ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

やがて来たる者へ

2011-10-19 23:34:20 | や行

この監督、ただ者じゃないなと思ったら
あのエルマンノ・オルミ監督と
仕事をしてきた人だそうです。
ほおー。さすが。

「やがて来たる者へ」79点★★★★


1943年、イタリア北部のある貧しい山村。

8歳の少女マルティーナは
幼い弟を亡くして以来、
口をきかなくなっていた。

が、彼女は
優しい母や大黒柱の父に見守られ、
青春まっただなかの若い叔母らに囲まれ、

心豊かな日々を過ごしていた。

しかし
ナチス・ドイツとパルチザンの闘いが激化し、
静かな村にも不穏な影が忍び寄る。

そんななか
母が再び妊娠していることがわかり――。


第二次世界大戦中に起きた
ある悲劇の事件を背景にしていますが、

それを知らずに見ても大丈夫。

いや
何も知らずに見たほうが
かえっていいと思います。

だって
「その手の話」と思って避けるには
あまりにもったいなく、
豊かな映画なんですよ。


映画は降り注ぐ陽光のなか、
幼い少女の目線を語り部に、

貧しくも力強く営まれる村人の生活を
静かに映し出します。


家族総出の種まきや、牛の乳搾り、
秋の収穫祭。

母親に髪を切ってもらう
くすぐったい夕暮れ――。

村の日常が、静謐に、美しく描かれ、
名もなき村人たちの息づかいを
リアルに感じとれます。

そんな彼らの日常に血が通っているぶん、
一発の銃声もその重みと痛みが
ほかとは全然、違ってくるんですよ。


当時のイタリアの状況は
本当に複雑で

三国同盟で味方だったはずのドイツ軍が
ファシスト・ムッソリーニと組んだことで、

国内で反ファシズムを唱えるパルチザンVSドイツ軍になるなど

とにかくややこしく、
実際のところ一般市民や農民には
「いったい誰が味方なのか?」と
よくわからないところもあったようです。


本作は
そんな大人の事情はまったくわからない
少女の視線を通すことで

どんな状況下でも
人間の営みは続くのだ、という強さと真理が

見る人にとっても確かな体験となって
心に染みこむのだと思います。


パルチザンを応援する村人が言うんです。

「(オレたちを殺したいなら)殺せばいい。死ぬのなんてどうせ一度きりだ」

この強さが、胸を打ちますねえ。


★10/22から岩波ホールほか全国順次公開。

「やがて来たる者へ」公式サイト

そうそう余談ですが
前作「ポー川のひかり」で監督引退を宣言していたオルミ監督、
なんと、新作が発表されたそうです。

やった!
コメント (2)
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