ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ポエトリー アグネスの詩

2012-02-10 23:30:59 | は行

ポエム、とか
ほんわりしたものをイメージすると
ガツンと喰らいますよ~。


「ポエトリー アグネスの詩」75点★★★★


「シークレット・サンシャイン」監督であり
「冬の小鳥」をプロデュースした
イ・チャンドン監督の新作です。


66歳のミジャ(ユン・ジョンヒ)は、
中学生の孫息子と二人暮らし。

最近、物の名前が思い出せなくなった彼女は、
病院で「初期のアルツハイマー」と診断されてしまう。

そんなとき、
ミジャは街で「詩の教室」の貼り紙を見て、
教室に通うことにする。

メモを手に街を歩き、詩を探し求めるミジャは
孫の同級生の親から
思いがけない呼び出しを受ける。

ある事件に
孫が関わっているというのだが――?!


詩が題材で、おばあさんが主人公なだけに
ぽわんとドリーミーなイメージを持たれそうですが、

この映画、実際に韓国で起こった
ある事件にインスパイアされたもの。

それだけにけっこうシビアで
現実に根ざした描写が手堅い。

そこが非常におもしろいんですねえ。


主人公はどこにでもいそうな
66歳のおばあさん。

フリフリの服に淡いブルーの帽子をかぶり、
つましい暮らしをし、介護ヘルパーもする。

美人ではないけど、つぶらな目がチャーミングで、
日本で言うなら市原悦子さんって感じ。

そんな彼女の平凡な日常に
静かにながら、大きな事件が起こり出すわけです。

孫が事件に関わり、自身はアルツハイマー。
ヘルパー先のジジイには迫られる……
ああ、66歳の人生にはいろんなことが起こるのだ!

しかしその波乱万丈さは、決して劇的ではなく
あくまでも日常の延長にある。

彼女も決して激しく感情を表すことはなく
その描写はあくまでも繊細で、儚く、

そこに心のドラマとしての
リアルが立ち現れるんです。

韓国では珍しいタイプの映画だと思います。

性、社会、そして贖罪。
純粋さも汚濁も、そこにあるものを映し出すカメラは
ちょっと初期の河瀬直美映画に
似ている気もしました。


★2/11(土)新宿テアトルシネマほかで公開。ほか全国順次公開。

「ポエトリー アグネスの詩」公式サイト
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