「でも、尹錫悦も尹錫悦だよ。なんでこんな奥さんと結婚したんだろうねえ。何やりたいんだかもわからないし、(党内で)内紛しているし。投票したい人が本当にいないわ」
「もう、こうなったら、安哲秀に入れる? 奥さんも教授だし、問題なさそうだし」
お昼も過ぎた地方のとある食堂で、客は筆者一人。50~60代と覚しき、従業員女性ふたりのこんな会話が聞こえてきた。店にある大型テレビのニュースでは、次期大統領選の有力候補者らのスキャンダルが流れていた。
次期大統領選挙まで2カ月ほどの韓国。本来ならばもっと熱い雰囲気に包まれるはずが、どうにも盛り上がらない。
候補者が出揃った11月中旬には、野党「国民の力」の尹候補が与党「共に民主党」李候補を10ポイントほど引き離し優勢だったのが、差はどんどん縮まり、昨年12月最終週に行われた複数の世論調査では、李候補が尹候補を10ポイントほどの差をつけて逆転した。
しかし、驚いたのはこの5月には“過去の人”となる文在寅大統領の支持率のほうだ。退任間近というのにこちらは47%の高い支持率を記録。歴代大統領では見られなかった珍現象と騒がれた(世論調査会社「エムブレインパブリック」など)。
支持率アップという“珍現象”、裏に「あの女性」の赦免
中道系紙記者が言う。
「この数字を鵜呑みにはできませんが、他の調査を見ても文大統領の支持率での酷い落ち込みは見られない。不動産政策、新型コロナ対策での失敗と失政続きなのに支持率が上昇したのは、朴槿恵前大統領の赦免が功を奏したことと、次期大統領候補者への不満によって『まだ文大統領のほうがましだ』というムードが高まる“ねじれ現象”の現れのように思います。
それだけ今回の大統領選が酷すぎるということ。両候補共にスキャンダルだらけで、互いに誹謗中傷を繰り返すだけ。政策もこれからのビジョンもまったく見えない。こんな情けない選挙戦は今までになかったです」
経歴詐称、母の給付金詐欺…政界を騒がす「もう一人の女性」
メディアでは連日、大統領選関連のニュースが流れるが、いずれも両候補を巡るスキャンダル、失言、野党に至っては内紛話ばかりだ。
李候補を巡る最大のスキャンダルは都市開発疑惑だ。城南市長時代に進めた都市開発で資産管理会社の幹部が背任行為をしていたことが明るみに出て逮捕者が出た。この事件に李候補者が関与していたのではないかという疑惑は今も燻り続けている。さらに、この捜査では取り調べを受けていたふたりの人物が自ら命を絶っており、この人物との関係も取り沙汰された。
また、私生活では女優との不倫疑惑に始まり、自身もあっさり認めた修士論文での剽窃、子息のポーカー賭博行為などが俎上に載せられた。
一方、尹候補へ大きな痛手となったのは夫人の経歴詐称だ。夫人は当初こそ否定していたが、結局、一部事実を認め、謝罪に追い込まれた。さらには、義母が療養型病院の運営をめぐって多額の給付金をだまし取っていた詐欺事件の1審で懲役3年となっており、夫人の経歴詐称と合わせて与党からの格好の攻撃材料となった。そして、失言が多すぎるという批判が出ている。
こんな選挙戦に有権者は嫌気が増しており、昨年末の世論調査では、支持層の間で野党「国民の力」で70%が、与党「共に民主党」では35%が「大統領選挙候補者を交代すべき」と回答したという結果が出た。中でも20~30代の60%以上が「候補者交代」が必要と返答している。この世代は今回の大統領選挙最大の浮動層とされ、両選挙陣営とも取り込み必至といわれる層でもある。
若者は「韓国がまた古くさい国になってしまう」と…
30代の大手IT企業に勤める会社員(女性)もやはり投票したい候補者がいないと言う。
「李候補は、自身の推進力を誇りますが、国家を運営するのにそんなに力強い推進力が果たして必要なのかという疑問がわきます。何よりスキャンダルが多すぎる。スキャンダルそのものよりも、まずいことが発覚するたびに見せる態度がとても不遜なのが許せません。この程度話しておけば、あるいはこう振る舞っておけば国民はすぐに忘れるだろう、通用するだろうと思っているのが透けて見えて、バカにするなと言いたくなります。
かといって、尹候補がいいかといわれるとため息しかでない。検察という組織では能力を発揮できたかもしれませんが、選挙陣営の右往左往を見ているとリーダーに必要とされる調整能力に欠けているし、会合などで大股広げて座る姿はあれだけで前時代的な価値観を象徴していて、韓国がまた古くさい国になってしまうような気がして、本当にどちらにも投票したくない。今回は投票権をもらって初めて棄権するかもしれません」