今よりもずいぶん若かった頃 複数のチェーン店の20店ほどを管理していた時代があった。
それが自分の仕事であった。
1つのお店には、複数の従業員が仕事をしていて、その中心に店長がいる。
私自身も複数の店舗を管理する前は、その1つのお店を自分が店長として管理をしていた。
新店としてオープンしたお店から始めたので、最初は赤字であった。
上司からどうやって赤字を減らし、黒字化するかを問われたけれども、最初なのでよくわからない。
とりあえず1年間はわからないまま、ただ懸命に時間を費やしていた。
そういう1年が過ぎた頃、賢明な部下から「1年経ったのなら2年目は1年目のデータを生かせますね」と言われた。
2年目に入って、しばらくしてからである。
1年経ったら、1年間の経験があるはずだ。
なら2年目は1年目よりもその知識を活かして、うまく運営できるはずだ。
それは当然なことだ。
ところが、私自身は最初、そういうことすらも考えていなかった。
恥ずかしかった。
なので、その言葉を聞いてから以降は、ことごとく書き留めてデータ化するように頑張った。
春夏秋冬、朝昼晩、1週間の流れ。
あるいは1日の流れ。
できるだけ書き留めていった。
そうすると、完全ではないけれども、ある程度の予測ができるようになった。
お店を運営する会社の本部からは、そういった指示とかは一切なかった。
私自身はすごく不安感を持ってる人間なので、自分のデータを見ると安心する。
会社から時々来る指示はあまりにもずさんに感じた。
まるで思いつきではないかという指示が現場に飛んでくる。
会社には自分の担当以外にもたくさんのお店があったが、同じように赤字続きになっていた。
多くの人が似た印象を現場では持っているのではないだろうか。
大抵そういった場合、多くの会社にはコストダウンと言う意識が生まれてくる。
現在、あらゆる社会の本部の多くの人はきっとそういう気持ちになる。
それは自分も含めてだったはず。
しかし、たくさんのデータを参考にして、未来を予測すると、コストダウンと言う手法は、将来性を削いでいく方向に進むことがわかった。
自分が書き留めていたデータをしっかり見直した。
最初は赤字でも構わないので、コストを使って人件費も使って材料も使って赤字を出しながら、いろんな企画いろんなイベントを組むようにした。
未来への投資、再構築の繰り返し、という気持ちは収益が出ないとしても必要不可欠だ、と。
効果のあるお店、残念ながら効果のないお店、様々見えてきた。
効果のないお店は、基本的に存在理由を根本から考え直し、閉店するお店もあった。
退職後の最近になって、そういう複数のお店の管理を手放して、客観的に眺めることができる環境になった。
最近のお店の多くに見えるのは、効果のないお店もコストダウンで無理矢理「延命」させようとしている。
繁盛しているお店も、コストダウンをして無理矢理「利益」を出そうとしてる印象がある。
希望だけが先走る無駄な考え方ではないか。
きっと多くの企業がそうだろう。
繁盛しているなら、その繁盛の結果、出た利益を未来に投資すると言うのが本来の正論であろうし、多くの会社本来はきっとそうする。
多くの企業はなぜそうしないのか。
残念ながらそこには「人」が存在しない。
「人」に投資をしていない。
なので、機械や材料や株主とかがメインになり、生きている「人」に向いていない。
生きているのはそこで働く「人」だろう。
いくら機械がどんどん進化しても、それを扱う人間が愚かであっては、将来につながる希望は見えてこない。
社会の変化に対応しない。
社会は「人」でできている。
そこを否定したら「人の世」は消える。
自分が店長をやっていた頃は、あまりに従業員を投入しすぎて会社の上層部から悪く思われていた。
人件費の使い過ぎ。
とにかく経営者側からはとても悪印象だったようだ。
でも、そこで育った従業員は、結果的にどんどん引き抜かれて新しいお店に投資されていった。
その頃の私のお店は、奇跡的な利益を持っていたため、他のお店から嫌われていた。
異常に忙しいお店だと思われていた。
また きついお店だと思われていた。
でも、現実は違った。
現場に居ないと解らないことだろうが、とても余裕がある仕事環境だった。
渦中にいる自分がそう感じていたのだから。
「現場主義」と言う言葉がある。
本当の意味の「現場主義」がどういうことなのかほとんどの人は理解していないように感じるのである。
言葉の議論ではなく、現場の重要さを言っている。
実際にそこに自分が居ることの重要さのことである。
そこでないと感じられないのが現場である。
現場で労働する意義の重要さは利益だけではない。
「生きること」は計算で割り出す答えではない。
「生きること」は感じとることで理解できる。
そしてそこには必ず「人」が居る。
「労働」も「人生」も人で成り立っている。
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