社会 大阪万博、まだ海外パビリオンの建設ゼロ
大阪市で2025年に「大阪・関西万博」が開かれますが、海外の参加国のパビリオン(展示館)はまだ一つも建設が始まっていません。建設業者の人手不足や、建設資材の値段が高いことが理由です。万博の関係者は、開幕まで残り1年9か月で建設が間に合うか心配しています。
万博には現時点で153の国・地域が参加を表明しています。このうちオランダ、ドイツ、スイスなど約50の国・地域は、自分たちで費用を出してパビリオンを造る予定です。ところが、どの国もいまだに、建設に必要な書類を大阪市に提出していません。
日本国際博覧会協会(万博協会)の石毛博行事務総長は13日、緊急記者会見を開き、工事を早める案を説明しました。参加国の代わりに万博協会が建設業者に工事を発注する案などがあるといいます。
再来年の2025年に開催が迫っている大阪・関西万博。しかし、いま深刻な問題に直面しています。
万博の「華」として注目される海外のパビリオンの建設申請が、これまでに1件も行われておらず、準備の遅れが懸念されています。
開幕まで2年を切る中で、いったい何が起きているのでしょうか。
50か国余りが建設予定も 建設申請ゼロ
果たして間に合うのでしょうか?
万博の“華”「タイプA」が…
大阪・関西万博には、これまでに153の国と地域が参加を表明していて、パビリオンの設置には「タイプA」「タイプB」「タイプC」の3種類の方法が用意されています。
「タイプA」は、参加国が博覧会協会から敷地の提供を受け、建物の形状やデザインを自由に構成する方法です。それぞれの国や地域の個性が外観などに反映されるため、万博の「華」として注目されています。
「タイプB」は博覧会協会が建物を建築し、参加国がその建物を借り受けて単独で入居する方法で、「タイプC」は博覧会協会が準備する建物に複数の国がまとまって入居するものです。
博覧会協会によりますと、初めに提出を求めている「基本設計書」をこれまでに協会に提出した国は、「タイプA」を建設する方針の50か国余りのうち9か国です。
申請ゼロの背景は
建設業界が指摘するのは「資材価格の高騰」と「深刻な人手不足」、そして2年後に迫った万博開幕までの「工期の短さ」です。
〈要因1建設資材の高騰〉
▽生コンクリートは、160.0から207.1に
▽鉄鋼は109.1から171.6まで上昇するなど、さまざまな資材価格が高騰しています。
〈要因2建設業界の賃金上昇や人手不足も〉
国土交通省が厚生労働省の「毎月勤労統計調査」をもとにまとめたデータによりますと、建設業の現場で働く人の去年10月の1日あたりの賃金は1万8722円で、5年間で3473円、率にして22%上昇しました。
こうした上昇の背景について国土交通省の担当者は、近年の物価の上昇や人手不足による賃金の引き上げが影響しているのではないかと話しています。
〈要因3工期の短さが受注の難しさに〉
来年からは時間外労働の規制が強化される「2024年問題」を控え、人手不足に拍車がかかることが懸念されています。
中小の建設業者でつくる「全国建設業協同組合連合会」によりますと、いかに余裕をもって工期を組めるかが受注判断のポイントになっているということですが、海外パビリオンの建設は工期が短いうえ、参加する国や地域が趣向を凝らした複雑なデザインになることが多いため、工期内の完成を目指すにはより多くの人手が必要になるということです。
博覧会協会「簡素化も提案 年末までに着工すれば間に合う」
当初の計画では、建設許可を申請してから建設を始めるまでの期間は4か月ほどと想定されています。
博覧会協会は支援策として▽デザインの簡素化による工事期間の短縮や簡単な工法への切り替えを提案する方針を示したほか、▽参加国の代わりに協会が建設会社への発注を行う選択肢を示しました。
専門家「パビリオンの質 多少落とさざるを得なくなる」
「なんとか間に合わせるには工期が短くなるが、人手不足の中ではパビリオンの質を多少落とさざるを得なくなるだろう。万博の目玉、楽しみの一つのパビリオンの魅力が下がれば入場者が減り、その分、当初想定していた経済効果が得られなくなるおそれがある」
その上で藤山副所長は「当初、予測していた収入が得られなくなった場合、その分、誰かが補填しなければならないという事態になりかねない。パビリオンの建物も大事だが、万博の魅力をカバーする中身自体がますます重要になってくる。万博に行きたいと思ってくれる人を増やす取り組みに力を入れないといけない状況だと思う」と話しています。
各方面の反応は…
大阪市 横山市長「準備が進むこと強く願う」
また、海外のパビリオンの建設申請が大阪市に1件も行われていないことについて、物価や資材の高騰、それに建設に携わる人材確保の問題などを踏まえ、早めに発注しなければならないという日本の建設業界をめぐる状況が、海外の参加国に認識されていないことも要因ではないかとした上で「ただ、指をくわえて待っているだけではなく、問題がある部分を関係者などにしっかり聞いて、大阪市としてもできるかぎりスムーズに審査、建設が進むような取り組みをしていきたい」と述べました。
大阪府 吉村知事「タイトになっているのは間違いない」
政府は強い危機感
さらに、先月末には建設業界に対して、施設建設への協力を求める文書も送っています。この中では「参加国のパビリオン建設が開幕までに間に合わない場合には国際博覧会として成立しなくなることが危惧される」と強い危機感を示した上で、事業者が参加国との間でトラブルなどがあった場合は、政府として対応する姿勢を伝え、協力を呼びかけています。
このほか、実施主体の博覧会協会に対しては、参加国ごとに担当者を配置し、建設実務に精通した外国語に対応できる人材による窓口を設けるなどして、参加国と事業者の契約締結を後押しするよう呼びかけています。
岡田万博担当相「開催を遅らせる考えは持っていない」
また、記者団からパビリオンの建設の遅れで開催を延期する可能性があるか問われたのに対し「参加国と施工事業者の双方の話を聞き、建設の加速化を図っているところであり、現時点で開催を遅らせるという考えは持っていない」と述べました。
経団連会長「建設費も高騰 工期的にも非常に厳しい」
ミャクミャク 海外で万博PR
13日には、フランスのパリ近郊で開かれているアニメやゲームなど、日本の文化を幅広く紹介するヨーロッパ最大級のイベント「ジャパンエキスポ」に登場。
博覧会協会が近畿経済産業局とともに出展したブースで、初めての海外での任務となるミャクミャクが手を振ったり、笑顔を振りまいたりしてPRしていました。
大阪・関西万博では、半年間の開催中に予想される2800万人余りの来場者のうち、およそ350万人が海外から訪れると見込まれていて、博覧会協会は今後、海外向けの発信を強化することにしています。
万博まであと2年、ミャクミャクの努力は実るでしょうか。
2025年大阪・関西万博に出展するカナダのローリー・ピーターズ政府代表らが14日、大阪市役所を訪れ、高橋徹副市長と、資材高騰などで準備の遅れが懸念されている海外パビリオンについて意見交換した。
ピーターズ政府代表は、パビリオン建設について「予算が限られ、スケジュールもタイトだ」との認識を示したうえで、労働基準法の改正で来年度から建設業の残業時間に罰則付きの上限規制が設けられることについて、「万博の建設では(残業を)例外的に認めるなど、柔軟に対応してほしい」と求めた。
高橋副市長は、「国もしっかり把握している。すばらしいパビリオンが完成するよう可能な限り協力したい」と述べた。