小池百合子都知事の学歴が信じられない7つの理由(後編)
2020.6.3(水) 黒木 亮 JBPress
小池百合子東京都知事の学歴詐称疑惑が取りざたされている。色々な情報があるので、このへんで一度整理することが必要だと考え、本稿を執筆した。
筆者は5回の現地取材を含む2年以上にわたる調査を踏まえ、「小池氏がカイロ大学を卒業した事実はない」という結論に至った。その理由を以下に列挙する。
(前編はこちら)前編
7、カイロ大学の“お友達人脈”
小池氏が学歴に関して言うのは、「卒業証書も卒業証明書もある。カイロ大学も卒業を認めている」だけである。しかし、卒業証書類のほうは、提出を頑なに拒んでいるのだから、お話にならない。では「カイロ大学も認めている」のほうはどうかと言うと、これもまた信用できない話なのである。
小池氏の学歴詐称疑惑に関して、カイロ大学に照会すればすぐに決着がつくだろうという意見をネット上で時々見る。しかしそれは、腐敗した発展途上国の実態を知らない人の発想だ。エジプトは、「腐敗認識指数」で世界180カ国中105位(ランキングが低いほど腐敗度が高い)という汚職や不正が横行する国だ。大学の卒業証書など、カネとコネでなんとでもなる。
エジプトでは、有力政治家が「この人間を卒業したことにしろ」と言えば、学長は職員に命じて卒業証明書や卒業証書を作らせる。職員は入学記録や初年度の成績などを参考に成績表も偽造し、大学内の記録も含めて形式的に完璧にする。こうしたことが行われているのは“社会常識”で、5回の現地取材で会ったエジプト人で否定する人は1人もいなかった。小池氏が卒業したと称しているサダト大統領時代(1970~81年)には特にひどかったという。
偽造卒業証書を売る業者もおり、2017年には、エジプト人女性ジャーナリスト、ダリヤ・シェブル氏が複数の業者に接触し、実態を明らかにしている。ある業者は、「大学内部の記録まで捏造して卒業証書を発行する場合は40日、そうでない場合は20日で納品できる」と言い、別の業者は「自分にはカイロ大学、アイン・シャムス大学、ファイユーム大学、ザガジグ大学内に協力者がいる」と豪語したという。アイン・シャムス大学医学部の偽卒業証書で医師として働いている2人の人物の存在も突き止めている。カイロ大学のナッサール学長自身、2015年にエジプトの民放CBCに出演し、大学の教授や職員が関与して偽卒業証書が発行されていることを認めている。
小池氏は、従来から「カイロ大学は何度も自分の卒業を認めている」と主張してきた。しかし、筆者が知る限り、同大学文学部日本語学科長のアーデル・アミン・サーレハ教授が、2017年に、ジャーナリストの山田敏弘氏の取材に対し「(小池氏は)1年時にアラビア語を落としているようだが補習でクリアしている」と回答したり、同じく石井妙子氏の質問に対して「確かに小池氏は1976年に卒業している。1972年、1年生の時にアラビア語を落としているが、4年生のときに同科目をパスしている」と回答した程度だ。
この回答は嘘である。なぜなら、同居人女性が、当時のメモや手紙という物的証拠にもとづき、小池氏は1973年10月に2年に編入したと証言しているからだ。さらに石井妙子氏は、当時エジプトの別の大学に留学していた女性から裏付け証言をとっており、筆者も当時をよく知る別の日本人から裏付け証言をとっている。
父親のコネで2年生に編入
小池氏は父親をつうじてコネがあった当時の副首相アブデル=カーデル・ハーテム氏のコネを使い、1973年10月にカイロ大学2年に編入したのである。この編入自体、編入資格を満たさない不正なものであったと考えられることは、「徹底研究!小池百合子「カイロ大卒」の真偽」の第4回(
徹底研究!小池百合子「カイロ大卒」の真偽〈4〉「不正入学」というもう一つの疑惑)で詳述した。
さらにサーレハ氏の「小池氏は4年で1976年に卒業している」という回答は、小池氏自身の本の記述とも矛盾している。前述のとおり、小池氏は『振り袖、ピラミッドを登る』の中で、1年目に落第したと明記している。それならば制度上、卒業は早くても1977年になる。サーレハ氏は、小池氏が言っているとおりに回答したつもりだろうが、小池氏が日本で書いたり話したりしていることまでは調べていないようで、間の抜けた話である。
ただ小池氏に関しては、カネかコネで、1976年から現在に至るまでのどこかで大学内の記録が書き換えられた可能性があり、サーレハ氏は単にそれを見て言っているだけなのかもしれない。
実はこのサーレハ氏が、カイロ大学における小池氏の右腕なのである。同氏は、カイロ大学文学部日本語学科を卒業し、一橋大学の大学院で7年間学び、社会学の博士号を得ている。流ちょうな日本語を話し、『エジプトの言語ナショナリズムと国語認識』という日本語の著書もある。小池氏の熱烈な支持者で、4年前に筆者がカイロで会った際にも「小池さんはすごい。度胸がある。次の総理大臣になるかもしれない」と激賞していた。同氏のオフィスの廊下側の壁には、小池氏とのツーショットの写真が誇らしげに飾られていた。
日本のメディアが小池氏の件でカイロ大学に取材に行くと、本来出てくるべき文学部長や学生部長や社会学科長ではなく、職務としては担当外のサーレハ氏が出てきて、小池氏に有利な話をする。
最近、日本では、小池氏の元秘書が編集長を務めるビジネス系雑誌のウェブサイトにおいて、小池氏はカイロ大学を卒業したと力説する、無署名の(したがって信用もない)記事が掲載されたが、その中のエジプト人の発言が文藝春秋に送られてきたサーレハ氏の抗議文のトーンそっくりだった。筆者は、「ああ、今はエジプトに取材に行けないし、これはサーレハ氏がメールで知恵を出して、それを小池氏と相談した上で、一生懸命まとめたんだな」と思ったものである。
カイロ大の歴代日本語学科長と”お友達”
小池氏は、都知事になる以前の国会議員時代、しょっちゅうカイロにやって来ていた。大統領との面会を要望し、カイロの日本大使館の担当者に「外務省の力を見せて頂戴」と強引にねじ込んでくるので、「小池のロジ担当はババ抜き」と言われていたそうだ。ある大使館員は、小池氏の父親の遺灰のナイル川やピラミッドでの散骨準備で大変な思いをしたという。その小池氏が、熱心に“お友達”を作っていたのが、カイロ大学日本語学科だ。サーレハ氏だけでなく、歴代の日本語学科長と親密で、前日本語学科長のハムザ氏(現在はアレキサンドリアにあるエジプト日本科学技術大学の日本研究科教授)も4年前の知事当選に際し、祝福の言葉を贈ったりしている。
小池氏は、自分にとって利用価値がないと思った人間には、尊大で無礼な振る舞いをすることで知られており、筆者の知人にも不快な思いをさせられた人たちは少なくない。その小池氏が、頻繁にカイロに足を運び、日本語学科と親密な関係を作ってきた第一の目的は、今回のように学歴詐称疑惑が取りざたされたとき、助けてもらうためだろう。
カイロ大学は対外的信用を維持するため、サダト・ムバラク時代(1970~2011年)の“不正卒業証書”の事実には口を閉ざしている。過去にそうした不正があったことを認めれば、“不正卒業証書”を受け取った国内外の政治家、有力者、その関係者に影響が及ぶからだ(特にサダト時代は数が多く、影響は計り知れないと思われる)。カイロ大学は小池氏の一件については神経質になっており、カイロ大学の現文学部長アフメド・シェルビーニ氏は、「カイロ大学では2年前から小池氏に関する書類を出す場合は学長の承諾が必要になった」と言う。カイロ大学の職員の1人は「小池氏の件は、政府の上層部が関与しているのではないかと思う」と話した。
経済全体を見れば、同国の動機は一層鮮明になる。エジプトは経済がきわめて脆弱で、慢性的な国際収支の赤字を外国からの経済援助、IMF融資、観光収入、スエズ運河通航料、在外エジプト人労働者からの送金で補っている。1人当たりのGDPは2907ドル(2018年)で、日本の17分の1、周辺国と比較してもトルコの5分の1、イランの半分以下、チュニジアやモロッコ以下という貧しい国だ。
IMFの勧告にしたがってガソリンや基礎食料品を値上げすると暴動が起きる(筆者が留学中の1986年3月にも、経済的不満を背景とする治安警察官の暴動が起き、外出が10日間禁止された)。
同国の経済情勢は最近、一段と悪化している。2011年の「アラブの春」の動乱以降、観光収入が激減し、そこに原油価格暴落(エジプトは日産約50万バレルの産油国)やコロナ・ショックが追い打ちをかけ、IMF融資と年間20億ドルから50億ドルの経済援助がなければ、経済は破綻をきたす(IMFは先月、エジプトに対する27億7200万ドル=約2980億円の緊急コロナ対策融資を決定した)。エジプト政府の経済関係閣僚は常に先進国や湾岸産油国と経済援助獲得の交渉をしており、どれだけ援助が獲得できるかが、政権にとって死活問題となっている。
こうしたエジプトにとって、小池氏のようにエジプトに多額の経済援助を供与している国の著名政治家が、実は卒業していないと言うのは簡単ではない。元々腐敗が横行する国であり、日本から援助を引き続きスムーズに得られるなら、1人の人間の不正な卒業を見逃すことなど痛くも痒くもない。そうした中で、小池氏を擁護する役割を果たしているのがサーレハ氏というわけだ。同氏にとっても、自分の仕事を学長にアピールし、将来の文学部長への布石にもなる。カイロ大学文学部(オリエント言語学科ヘブライ語専攻、1995年中退)で学んだ経験がある浅川芳裕氏は2018年6月にツイッターで、小池氏とカイロ大学の学長、文学部長、学科長らは「同じ穴のムジナ」であると述べたが、これがエジプトという国の実態なのだ。これが小池氏の言うことが信じられない7つ目の理由である。
同国の経済情勢は最近、一段と悪化している。2011年の「アラブの春」の動乱以降、観光収入が激減し、そこに原油価格暴落(エジプトは日産約50万バレルの産油国)やコロナ・ショックが追い打ちをかけ、IMF融資と年間20億ドルから50億ドルの経済援助がなければ、経済は破綻をきたす(IMFは先月、エジプトに対する27億7200万ドル=約2980億円の緊急コロナ対策融資を決定した)。エジプト政府の経済関係閣僚は常に先進国や湾岸産油国と経済援助獲得の交渉をしており、どれだけ援助が獲得できるかが、政権にとって死活問題となっている。
こうしたエジプトにとって、小池氏のようにエジプトに多額の経済援助を供与している国の著名政治家が、実は卒業していないと言うのは簡単ではない。元々腐敗が横行する国であり、日本から援助を引き続きスムーズに得られるなら、1人の人間の不正な卒業を見逃すことなど痛くも痒くもない。そうした中で、小池氏を擁護する役割を果たしているのがサーレハ氏というわけだ。同氏にとっても、自分の仕事を学長にアピールし、将来の文学部長への布石にもなる。カイロ大学文学部(オリエント言語学科ヘブライ語専攻、1995年中退)で学んだ経験がある浅川芳裕氏は2018年6月にツイッターで、小池氏とカイロ大学の学長、文学部長、学科長らは「同じ穴のムジナ」であると述べたが、これがエジプトという国の実態なのだ。これが小池氏の言うことが信じられない7つ目の理由である。
小池氏が抱える2つの問題
以上のとおり、小池氏の説明は嘘と矛盾だらけで、信用するのは到底不可能だ。
小池氏には2つの問題がある。1つは有印私文書偽造・同行使の疑いだ。これは東京都議会に卒業証書類の現物を提出し、疑いを晴らす必要がある。2つ目が学業実体の有無だ。いくら大学が認めようと、正規の卒業条件を満たさず、カネやコネで卒業証書を手に入れても、学歴と認められないのは当然だ。小池氏は証拠にもとづき、学業実体があったことを証明する義務がある。それができないなら公職を辞任するしかない。
(なお詳しくは、今年1月にJBpressで6回連載した<徹底研究!小池百合子「カイロ大卒」の真偽>を読んで頂きたい。また英語版も順次公開中である。)
≪徹底研究!小池百合子「カイロ大卒」の真偽≫
≪【英語版】Allegations of fake university degree haunt Tokyo Governor Yuriko Koike ≫
(vol.1) https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60600
(vol.2) https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60641
(vol.3) https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60642
(vol.4) https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60643
(vol.5) https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60644
(vol.6) https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60645