてはいけないと言うのなら、そもそも全ての人の生活を平等にするべきである。
今回の判決は当然ではあるが、結局は金持ちだけの問題だ。もし最高裁が今回の論理の正当性を心から信じ、徹底させる気概があるなら、格差社会は違憲であるとはっきり断じてもらいたい。
まあそれはともかく、この判決にネトウヨが騒いでいるという。
ツイッターで「婚外子と嫡出子の遺産相続が平等になると、婚姻制度と日本社会が破壊されるっ!」という「拡散希望記事」が発信されたという。
この中で紹介されているのが、水間政憲氏(ジャーナリスト?)の「『「非嫡出子遺産相続平等法』は究極の日本解体法案になります」というタイトルのブログ記事だ。「中国人や韓国人には『恥』の概念がない」などと堂々と書く、まさに恥を知らないひどい民族差別に満ちた文章である。
ここで水間氏が主張していることは簡単に言えば、1.一夫一婦制が破壊される、2.中国人や韓国人に資産と「家督」が乗っ取られる、ということである。つまり日本には大量の中国人や韓国人の売春婦がおり、そこで日本人の男が買春したために子供が生まれたら、そうした子供に財産が取られてしまうと言うのである。
民族差別に満ちているばかりではなく矛盾に満ちた論である。しかもこの文書を孫引きしているネトウヨがさらに矛盾したことを言うので、もう収拾のつかない大混乱といった状況だ。
まず第一に一夫一婦制を大事にすると言っているのに、買春する男に対する批判がない。普通の感覚なら一番悪いのは男の方だろと思うだろう。
第二に資産はともかく、現状の日本には「家督」という権利は存在しない。存在しない権利が奪われるわけがない。
水間氏の文書は直接的には、まだ存在していない「非嫡出子遺産相続平等法」を批判するものだが、その最後に次の一節がある。
「『非嫡出子遺産相続平等法』は、法律を改正しなくても、実質的に日本は『一夫一婦制』から『一夫多妻制』に移行することになり、日本の伝統的な倫理観はズタズタに破壊されます」
実は、あの(*)元航空自衛隊幕僚長の田母神俊雄氏も今回の判決について、ツイッターで「これも日本ぶち壊しの1つだと思います。意見が割れる問題についてはこれまでの伝統や文化に敬意を払うことが保守主義だと思います。ここにも日本が悪い国だ、遅れた国だという自虐史観が見て取れます」と発言しているそうだ。
(*)ご存知とは思うが、一応補足しておくと田母神氏は在任中に「大東亜戦争は侵略戦争ではなく、中華民国やアメリカを操ったコミンテルンによる策謀が原因である」という陰謀史観に立った論文を発表して、事実上自衛隊をクビになった。
また「集団的自衛権を認めるべき」とする改憲論を主張し、「核の悲劇を繰り返さないために、日本は核武装すべき」と言い放ち、沖縄の在日米兵による集団強姦事件では女性の側の非を問う発言をネットで発信している。そういう方である。
右翼の無知なのか論理性の欠如なのか、それとも知っていて意図的に歴史を改ざんしているのか、わからないけれど、こうした論議には歴史的な混乱がある。
つまり「日本の伝統的な倫理観」は一夫一婦制ではなく一夫多妻制だったということである。もう少し丁寧に言えば、権力や財力のある、つまり相続する値打ちのある「家督」を持った階級、階層においては、絶対的に跡取りが必要であり、そのために側室や妾(めかけ)のような存在が公認されていたのである。また養子縁組も広く一般的に行われていた。
こんなことは、あえて言うまでもなく小中学校の教科書を見てもわかることだ。
少し脱線すれば、こうした多妻制は日本だけではなく世界中に見られる。しかしもちろん女系制社会には存在せず、男系社会における地位と財産の相続を確実に行うための制度なのである。そしてそれとセットになるのが女性の側の不貞禁止、もしくは他者の妻との不倫の禁止である。男の側からすると妻が生んだ子どもが確実に自分の子どもでなければならないからだ。
ただし多妻制の中でも、妻の中に順位が厳然と設けられており、第一位は正妻であり、最後はただの遊び相手、つまり売春婦になる。ようするに男女差別を基本としながら、同時に女性同士の中にも差別構造が作られているのである。
日本ではこうした制度は基本的に敗戦前まで続いていた。一般的には「家制度」という。ちなみに女性の参政権も敗戦前までは無かった。男女平等は戦後の日本国憲法で始めて認められたのである。
もう一度整理すると、右翼の言っている論理の中には、戦前の「家制度」の価値観と、戦後の男女同権=一夫一婦制度の価値観が混在しており、矛盾をはらんだ全くのご都合主義でしかないのである。
右翼の主張の主眼は「差別制度を取り戻す」ことに他ならない。
差別は無前提である。たとえばパイロットになるためには様々な制約がある。しかしそれは安全性を考慮した上で、しかたなく、かつ合理的に行われる選抜であって、誰も差別とは思わない。
差別はこうした合理性を必要としない無前提のものであって、それは被差別者が自分ではどうしようもない理由で(もしくは理由も無く)差別されるものであるのと同時に、差別者もまた自分の能力や合理的理由なく(つまり自分では何の努力も苦労もなしに)あらかじめ特権階級、差別者であることができる。
右翼が欲しいのは、その差別者の地位なのだ。
民主主義で平等をよしとする価値観の世界では、その人はただの人でしかないが、差別制度の社会では、ただ男であるだけ、ただ長男であるだけ、ただ日本人であるだけで、特権的な身分が保証されるのである。差別者側にとってこんなうまい話はない。
多くの右翼は(もちろん「だけ」ではないが)無前提の平等に反対する。しかしこうして無前提の不平等は大好きなのだ。こういう人たちに対してぴったりな呼び名がある。ゲス野郎!である。
問題は差別と人権であり、同じ親から生まれた子供が自分の瑕疵の無いところで一方的に不利な条件を押し付けられるのはは間違っているという、まあしごく当たり前の結論だ。
ただ、ぼくの意見は「どうでもいい」だ。
確かに子供は親を選べない。自分で選べない理由によって差別されるのはおかしい。しかしそれを言うなら、貧乏人の子供は貧乏を選んで生まれてくるわけではない。子供が自分の責任でないところで差別されてはいけないと言うのなら、そもそも全ての人の生活を平等にするべきである。
今回の判決は当然ではあるが、結局は金持ちだけの問題だ。もし最高裁が今回の論理の正当性を心から信じ、徹底させる気概があるなら、格差社会は違憲であるとはっきり断じてもらいたい。
まあそれはともかく、この判決にネトウヨが騒いでいるという。
ツイッターで「婚外子と嫡出子の遺産相続が平等になると、婚姻制度と日本社会が破壊されるっ!」という「拡散希望記事」が発信されたという。
この中で紹介されているのが、水間政憲氏(ジャーナリスト?)の「『「非嫡出子遺産相続平等法』は究極の日本解体法案になります」というタイトルのブログ記事だ。「中国人や韓国人には『恥』の概念がない」などと堂々と書く、まさに恥を知らないひどい民族差別に満ちた文章である。
ここで水間氏が主張していることは簡単に言えば、1.一夫一婦制が破壊される、2.中国人や韓国人に資産と「家督」が乗っ取られる、ということである。つまり日本には大量の中国人や韓国人の売春婦がおり、そこで日本人の男が買春したために子供が生まれたら、そうした子供に財産が取られてしまうと言うのである。
民族差別に満ちているばかりではなく矛盾に満ちた論である。しかもこの文書を孫引きしているネトウヨがさらに矛盾したことを言うので、もう収拾のつかない大混乱といった状況だ。
まず第一に一夫一婦制を大事にすると言っているのに、買春する男に対する批判がない。普通の感覚なら一番悪いのは男の方だろと思うだろう。
第二に資産はともかく、現状の日本には「家督」という権利は存在しない。存在しない権利が奪われるわけがない。
水間氏の文書は直接的には、まだ存在していない「非嫡出子遺産相続平等法」を批判するものだが、その最後に次の一節がある。
「『非嫡出子遺産相続平等法』は、法律を改正しなくても、実質的に日本は『一夫一婦制』から『一夫多妻制』に移行することになり、日本の伝統的な倫理観はズタズタに破壊されます」
実は、あの(*)元航空自衛隊幕僚長の田母神俊雄氏も今回の判決について、ツイッターで「これも日本ぶち壊しの1つだと思います。意見が割れる問題についてはこれまでの伝統や文化に敬意を払うことが保守主義だと思います。ここにも日本が悪い国だ、遅れた国だという自虐史観が見て取れます」と発言しているそうだ。
(*)ご存知とは思うが、一応補足しておくと田母神氏は在任中に「大東亜戦争は侵略戦争ではなく、中華民国やアメリカを操ったコミンテルンによる策謀が原因である」という陰謀史観に立った論文を発表して、事実上自衛隊をクビになった。
また「集団的自衛権を認めるべき」とする改憲論を主張し、「核の悲劇を繰り返さないために、日本は核武装すべき」と言い放ち、沖縄の在日米兵による集団強姦事件では女性の側の非を問う発言をネットで発信している。そういう方である。
右翼の無知なのか論理性の欠如なのか、それとも知っていて意図的に歴史を改ざんしているのか、わからないけれど、こうした論議には歴史的な混乱がある。
つまり「日本の伝統的な倫理観」は一夫一婦制ではなく一夫多妻制だったということである。もう少し丁寧に言えば、権力や財力のある、つまり相続する値打ちのある「家督」を持った階級、階層においては、絶対的に跡取りが必要であり、そのために側室や妾(めかけ)のような存在が公認されていたのである。また養子縁組も広く一般的に行われていた。
こんなことは、あえて言うまでもなく小中学校の教科書を見てもわかることだ。
少し脱線すれば、こうした多妻制は日本だけではなく世界中に見られる。しかしもちろん女系制社会には存在せず、男系社会における地位と財産の相続を確実に行うための制度なのである。そしてそれとセットになるのが女性の側の不貞禁止、もしくは他者の妻との不倫の禁止である。男の側からすると妻が生んだ子どもが確実に自分の子どもでなければならないからだ。
ただし多妻制の中でも、妻の中に順位が厳然と設けられており、第一位は正妻であり、最後はただの遊び相手、つまり売春婦になる。ようするに男女差別を基本としながら、同時に女性同士の中にも差別構造が作られているのである。
日本ではこうした制度は基本的に敗戦前まで続いていた。一般的には「家制度」という。ちなみに女性の参政権も敗戦前までは無かった。男女平等は戦後の日本国憲法で始めて認められたのである。
もう一度整理すると、右翼の言っている論理の中には、戦前の「家制度」の価値観と、戦後の男女同権=一夫一婦制度の価値観が混在しており、矛盾をはらんだ全くのご都合主義でしかないのである。
右翼の主張の主眼は「差別制度を取り戻す」ことに他ならない。
差別は無前提である。たとえばパイロットになるためには様々な制約がある。しかしそれは安全性を考慮した上で、しかたなく、かつ合理的に行われる選抜であって、誰も差別とは思わない。
差別はこうした合理性を必要としない無前提のものであって、それは被差別者が自分ではどうしようもない理由で(もしくは理由も無く)差別されるものであるのと同時に、差別者もまた自分の能力や合理的理由なく(つまり自分では何の努力も苦労もなしに)あらかじめ特権階級、差別者であることができる。
右翼が欲しいのは、その差別者の地位なのだ。
民主主義で平等をよしとする価値観の世界では、その人はただの人でしかないが、差別制度の社会では、ただ男であるだけ、ただ長男であるだけ、ただ日本人であるだけで、特権的な身分が保証されるのである。差別者側にとってこんなうまい話はない。
多くの右翼は(もちろん「だけ」ではないが)無前提の平等に反対する。しかしこうして無前提の不平等は大好きなのだ。こういう人たちに対してぴったりな呼び名がある。ゲス野郎!である。