-もう少し具体的におうかがいします。尹錫悦検事を検察総長に起用する際、大統領府内外で意見がはっきりと割れた、と当時民情首席だったチョ・グク前祖国革新党代表は本に書いています。それでも文大統領が尹錫悦検事を検事総長に起用した理由と、その過程はどのようなものだったのか、少し詳しく説明していただけますか。
「ああ、そうですね。いずれにせよ、それが尹錫悦大統領誕生のいちばんの端緒になるわけですからね。後悔していますよ。実際にあの当時、賛否が割れていたのはその通りです。割合で言うと、(尹錫悦検察総長の任命を)支持し賛成する意見の方がはるかに多く、反対意見は少数でした。民主党は全面的に支持し、賛成する、そのような意見でした。でも、その反対意見は数的には小さくてもそう無視できなかったのは、私のみるところ相当な説得力があったんです。
だから、どんな人たちだったかというと、尹錫悦中央地検長時代に例えば法務部長官をしていたとか、とにかくその時期に尹錫悦に近くで接した人たち、そういう人たちが尹錫悦候補について語ると、短気な性格で、言わば自己制御がうまくできないことが多くある、そして尹錫悦師団という言葉ができるほど、非常に身内びいきなスタイルだという意見を、それは後で考えるとすべて事実で、その話は正しいことが後に確認されたわけです。とにかく近くで接した人たちがその接してきた経験にもとづいて言っているため、実際に人事においてはそういう意見が重要なんです。だから反対は数は少ないですが、十分に耳を傾けるに値する内容だったので、でもまあ多数は支持、賛成していましたから、それでたいへん悩みました。
そこで、チョ・グク民情首席と私とで、検察総長候補推薦委員会から推薦された候補は4人だったのですが、その4人全員をチョ・グク首席が自ら一人ひとりインタビューして、当時私たちが最も重要だと考えていた検察改革に対する各候補の意志や考えを確認してみることにしたのですが、チョ・グク首席が4人全員に会ってみた結果、残りの3人は全員検察改革に反対の意見を明確にし、尹錫悦候補だけが、言わば検察改革に対して支持する、そういう話をしたというんです。
それで最終的に2人に絞って考えました。(尹錫悦候補ではなく)もう1人はチョ・グク首席と同じ時期に大学に通っていて、また私たちの政権で検察の高位職をしており、チョ・グク首席との人間的な関係も悪くなく、意思疎通もかなりうまくいく、そんな関係だったんですが、残念ながらその方は検事として検察改革には賛成できないと、検察改革に対してはっきりと反対意見を述べたということで、いわば検事マインドが強いということです。そして、もう1人が尹錫悦、コミュニケーションは少し取りにくいかもしれませんが、検察改革の意志だけはとにかく肯定的に語っていたし、実際に尹錫悦候補は中央地検長時代に検察改革に対して少し好意的な態度を示したことがありました。それで悩んだわけです。今思えば、それでもチョ・グク首席とコミュニケーションが取れて関係の良好な、そういう方を選ぶのが理にかなっていたのかも知れません。
でも、あの当時、私とチョ・グク首席は検察改革というものに、いわば肩に力が入り過ぎていたというか、それに夢中になっていたというか、だから多少問題があっても尹錫悦候補を選んだのですが、そのせいでその後に非常に多くのことが起こったため、あの瞬間が返す返すも悔やまれます」
(文前大統領は公式インタビューの終了後の少し自由な会話で、チョ・グク前祖国革新党代表のことを「最も痛い指」だとして「限りなく申し訳ない」と語った。そして、「チョ・グク前代表がすごいのは、(尹錫悦ではない方の)別の検察総長候補と親しかったのに、その候補者を推薦しなかったこと。検察改革に消極的だという理由からだ。あの時、チョ・グク前代表と親しいその候補を推薦していたなら、その人にさせたはずなのに、そうはしなかった」と語った)
-尹錫悦検事総長は自分の期待とは異なる道を歩んでいる、期待外れだと考えるようになったのはいつからですか。
「チョ・グク首席が法務部長官候補に指名された時、チョ・グク候補の一家に対する捜査は明確にチョ・グク首席の主導した検察改革、また後に法務部長官になったらさらに強力に進められる検察改革に対する報復であり、足を引っ張る行為だったわけです。その時初めて分かったんです。そのため、チョ・グク長官候補の家族は、いわゆるぼろぼろになってしまったわけです。実に人間的に皮肉です。尹錫悦をソウル中央地検長に起用する際、最も支持したのがチョ・グク首席で、検察総長に起用する際にもチョ・グク首席が味方になってやったわけですが、逆に尹錫悦総長(当時)からそのようなことをされたのですから、実に人間的に皮肉なことです」
-尹錫悦総長がチョ・グク法務部長官の人事聴聞会を前にして捜査を開始した際、自分は起用する人間を間違えたと後悔しましたか。
「はい。なぜなら、尹錫悦総長が『いくらチョ・グク首席でも容認できないのが、いわゆる私募ファンドだ』と言って、それは詐欺だということだったわけです。でも実際に私募ファンドはすべて無罪になったじゃないですか。まったく関係のない、単なる、表彰状だとか何だとか別のものを持ち出して、家族をみんなああいう風にしてしまったわけです」
-文大統領の責任論を主張する人々がいます。結果論的な話ですが、尹錫悦大統領は散々な失敗をしたわけですが、その失敗の一部については彼を起用した文大統領の責任ではないかというのです。こういった主張についてどう思われますか。
「それは問題ではなく、とにかく尹錫悦政権は何もできなかったわけでしょう。水準の低すぎる政権、今回の戒厳の前も本当に何もできていなかったし、水準の低い政治をしていましたが、自分たちはこのような人々に政権を渡してしまったという自責の念、そのようなものがとても強い。そして、そのような姿が見える度に、本当に国民に申し訳なかったですし。それに加えて今回の弾劾、戒厳事態が起きたものだから、本当に自責の念は言葉にできないし、夜眠れないほど国民に申し訳ない気持ちです。
その始まりが尹錫悦検事総長の起用なのは確かですが、検事総長というポストは大統領になるポストではないんですよ。そもそも検事総長は、むしろ退任後に政界入りすることが批判されるポストです。なぜなら政治的中立性が要求されるからで、検事総長への起用が終わりではなく、その後に例えば尹錫悦検事総長に対する何らかの懲戒、そのような過程が滑らかにうまくいかず粗雑になったことで、逆に非常に多くの逆風を浴びたし、そのために尹錫悦検事総長を政治的にとても大きくしてしまったわけです。それで、まるで文在寅政権と対極にある人物のようにしてしまったために、それが国民の力の大統領候補にまでしてしまったんだと思います。
しかし、それもまた終わりではなく、さらに残念なのは、実は前回の大統領選挙です。なぜなら、尹錫悦候補はとにかく前回の大統領選挙の過程ですでに示してくれていたんです。あの人は言ってみれば有能な検事かもしれないけれど、大統領の資質はまったくない人、何らかのビジョンだとか政策能力みたいなものも全然なく、準備も全然できていない人だということが、あの時すでにあらわになっていたわけです。だから、最初はくみしやすい相手だと思ったんです。私たちの側の候補(イ・ジェミョン候補)の方がビジョンや政策能力、または大統領としての資質やそのような部分がはるかに優れているので、簡単に勝てるだろうと考えていたんですが、おそらくビジョンや政策能力をめぐって競争する選挙になっていたなら当然そうなっていたでしょう。歴代の大統領選挙はそうやってきましたからね。ところがそうは流れないで、言ってみればひといある種のネガティブ選挙によって、まるでどちらがより嫌われているかを競っているかのように、そのように選挙が流れてしまったし、その枠組みから結局は抜け出せなかったことが敗因となってしまったんです。
そのように全過程を通じて後悔するところが数々ありますが、総体として尹錫悦政権を誕生させたということに対して私たちの政権(文在寅政権)の人々は、もちろん私に最大の責任があるはずだし、それに対して私たちは自由ではないと思います。国民に申し訳なく思っています」
-先ほどおっしゃいましたが、当時、チュ・ミエ法務部長官と尹錫悦検事総長とが鋭く対立していました。あの時、いくら検事総長が任期の保障されたポストだったとしても、なぜ大統領の人事権を行使して検事総長を辞めさせなかったのか疑問に思っている人もいます。これについてはどのように説明なさいますか。
「そのような部分は、ハンギョレ新聞のようなメディアがきちんと伝えるべきことですが、そう言ってしまうと、帝王的大統領を批判しながら大統領に帝王的な権限権力を行使すべきだと要求するのと同じことです。矛盾する主張ですが、まずは、大統領には検事総長を解任する人事権がありません。だから、そのような権限はそもそもないんです。やるとしたら、政治的に圧力を加えることはできるかも知れません。
例えば『信頼しない』ということをおおっぴらに言うとか、マスコミを通じて辞任を迫るとか、実際に過去の権威主義時代には、大統領が少し不快に思っているということをちょっとほのめかしただけでも検事総長が自ら身を引く、そんな時代がありましたから。今はもう時代が違いますからね。今はそのように迫ったら、尹錫悦総長本人はもちろんですし、検察組織全体が反発するし、当然にも保守メディアもいきり立つでしょうし、そうなれば途方もない逆風が生じ、それはまた大統領選挙で非常に大きな悪材料になるでしょう。それを選択することはできませんし、大統領に権限があるように考えるからそのようなことを言うわけで、その部分はそうではないということは明確にしてほしいと思います。
あの当時、尹錫悦総長を辞めさせる唯一の方法は、法務部長官は懲戒建議で懲戒解任ができるため、実際に当時の法務部長官はそれを試みたんです。ところが、その過程がとてもうまく処理されればよかったのですが、そのように処理されずに進んだため、いわば解任もできずに逆風を浴びて政治的にあの人を大きくする結果になってしまったんです」
パク・チャンス大記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
文在寅(ムン・ジェイン)前大統領;画像はネットから借用
チョ・グク首席;画像はネットから借用(2024/12/12 韓国最高裁は12日、娘の入試不正疑惑などで起訴されていた祖国革新党のチョ・グク(曺国)前代表に懲役2年を言い渡した1審の判決を確定した。これでいわゆる「チョ・グク騒動」は5年ぶりに終結を迎えた。)
李 在明(イ・ジェミョン);画像はネットから借用
尹錫悦大統領;画像はネットから借用