22日未明の火災で8人が死傷した神戸市兵庫区の集合住宅は、生活困窮者や路上生活者の受け入れ先になっていた。支援してきたNPO法人「神戸の冬を支える会」理事の觜本郁(はしもとかおる)さん(69)は同日、現場を訪れ「こうした住宅があるから助かっている人もいる」「火事については悲しいし、残念」と話した。
「神戸の冬を支える会」は1995年の阪神・淡路大震災を機に、家を失った人や生活に困った人から相談を受けたり、支援をしたりしてきた。これまでに、火災が起きた集合住宅や近隣の同様の住宅などにあっせんした人は数百人に上り、生活保護を受けながら生活再建を目指すという。
保証人なども必要なく、觜本さんは「普通の生活からはみ出してしまう人を受け入れるセーフティーネットの一つで、ありがたい存在だ」と話す。
同NPOの青木茂幸事務局長(66)は朝日新聞の取材に「亡くなられた方も、火災で住居を失った人も含めて心配です」と言葉を詰まらせた。
兵庫県が公表している「ホームレス目視調査」によると、路上や公園、駅舎などで生活している人の数は、神戸市内で2001年に341人いたが、昨年は36人に減っている。
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兵庫県警は同日午後、現場検証を始めた。燃え方の激しい1階の居宅部分が火元の可能性があるとみて、出火原因を調べる。(森直由、小川聡仁)
神戸市兵庫区の集合住宅で22日未明に起きた火災。現場の「第2ひろみ荘」は、寄る辺のない高齢者が身を寄せる「セーフティーネット」でもあった。
なぜ、8人もの死傷者が出てしまったのだろうか。東京理科大の菅原進一名誉教授(建築防災学)は「煙が建物内に充満すれば方向感覚が失われ、避難経路が分からなくなる。火災が発生した時には瞬時に避難を開始しなければならないが、高齢者の場合、体が不自由で迅速に動けなかったり、判断が遅れてしまったりして、建物内に取り残される危険性が高まる」と指摘する。
未明の出火だったが、火は近隣住民の119番から約1時間後にはほぼ消し止められた。ただ、死傷者が見つかった1階には体の不自由な人や高齢者が住んでいて、住人の話では車椅子を使う人もいたという。
兵庫消防署によると、2022年12月19日に第2ひろみ荘の管理者から消火設備の点検結果について報告を受けたが、この際、防火設備には問題がなく、消火器は各階に設置されていたという。火災報知機などもあったとみられ、避難した住人の中には「火災報知機の音に気付いて逃げ出した」と話す人もいた。
消防法でスプリンクラーの設置が義務付けられているのは11階建て以上の建物で第2ひろみ荘は対象外だった。菅原名誉教授は「それでもスプリンクラーなどの消火設備で安全性を高め、出口への誘導灯を下方に設置するなどして避難経路を確保する必要があったのかもしれない」と述べる。
菅原名誉教授は「火災による犠牲者を完全に出さないことは難しいが、再発防止のために問題点を検証することが重要だ」と訴えた。【清水晃平、郡悠介、安元久美子】