2022年12月6日 08時34分 東京新聞
国産初の新型コロナウイルスの飲み薬「ゾコーバ」が先月下旬から使用できるようになった。海外製の二つの既存薬と違い、重症化リスクの低い患者にも使えるのが特徴だ。発熱や喉の痛みなどの症状が1日ほど早く治まる効果も確認されている。ただ、使用上の制約もあり、現場からは「使いどころが難しい」との声が上がる。 (植木創太)
ゾコーバは、製薬大手の塩野義製薬(大阪市)が開発し、先月二十二日に緊急承認された。体の中に入ったウイルスが細胞内で増えるのを助ける酵素を働かなくさせる薬。症状が出てから三日以内に服用すれば増殖を防ぐ作用が期待できる。医師の処方が必要で、十二歳以上の軽症や中等症の患者が対象。服用は一日一回、五日間が基本で、国内で承認されている飲み薬の中で唯一、重症化リスクの有無を問わずに使える。
同社は二月から、日本など三カ国で、重症化リスクのない人やワクチンを接種した人を含む十二歳〜六十代の軽症から中等症のコロナ患者千八百人を対象に最終段階の臨床試験を開始。発症から三日以内に服用を始めたグループでは、現在主流のオミクロン株に特徴的な▽せき▽喉の痛み▽鼻水・鼻づまり▽倦怠(けんたい)感▽発熱・熱っぽさ−の五つの症状が七日前後でなくなり、投与しない患者と比べて、症状のある期間が約一日短くなった。重篤な副作用は確認されていない。
国は新薬として承認される前に百万人分の購入契約を同社と結び、先月二十八日から医療機関などへの本格供給を開始。当初二週間は米ファイザー製の「パキロビッドパック」の処方実績がある医療機関や薬局に供給先を限定し、順次拡大していく予定という。
塩野義製薬は、ゾコーバを投与して四日目の段階でウイルス量が三十分の一程度に減ったとのデータも示している。ただ、重症化を防ぐ効果はまだ不明。動物実験では胎児に影響が出ており、妊娠中や妊娠の可能性のある女性は服用できない。降圧剤や高脂血症薬など併用できない薬も三十六種類あり、処方時には服用中の薬の確認が不可欠だ。
発症後七十二時間以内という服用の時間的制約などもあるため、使いにくさを指摘する医師も。愛知県内の総合病院でコロナ患者を診療する四十代の男性医師は「一日程度の症状短縮なら、併用禁忌が少なくて安価な既存の解熱剤やせき止め薬でもいい」と話す。
ゾコーバの公定価格(薬価)は未定だが、既に設定されている米メルク社の「ラゲブリオカプセル」は患者一人分で約九万円。現状、コロナのワクチンや治療費は国が全額負担し、飲み薬も無償で処方されるが、今後、コロナの感染症法上の位置付けが変わり、インフルエンザと同様となれば自己負担が発生し得る。
塩野義製薬は供給開始から半年間、服用した全員から副作用の有無など安全性のデータを集めて公開し、後遺症の治療や予防に対する有効性についても研究を重ねる方針。公立陶生病院(愛知県瀬戸市)感染症内科の武藤義和さん(39)は「現状ではゾコーバを使用しても患者の隔離期間は短縮されず、重症化を防ぐかも分からない。特効薬と言えるものではない点は患者も理解してほしい」と話す。
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