PCR検査を阻む「感染症利権」と安倍総理の政策センスのなさ<『ドキュメント感染症利権』著者・山岡淳一郎氏>
◆厚労省と文科省の縄張り争い
―― 山岡さんは新著『ドキュメント感染症利権』(ちくま新書)で、日本の新型コロナウイルス対策がうまくいかない背景を、歴史にさかのぼって描いています。安倍政権のコロナ対策の最大の問題は、PCR検査が一向に増えないことだと思います。この原因はどこにあるのですか。
山岡淳一郎氏(以下、山岡):PCR検査の精度がよくないとか、偽陽性や偽陰性が出るだとか、様々なことが言われていますが、ネックになっているのは厚生労働省と文部科学省の縄張り争いです。
もともと日本の感染症対策は、厚生省と国立感染症研究所(感染研)、国立国際医療研究センターが主軸となって行うことになっています。感染研がウイルスの遺伝情報の解析や、予防、検査、診断、治療に関する生物学的製剤の製造などを行い、国際医療研究センターが患者の治療にあたり、その知見を研究にフィードバックします。厚労省はこれら全体を調整するのが役割です。(朱字は管理人)
新型コロナのPCR検査に関しても、感染研が必要な試薬や装置を組み合わせ、自家調整の検査に取り組んでいます。彼らは1月28日から全国約80か所にある傘下の地方衛生研究所にマニュアルを配り、自家調整のPCR検査の体制整備に取りかかっています。同日、安倍政権も新型コロナ感染症を感染症法の「指定感染症」、検疫法の「検疫感染症」に指定する政令を出しています。
しかし、2月3日にダイヤモンド・プリンセス号が横浜大黒埠頭に接岸すると、この体制はたちまち暗礁に乗り上げてしまいます。検査を行う地方衛生研究所のキャパシティが絶対的に足りなかったのです。人も予算もどんどん減らされてきたツケです。
そこで、厚労省と感染研は検査体制を拡充するため、民間の受託検査会社にPCR検査の実施を打診します。しかし、ここでは感染研が自家調整した検査法を行うことが前提になっていました。民間会社からすれば、自家調整の検査は事前に必要な試薬を集めて調整したり、検査の質を確認したりしなければならないため、手間暇がかかります。これではPCR検査が拡大しないのは無理もありません。
他方、文科省側は3月中にPCR検査に関して大学への聞き取りを終えていました。日本の大学病院の多くがPCR検査機を所有しており、理化学研究所なども十分な検査能力を備えています。厚労省と文科省が力を合わせれば、検査拡大に向けて一気に動き出すことができたはずです。
しかし、加藤勝信厚労大臣は文科省への協力要請を行わず、それどころか一般の大病院のPCR検査を認めようとしませんでした。文科省も厚労省に働きかけようとせず、不作為を続けました。緊急事態宣言をきっかけに大学や研究機関の活動が止まってしまったことも大きかったと思います。こうしてPCR検査拡充は妨げられることになったのです。
◆過重労働を強いられる保健所
―― この間、「新型コロナの疑いがあるので保健所に相談したが、保健所が取り合ってくれなかった」といった批判がなされていましたが、これもPCR検査を厚労省の管轄内で収めようとしたことが原因だと思います。
山岡:その通りです。日本の保健所は新型コロナ感染の対応窓口「帰国者・接触者相談センター」を運営し、感染者が病院に殺到して医療崩壊が起きないように調整役を務めています。保健所の相談センターが必要と判断すれば、病院の「帰国者・接触者外来」を紹介し、PCR検査を行います。そして、そこで陽性だったら入院するという流れになっています。つまり、保健所は病院に入る前に患者をチェックして振り分ける「門衛」の役割を担っているのです。
―― 山岡さんは新著『ドキュメント感染症利権』(ちくま新書)で、日本の新型コロナウイルス対策がうまくいかない背景を、歴史にさかのぼって描いています。安倍政権のコロナ対策の最大の問題は、PCR検査が一向に増えないことだと思います。この原因はどこにあるのですか。
山岡淳一郎氏(以下、山岡):PCR検査の精度がよくないとか、偽陽性や偽陰性が出るだとか、様々なことが言われていますが、ネックになっているのは厚生労働省と文部科学省の縄張り争いです。
もともと日本の感染症対策は、厚生省と国立感染症研究所(感染研)、国立国際医療研究センターが主軸となって行うことになっています。感染研がウイルスの遺伝情報の解析や、予防、検査、診断、治療に関する生物学的製剤の製造などを行い、国際医療研究センターが患者の治療にあたり、その知見を研究にフィードバックします。厚労省はこれら全体を調整するのが役割です。(朱字は管理人)
新型コロナのPCR検査に関しても、感染研が必要な試薬や装置を組み合わせ、自家調整の検査に取り組んでいます。彼らは1月28日から全国約80か所にある傘下の地方衛生研究所にマニュアルを配り、自家調整のPCR検査の体制整備に取りかかっています。同日、安倍政権も新型コロナ感染症を感染症法の「指定感染症」、検疫法の「検疫感染症」に指定する政令を出しています。
しかし、2月3日にダイヤモンド・プリンセス号が横浜大黒埠頭に接岸すると、この体制はたちまち暗礁に乗り上げてしまいます。検査を行う地方衛生研究所のキャパシティが絶対的に足りなかったのです。人も予算もどんどん減らされてきたツケです。
そこで、厚労省と感染研は検査体制を拡充するため、民間の受託検査会社にPCR検査の実施を打診します。しかし、ここでは感染研が自家調整した検査法を行うことが前提になっていました。民間会社からすれば、自家調整の検査は事前に必要な試薬を集めて調整したり、検査の質を確認したりしなければならないため、手間暇がかかります。これではPCR検査が拡大しないのは無理もありません。
他方、文科省側は3月中にPCR検査に関して大学への聞き取りを終えていました。日本の大学病院の多くがPCR検査機を所有しており、理化学研究所なども十分な検査能力を備えています。厚労省と文科省が力を合わせれば、検査拡大に向けて一気に動き出すことができたはずです。
しかし、加藤勝信厚労大臣は文科省への協力要請を行わず、それどころか一般の大病院のPCR検査を認めようとしませんでした。文科省も厚労省に働きかけようとせず、不作為を続けました。緊急事態宣言をきっかけに大学や研究機関の活動が止まってしまったことも大きかったと思います。こうしてPCR検査拡充は妨げられることになったのです。
◆過重労働を強いられる保健所
―― この間、「新型コロナの疑いがあるので保健所に相談したが、保健所が取り合ってくれなかった」といった批判がなされていましたが、これもPCR検査を厚労省の管轄内で収めようとしたことが原因だと思います。
山岡:その通りです。日本の保健所は新型コロナ感染の対応窓口「帰国者・接触者相談センター」を運営し、感染者が病院に殺到して医療崩壊が起きないように調整役を務めています。保健所の相談センターが必要と判断すれば、病院の「帰国者・接触者外来」を紹介し、PCR検査を行います。そして、そこで陽性だったら入院するという流れになっています。つまり、保健所は病院に入る前に患者をチェックして振り分ける「門衛」の役割を担っているのです。
しかし、新型コロナの感染拡大によって、保健所は人的にも物的にも大変厳しい状況に立たされました。たとえば、世田谷区の保健所では、職員たちが相談センターの電話対応をし、感染の疑いがある人の家に出張してPCR検体を採取し、その検体をボックスに入れて検査機関に運び、検査結果を本人に知らせ、陽性の場合は治療を受ける病院を選んで患者を送迎するといった具合に、ほぼすべてを一手に担っていたのです。相当な過重労働です。
保健所の管理手法が前近代的なことも大きな負担になっています。保健所は感染者を一人ひとり調べ、データにまとめると、その通知を都道府県に対してファックスで行っています。この作業のために夜中の2時、3時まで残業することも珍しくありません。いまどきファックスを使っていること自体珍しいですし、ファックスの回線が混み、データが滞留してしまうこともあるそうです。他の先進国では考えられないことです。
これは見方を変えれば、それだけ保健所が軽視されてきたということです。日本では1994年に効率を重んじる地域保健法が成立したことをきっかけに、保健所の統廃合が進みます。その結果、1994年には848か所あった保健所は、2019年には472か所へとほぼ半減してしまいました。保健所の数が減れば、個々の保健所の担当領域が広がるため、どうしても住民との距離は開いてしまいます。国の補助費もどんどん削られ、保健所の力は衰える一方です。
そのため、保健所からすれば、これ以上限られた資源の中でどう戦えばいいのかということになるわけです。現在のような厚労省中心の枠組みではどうしても限界があるのです。
◆レムデシビルという「政治銘柄」
―― 新型コロナを抑えるためには、抗ウイルス薬やワクチンも重要になります。日本で最初に抗ウイルス薬として特例承認されたのは、アメリカの製薬大手ギリアド・サイエンシズ社が開発した「レムデシビル」でした。
山岡:レムデシビルはギリアド・サイエンシズ社がエボラ出血熱を対象に開発を進めた静注薬(点滴)です。重症化した患者に効くと言われていますが、臨床実験では肝機能障害や腎機能障害、下痢などの頻度が高く、重篤な多臓器不全や急性腎障害といった副作用も報告されています。まだアメリカ本国ではいかなる疾病の治療にも適用されておらず、ギリアド社も自身のホームページで、レムデシビルに関連して行っている試験や臨床試験で良好な結果が得られない可能性があることを明らかにしています(5月8日時点)。
それでは、なぜレムデシビルは他の治療薬候補を差し置いて、真っ先に特例承認されたのか。それはギリアド社がアメリカ有数の「政治銘柄」であることが関わっていると思います。ギリアド社はアメリカの政治家たちに深く食い込んでおり、中でもジョージ・W・ブッシュ政権で国防大臣を務めたドナルド・ラムズフェルドは同社の会長を務めています。
ギリアド社はこの政治力を利用し、高額の薬を売りさばいてきました。実は日本もギリアド社のお得意先です。小泉政権時代に日本が大量に輸入した抗インフルエンザ薬タミフルは、ギリアド社が特許権を持つ薬なのです。
日本はラムズフェルドが国防大臣に就任した2001年に、タミフルを保険適用にしています。折しもアメリカは「年次改革要望書」を日本に突きつけ、アメリカの医薬品を日本の薬価制度で縛らず、言い値の薬価を設定することや、他国で承認された医薬品をすぐに承認することなどを求めていました。
2003年末以降、アジア各地で高病原性鳥インフルエンザが発生すると、日本はタミフルの備蓄に走ります。2004年8月には小泉政権は国と都道府県で計1000万人分を国家備蓄する方針を固めています。一定量は流通備蓄薬とし、インフルエンザの流行状況に応じて市場に出すことにしたのです。
保健所の管理手法が前近代的なことも大きな負担になっています。保健所は感染者を一人ひとり調べ、データにまとめると、その通知を都道府県に対してファックスで行っています。この作業のために夜中の2時、3時まで残業することも珍しくありません。いまどきファックスを使っていること自体珍しいですし、ファックスの回線が混み、データが滞留してしまうこともあるそうです。他の先進国では考えられないことです。
これは見方を変えれば、それだけ保健所が軽視されてきたということです。日本では1994年に効率を重んじる地域保健法が成立したことをきっかけに、保健所の統廃合が進みます。その結果、1994年には848か所あった保健所は、2019年には472か所へとほぼ半減してしまいました。保健所の数が減れば、個々の保健所の担当領域が広がるため、どうしても住民との距離は開いてしまいます。国の補助費もどんどん削られ、保健所の力は衰える一方です。
そのため、保健所からすれば、これ以上限られた資源の中でどう戦えばいいのかということになるわけです。現在のような厚労省中心の枠組みではどうしても限界があるのです。
◆レムデシビルという「政治銘柄」
―― 新型コロナを抑えるためには、抗ウイルス薬やワクチンも重要になります。日本で最初に抗ウイルス薬として特例承認されたのは、アメリカの製薬大手ギリアド・サイエンシズ社が開発した「レムデシビル」でした。
山岡:レムデシビルはギリアド・サイエンシズ社がエボラ出血熱を対象に開発を進めた静注薬(点滴)です。重症化した患者に効くと言われていますが、臨床実験では肝機能障害や腎機能障害、下痢などの頻度が高く、重篤な多臓器不全や急性腎障害といった副作用も報告されています。まだアメリカ本国ではいかなる疾病の治療にも適用されておらず、ギリアド社も自身のホームページで、レムデシビルに関連して行っている試験や臨床試験で良好な結果が得られない可能性があることを明らかにしています(5月8日時点)。
それでは、なぜレムデシビルは他の治療薬候補を差し置いて、真っ先に特例承認されたのか。それはギリアド社がアメリカ有数の「政治銘柄」であることが関わっていると思います。ギリアド社はアメリカの政治家たちに深く食い込んでおり、中でもジョージ・W・ブッシュ政権で国防大臣を務めたドナルド・ラムズフェルドは同社の会長を務めています。
ギリアド社はこの政治力を利用し、高額の薬を売りさばいてきました。実は日本もギリアド社のお得意先です。小泉政権時代に日本が大量に輸入した抗インフルエンザ薬タミフルは、ギリアド社が特許権を持つ薬なのです。
日本はラムズフェルドが国防大臣に就任した2001年に、タミフルを保険適用にしています。折しもアメリカは「年次改革要望書」を日本に突きつけ、アメリカの医薬品を日本の薬価制度で縛らず、言い値の薬価を設定することや、他国で承認された医薬品をすぐに承認することなどを求めていました。
2003年末以降、アジア各地で高病原性鳥インフルエンザが発生すると、日本はタミフルの備蓄に走ります。2004年8月には小泉政権は国と都道府県で計1000万人分を国家備蓄する方針を固めています。一定量は流通備蓄薬とし、インフルエンザの流行状況に応じて市場に出すことにしたのです。
その結果、日本は世界一タミフルを使う国になりました。2005年のFDA(米国食品医薬品局)の小児諮問委員会への報告によれば、日本はタミフルの全世界使用量の75%を占めていました。日本はタミフル浸けにされたわけです。
その後もギリアド社は日本にどんどん薬を売り込んできています。今度のレムデシビルもその流れの中で出てきたということを見落としてはならないと思います。
◆PCRが増えない元凶は安倍総理
―― 今年の秋から冬に新型コロナの第二波が来ると言われています。PCR検査の拡充が急務です。どうすれば検査を増やせるでしょうか。
山岡:最初に述べたように、厚労省中心の枠組みはキャパシティをオーバーしています。保健所や地方衛生研究所のマンパワー、資金の増強とともに、文科省を含め、他の省庁の協力を仰ぐ必要があるでしょう。
その際には防衛省や自衛隊との協力も検討すべきです。自衛隊中央病院はダイヤモンド・プリンセス号の乗客など、200人を超える新型コロナの患者を受け入れましたが、院内感染を起こしていません。彼らは普段から感染症患者の受け入れ訓練などを行っており、ゾーニングをはじめ感染防御も徹底しています。何より医療資源に余裕がある。自衛隊中央病院の病床数は500床ですが、いざとなれば倍に増やせる。無症状の感染者を収容する施設の建設や運用にも人を出せるのではないか。
感染症と対峙する上では軍隊組織のような秩序が必要です。そこから考えると、自衛隊の果たせる役割は多いと思います。
とはいえ、厚労官僚たちに文科省や防衛省と話をつけろと言っても、それは無茶というものです。省庁間をつなぐのは政治家の役割です。政治が動けば、PCR検査を拡充することは難しいことではないのです。
―― 安倍総理はPCR検査を増やすと明言していますが、一向に増える気配がありません。官僚たちが総理の意向を忖度してくれる様子も見られません。
山岡:安倍総理は口で増やすと言っているだけで、具体的なアイディアが伴っていません。自分が言えば官僚が忖度して動いてくれると思っているなら、それは間違いです。たとえば文科省や防衛省と協力しろと具体的に指示を出さなければ、官僚は動きません。いまのやり方では国は動かせないのです。安倍総理に政策を理解し、ツボを押さえる能力がないから、PCR検査を増やせないのです。
先日、PCR検査の大幅拡充に取り組んでいる世田谷区の保坂展人区長が日本記者クラブで会見を開き、いま政界に野中広務さんや亀井静香さんがいたら、国民の命を最優先で守るという政治の原点を踏まえ、もっと早くPCR検査の拡充に取り組んでいただろうと述べていました。私も全くその通りだと思います。
文科省と厚労省の間に縄張り争いがあるのは、ある意味で当然のことです。それを調整するのが政治家の役割です。その意味で、PCR検査が増えない最大の原因は安倍総理の政策センスのなさです。このことは強調しておきたいと思います。
(8月7日、聞き手・構成 中村友哉)
やまおかじゅんいちろう●1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。時事番組の司会、コメンテーターも務める。一般社団法人デモクラシータイムス同人。東京富士大学客員教授
<提供元/月刊日本2020年9月号>
【月刊日本】
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
その後もギリアド社は日本にどんどん薬を売り込んできています。今度のレムデシビルもその流れの中で出てきたということを見落としてはならないと思います。
◆PCRが増えない元凶は安倍総理
―― 今年の秋から冬に新型コロナの第二波が来ると言われています。PCR検査の拡充が急務です。どうすれば検査を増やせるでしょうか。
山岡:最初に述べたように、厚労省中心の枠組みはキャパシティをオーバーしています。保健所や地方衛生研究所のマンパワー、資金の増強とともに、文科省を含め、他の省庁の協力を仰ぐ必要があるでしょう。
その際には防衛省や自衛隊との協力も検討すべきです。自衛隊中央病院はダイヤモンド・プリンセス号の乗客など、200人を超える新型コロナの患者を受け入れましたが、院内感染を起こしていません。彼らは普段から感染症患者の受け入れ訓練などを行っており、ゾーニングをはじめ感染防御も徹底しています。何より医療資源に余裕がある。自衛隊中央病院の病床数は500床ですが、いざとなれば倍に増やせる。無症状の感染者を収容する施設の建設や運用にも人を出せるのではないか。
感染症と対峙する上では軍隊組織のような秩序が必要です。そこから考えると、自衛隊の果たせる役割は多いと思います。
とはいえ、厚労官僚たちに文科省や防衛省と話をつけろと言っても、それは無茶というものです。省庁間をつなぐのは政治家の役割です。政治が動けば、PCR検査を拡充することは難しいことではないのです。
―― 安倍総理はPCR検査を増やすと明言していますが、一向に増える気配がありません。官僚たちが総理の意向を忖度してくれる様子も見られません。
山岡:安倍総理は口で増やすと言っているだけで、具体的なアイディアが伴っていません。自分が言えば官僚が忖度して動いてくれると思っているなら、それは間違いです。たとえば文科省や防衛省と協力しろと具体的に指示を出さなければ、官僚は動きません。いまのやり方では国は動かせないのです。安倍総理に政策を理解し、ツボを押さえる能力がないから、PCR検査を増やせないのです。
先日、PCR検査の大幅拡充に取り組んでいる世田谷区の保坂展人区長が日本記者クラブで会見を開き、いま政界に野中広務さんや亀井静香さんがいたら、国民の命を最優先で守るという政治の原点を踏まえ、もっと早くPCR検査の拡充に取り組んでいただろうと述べていました。私も全くその通りだと思います。
文科省と厚労省の間に縄張り争いがあるのは、ある意味で当然のことです。それを調整するのが政治家の役割です。その意味で、PCR検査が増えない最大の原因は安倍総理の政策センスのなさです。このことは強調しておきたいと思います。
(8月7日、聞き手・構成 中村友哉)
やまおかじゅんいちろう●1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。時事番組の司会、コメンテーターも務める。一般社団法人デモクラシータイムス同人。東京富士大学客員教授
<提供元/月刊日本2020年9月号>
【月刊日本】
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。