2021年5月1日 06時00分
インド由来の新型コロナウイルス変異株が、英国株に続く「脅威」となると専門家が危ぶんでいる。日本人に多い白血球の型による免疫が効きにくくなると指摘されるからだ。インド株は既に空港検疫だけでなく、東京都内で見つかっている。感染力は英国株を上回るという報告もあり、政府は警戒を強める。(沢田千秋)
◆インドの感染、1日34万人
「毎朝、知人の誰かが亡くなったと知らされる」。英BBC放送は連日、インドの惨状を伝える。最近の1週間平均では1日約34万人の感染が判明し、約2600人が死亡。病院のベッドが埋まり、入院できない大勢が路上で酸素吸入を受けている。
大規模イベントの影響に加え、インド株の感染力の強さが関係した可能性がある。世界保健機関(WHO)は4月下旬、インド株を「VOI(注目すべき変異株)」に指定した。警戒対象としては、英国株が指定されている「VOC(懸念すべき変異株)」の一段階下の扱いだ。
日本でも同時期、国立感染症研究所がインド株を「VOI」に指定。感染研によると、国内でインド株は空港検疫で20人、都内では80代女性1人から見つかった。
◆「免疫細胞から逃れる能力」示す実験結果
インド株には「L452R」と「E484Q」という2つの特徴的な変異がみられる。東京大や熊本大などの研究チーム「G2P―Japan」は4月、L452R変異は、日本人の6割が持つ白血球の型「HLA(ヒト白血球抗原)―A24」がつくる免疫細胞から逃れる能力があるという実験結果を発表した。
これは、6割の日本人がインド株に対して免疫低下の可能性があることを意味する。研究チームによる別の実験では、L452R変異が人の細胞とくっつきやすく、感染力が高いことが分かったという。
L452R変異は、米カリフォルニア州から全米に広がった変異株からも見つかっている。研究チームは「HLA―A24は東アジア人に多く、カリフォルニア州は米国で最もアジア人が多い。L452R変異はアジア人の免疫から逃れるために発現したとも仮定できる」と指摘する。
◆インドからの水際対策に課題
インドのニュースサイト「プリント」の報道によると、同国ではインド株が英国株を凌駕し、置き換わりが起きたという。日本では関西圏で英国株による感染再拡大が起き、首都圏にも広がっている。インド株が英国株の感染力を上回れば、今後、国内でも拡大する可能性が出てくる。
政府は28日、インドからの入国者の水際対策を強化した。だが、現在行われている変異株PCR検査は、英国株などが持つ「N501Y」変異しか検出できない。インド株を見分けるには、結果判明まで1~2週間かかるゲノム(全遺伝情報)解析が必要で、感染実態を把握するためにも、感染研はインド株を検出できるPCR検査の導入を検討中だ。
研究チームを主催する東大医科学研究所の佐藤佳准教授は「日本はこれまで、欧米に比べて感染者数や死者は少なかったが、L452R変異が脅威となる可能性がある」と話し、徹底した調査を求めている。