岩田健太郎医師が日本のコロナ対策に苦言 「第4波は来るべくして来た」〈AERA〉
岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科教授。島根医科大学(現・島根大学)卒業。ニューヨーク、北京で医療勤務後、2004年帰国。08年から現職(撮影/楠本涼)
新型コロナウイルスの第4波が本格化している。AERA 2021年4月26日号で、感染症専門医の岩田健太郎医師が、日本のコロナ対策の課題を語った。
(1page)
* * * ――日本国内でも従来のウイルスよりも感染力が高い変異株が急速に増え、新型コロナウイルス新規感染者の増加が続いている。神戸大学大学院教授で感染症専門医の岩田健太郎医師は、この第4波は「防ぎようのない自然現象として起きたわけではない」と指摘する。
第4波の到来を防ぐチャンスはありました。国内で最初に変異株への感染が報告されたのは昨年末でした。その際、水際対策や、変異株に感染した人と濃厚接触者に対する疫学的な調査を、徹底的に強化するべきでした。当時は「変異株はまだ面的な広まりがない」といった理由で、海外に比べれば緩やかな対策しかとられませんでした。しかし、山火事と同じで、面的に広がっていない時こそが消火のチャンスだったのです。新規感染の半数以上を変異株が占めるまで広まってから抑え込もうとしても無理です。
■人との接触で感染増 ――「第4波は来るべくして来た」という。なぜか。
単純なことで、それは対策を緩めたからです。十分に感染が抑えられていない段階で、第3波の緊急事態宣言を解除してしまいました。当たり前ですが、対策を緩めて人と人との接触が増えれば、感染は増えます。 ――さらに、とられた対策自体の甘さも指摘する。
第3波がなかなか収まらなかったのは、感染者数や重症患者数が第1波、第2波よりずっと多くて山が高かったのに、対策が1回目の緊急事態宣言の時よりも全体的に弱い内容だったからです。しかも、会食や旅行を推奨するGo Toキャンペーンが続き、なかなか緊急事態宣言が出ませんでした。
――岩田医師は、「緊急事態」にあるというメッセージが国民に伝わらなかった、とみる。
人出の減り具合は鈍りました。「自粛疲れ」と言われますが、個人の「行動変容」に頼っているようでは、感染対策はうまくいきません。もちろん、一人ひとりに感染を防ぐ行動をとってもらうことは大切ですが、そのためには、政府や自治体のトップが、矛盾のない明確なメッセージを出す必要があります。
第3波の際にGo Toによって矛盾したメッセージを出し、失敗したにもかかわらず、また第4波でも聖火ランナーを走らせる、緊急事態宣言は出さずに「まん延防止等重点措置」で済ませる、といった対策や活動が続いています。責任ある政治家が断固として感染を抑える決意をしているようにはとても見えません。いくら不要不急の外出を控えて下さいと訴えても、人々の心には響きません。
(2page)
■政府は具体的な目標を ――問題視するのは、具体的な目標を打ち出さない政府の対応だ。
そもそも、政府がどのような状態を目指しているのか、目標がわかりません。菅義偉首相は「国民の皆さんの命と健康を守り抜く」「新型コロナウイルス感染症を一日も早く収束させます」と言いますが、抽象的で、人によって解釈が変わります。
感染者ゼロを目指すのか、それとも1日の感染者数が数百人程度になればそれでよしとするのか。具体的な目標を明らかにするべきです。
――国内の新型コロナウイルスによる死者はすでに9千人を超えている。岩田医師は、「感染者増加に4週程度遅れて死者の報告が増加するので、死者が1万人を超えるのは時間の問題」という。
これだけ大勢の死亡者が出ている国は東アジアにはありません。米ジョンズ・ホプキンズ大によると、日本の人口10万人あたりの死亡者数は7.53人。韓国(同3.45人)や中国(同0.35人)などと、差が大きくなってきています。
亡くなった方の多くは高齢者です。経済を回すにはある程度は高齢者が亡くなるのは仕方ない、という目標も、理論的にはあり得るでしょう。もし責任ある政治家がそう考えているなら、きちんと国民に、日本の経済を守るためにこうしたいと説明し、国民の納得を得るべきです。
しかし、実際には、上っ面のきれいごとしか言いません。具体的な目標を掲げると、達成できなかった時に失敗したと非難されるからでしょう。責任を回避するような態度からは、経済界などにも忖度しながら何となく落としどころが見つかればいいといった、やる気の無さしか感じられません。 ――東京五輪開催まで100日を切った。だが、収束までのロードマップはない。
東京五輪・パラリンピックについてもいまだに「開催する」と言うだけで、感染状況がどうなったら、どのような形態で開催できるのかを責任者は誰も明確にしません。
観客を一切入れず、選手と関係者だけにすれば開催は不可能ではないかもしれません。ただし、それでは、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」としての開催にはなりません。しかも、今のような国内の感染状況では、危ないから選手団を派遣できない、という国も出てくるかもしれません。
※【後編】<「日本も感染ゼロを目指すべき」 岩田健太郎医師が提案する都道府県ごとのコロナ対策>へ続く (構成/科学ジャーナリスト・大岩ゆり) ※AERA 2021年4月26日号より抜粋
【後編】「日本も感染ゼロを目指すべき」 岩田健太郎医師が提案する都道府県ごとのコロナ対策〈AERA〉
日本も感染ゼロを目指すべき」 岩田健太郎医師が提案する都道府県ごとのコロナ対策
※【岩田健太郎医師が日本のコロナ対策に苦言 「第4波は来るべくして来た」】より続く
【図】マスク生活で陥りがち!気を付けたい12項目はこちら!
* * *
米国のファウチ大統領首席医療顧問は、ワクチンの普及によってコロナを麻疹などのような「流行しない病気」にしたいと言っています。実質上、感染ゼロを目指しているのです。英国も効果的なワクチン提供とロックダウンを組み合わせてコロナゼロが具体的な目標と言えるレベルになってきました(本稿時点)。両国は目標達成までの道筋も具体的に説明しています。
日本は、目標が明確になっていないだけでなく、感染対策に欠かせない手段である検査や医療、ワクチンの確保もできていません。神戸市には今、入院できずに自宅で待機中の感染者が何百人もいます。1年前から同じことの繰り返しです。
――岩田医師は日本も「感染ゼロを目指すべき」と考えている。
なぜなら、日本で1万人近く、世界では約300万人が命を落としている、危険なウイルスだからです。
ワクチン接種が他国に比べて遅い日本で、具体的にどうコロナに対峙していけばいいのか。
全国一斉に感染ゼロを目指すのではなく、都道府県単位で「感染ゼロ」の地域を増やしていけば、日本でも感染ゼロを達成できると考えています。
最初は強い対策が必要です。都道府県境をまたぐ移動をいったんは制限します。都道府県境を越えて移動する人には、PCR検査を義務付けるのもいいかもしれません。PCR検査は、潜伏期間中は陽性と出ないことがあり、すり抜けが必ず出ますが、「PCR検査を受けなければならない」ということで、不要不急の遠出の抑制になります。
都道府県単位での感染ゼロは、直近1週間の人口10万人あたりの新規感染者数が少ない島根県や高知県では、外部から人が流入しなければ、比較的早い段階で達成できるのではないか。
感染ゼロの状態が一定期間続いた自治体では、会食やイベントなどの開催を順次、解禁していきます。そして、感染ゼロの自治体同士に限って往来も解禁します。こうやって段階を踏んでいけば、いずれ全国で感染ゼロを達成できるはずです。
(構成/科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2021年4月26日号より抜粋