配信 AERA
ここに至るまでのターニングポイントは3つあった。まず1つ目は政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の存在だ。
7日の衆院厚生労働委員会の閉会中審査で、東京五輪・パラリンピックの開催について、現在の感染状況では医療逼迫(ひっぱく)の恐れがあると指摘。そのうえで、開催については「無観客が望ましい。大会関係者も最小限にすることが重要だ」と菅首相にダメ出しをした。
尾身会長はこれまで国会で何度も東京五輪開催での感染拡大リスクを訴えたが、菅首相は無視し、「有観客上限1万人」に舵を切った。しかし、その後、重大な失敗をしたという。官邸関係者がこう明かす。 「実は尾身会長は数度にわたり天皇陛下に現下のコロナの厳しい状況についてご進講を重ねています。陛下は科学で事象を捉える方ですから、尾身会長の科学的でロジカルな説明を理解し、またその上で心を痛めたと聞きます。一方、菅首相の内奏は、いつもの如く、『安全安心』『とにかくワクチン』『人類がコロナに打ち勝つ証』といった科学的でもなければ、心に訴えかけるものでもない、例によって壊れたテープレコーダーのような話ばかり。陛下が理解と共感を示されなかったことは想像に固くありません」
こうした背景があって宮内庁長官の『拝察』発言があったという。
「拝察は長官の発言に過ぎない、と菅首相は火消しを図りました。しかし、裏腹に陛下がこのままでは開会式に出席されないのではないか、という焦りが官邸にあったのは事実です」(同前)
尾身会長の説明が菅首相を上回ったのだという。
2つ目は、小池百合子東京都知事の存在だ。東京五輪で「有観客上限1万人」に固執する菅首相を横目に、丸川珠代五輪担当相、大会組織委員会の橋本聖子会長らに先んじて「無観客」に舵を切った。
そのターニングポイントが、小池知事が退院翌日(2日)に突如、開いた記者会見だ。小池知事は東京五輪開催について「無観客も軸に」と踏み込んだ発言をしたが、メディアはスルー。
しかし、官邸は「遂に勝負に来た」と感じたという。そして小池知事はその翌日、東京都議選に電撃参戦し、「無観客」を掲げる都民ファーストを一気に浮上させた。しかし、小池知事は選挙戦の応援では沈黙。無観客を政局化しなかった。
「もしも小池さんが都議選前に無観客を全面に出して動いたらたちまち政局になっていた。選挙後を待って一気に動いたのは戦略的でした。小池さんは投開票の翌日(5日)、自民党の二階俊博幹事長、公明党の山口那津男代表とそれぞれ面会し、5者協議を控え、無観客の大きな流れを作った。さらに7日には小池さんと尾身会長は電撃面会し、官邸の度肝を抜いた。話し合いは2時間近くにも及んだそうです。コロナ対策への意識共有と、緊急事態宣言下での五輪開催のあり方に関する認識の調整がなされた。いちばん重要な局面で、2人が面会しタッグを組んで菅首相、組織委、IOCを追い詰めた」(自民党幹部)
3つ目のポイントは小池知事と尾身会長という巧者の電撃的なタッグだったというのだ。菅首相は小池知事に遅れること2日後(7日)、慌てて二階幹事長と会食した。
「ワクチン一本でいきたい」「ワクチンをしっかりなるべく早く提供する」といつものフレーズを菅首相は述べ、二階幹事長も「政治も政局もすべてワクチン」と応じたという。
だが、肝心のワクチンは数が足りないうえ、新型コロナウイルスは再び、感染拡大。7月12日から4回目の緊急事態宣言を再発出するなど失政が続く菅首相。自民党内でも厳しい声が上がっている。 野田聖子幹事長代行は「菅政権になってから、東京都議選も負けってことを認めれば、全部負けている。知事選で推薦した方も、参院補選も負けている」と批判した。下村博文政調会長はコロナ禍での「10万円給付をやるべき」と声をあげた。
二階幹事長も菅首相との会食の翌日(8日)にはテレビ番組で「(小池氏が衆院選に出て)国会に戻ってこられるならば、大いに歓迎だ」と持ち上げた。
中谷元元防衛相はグループの会合で「政局安定のためには衆院選後に小池新党と保守合同を検討すべきだ」と意味深な発言をした。自民党では「小池待望論」が沸き上がっている。
小池知事は二階幹事長と会談した際、「(国政復帰は)一度も言ったことがない。なぜ皆さんがそうお書きになるのかよく理解できません」と取材陣を煙に巻いた。
「あれだけの小池パワーを見せつけられれば、自民党から頭を下げてでも解散総選挙の前に国政に戻ってほしい。菅首相では100議席くらいは減るという声もあります。小池さんは本当に巧者。無観客の言い出しっぺにさせてチケット代900億円を都に押し付けてしまえ、と政府は狙っていたのに、派手な言動に走らず、水面下で根回しをした。菅首相は完全にしてやられました。求心力は一層低下し、もはや自らの手によって解散が打ちづらくなっています」(前出の自民党幹部)
東京五輪を前に政局は動きそうだ。(AERAdot.取材班 今西憲之)
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