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京急脱線事故の教訓、乗客脱出を困難にした日本の鉄道の「思わぬ盲点」  DIAMOND 9/12(木) 6:01配信

2019年09月12日 14時54分34秒 | 時事問題(日本)

京急脱線事故の教訓、乗客脱出を困難にした日本の鉄道の「思わぬ盲点」

9/12(木) 6:01配信    

    

ダイヤモンド・オンライン

 9月5日午前11時40分頃、京急の脱線事故が起こった。1両目にいた乗客によると、2両目に続く通路が通れなかったため、傾いた側の下側の隙間から車外に避難したという。実はそこから見える教訓がある。(鉄道ジャーナリスト 渡部史絵)
 9月5日午前11時40分頃、京浜急行本線の神奈川新町第一踏切道で、立ち往生していた13トントラックに、下りの快特列車が衝突、脱線するという踏切障害事故が起きた。
 快特列車は神奈川新町駅には停車しないため、駅手前では恐らく100km/h以上(京急本線の最高速度は120km/h)の速度が出ていたと思われる。事故現場の踏切から上り方向(品川方面)は400mほど直線が続き、見通しが良い。
 にもかかわらず、衝突時は50km/h程度は出ていたのではないかと推測する。衝突したトラックは同踏切より約65m横浜方面まで引きずられて大破炎上し、運転手は亡くなっている。列車の乗客も30名以上が重軽傷を負った。
 また同列車は全8両のうち、前から3両目までが脱線、先頭車両にいたっては、右側に45度近く傾き、上り本線の運行にも支障をきたした。事故の原因は、トラックが踏切内で立ち往生し、京急の車両がトラックの荷台に衝突したことによる。現在、警察などが調査中ではあるが、軌道敷内に入らない限り、列車とトラックは衝突するわけがないことから、トラック側に過失があることは明白である。
 事故の報道をテレビなどで見ながら、同じタイミングで上り列車が走行していなかったことを私は不幸中の幸いだと思った。もし上り列車が通過していたら、被害は比べ物にならぬほど、甚大なものになっていたであろう。

 

● 標識しかない踏切も 現存する
 踏切における事故を数値で追ってみたいと思う。国土交通省の資料(2014年)によると、日本には3万3528箇所の踏切道があった。
 内訳は、踏切警報器と踏切遮断機などが設置されている第一種踏切が2万9836箇所(89%)、踏切遮断機がなく踏切警報機だけの第三種踏切が775箇所(2%)、踏切の標識があるだけで列車の所在が分からない第四種踏切が2917箇所(9%)である(ちなみに第二種踏切とは、一定時間に限り踏切保安係が遮断機を操作するもので、現在の日本にはない)。
 同年の踏切事故件数は248件。内訳は第一種踏切が212件(85%)、第三種踏切が9件(4%)、第四種踏切が27件(11%)である。
 数字だけを見れば第一種踏切の事故が多いように思えるが、これは単に第一種踏切の設置件数が多いためめである。単純計算で踏切1箇所ごとの事故率を見ると、第一種踏切が0.7%、第三種踏切が1%、第四種踏切が8.5%となり、いかに標識しか立っていない第四種踏切のリスクが高いかが理解できるであろう。
● 事故原因のトップは 列車の直前横断
 事故原因を見ていくと、2014年の第1位は通過する列車の直前横断で117件(47%)、第2位は踏切内停滞、落輪・エンスト、いわゆるトリコ(踏切内に車が取り残されること)で71件(29%)、第3位は自動車が限界線を超えて停止したため、列車や車両が接触したもの、あるいは通過中の列車の側面に衝突したものが29件(12%)、その他の事故が31件(12%)となっている。
 年齢別では、第1位が60代(20.6%)、第2位が70代(16.1%)、第3位が80歳以上(13.3%)、第4位が50代(10.1%)となっており、50代以上で全体の6割を占めている。

 

また同資料には、大型の自動車と大型以外の自動車等が起こした踏切事故における乗務員・乗客の負傷者の発生割合についても書かれているが、大型車が起因となる場合は83%負傷者が発生するのに対し、大型車以外の場合は32%しか負傷者が発生しないというデータも出ている。
 ここで踏切の姿を思い起こしてみてほしい。踏切は、たった1本の遮断桿で道路交通と鉄道を遮断している。人もクルマも、その棒を越えて線路内に入ってはならない。しかし、この棒は押すことも引くこともできるし、潜ることも容易にできる。
 だから、今回のような大きな事故も容易に起こりうるのだ。
● 1両目にいた乗客は どのように脱出したのか
 1両目に乗っていた方によると、1両目が右に大きく傾き、2両目に続く貫通路は通れなかったため、傾いた側の下側の隙間から車外に避難したという。
 もし1両目が完全に横転していたら、どうなっていたのだろうか?
 この場合、左右が天井と床面になり、逃げ場はなくなる。つまり、上面に窓やドアがある状態になるわけだ。車両により違いはあるものの、上面の窓やドアまでの高さは2.5~2.8mあり、登って脱出することは困難である。

 今回の状況とは異なるが、やや似た事故に2014年2月の川崎駅構内における京浜東北線の上り回送電車と作業車両との衝突事故がある。
 この事故で1両目が完全に横転し、乗務員室に運転士と車掌が閉じ込められたのである。2人は長時間缶詰にされた後、消防の特殊救助隊により、運転台前面の窓を割って救助された。
● 欧米の車両にあって 日本の車両にはないもの
 欧米のバスや鉄道の車両には、天井にも避難用ハッチが付いており、万一、車両が横転した時でも、車外に容易に避難できるようになっている。
 日本の車両(自動車などを含め)は「いかに事故に繋がらないようにするか」という思想のもとに車両が製作されているが、欧米の場合は「万が一の事故の際、いかに被害を最小限に抑えるか」で製作されており、その違いの1つが、この天井のハッチである。
 現在、残念ながら国内で導入されているという話は、聞いたことがない。
 事故を未然に防ぐことも重要ではあるが、鉄道車両製造会社や鉄道事業者には、この欧米の事例を参考に、天井部の避難ハッチ設置を検討してほしいと思う。
 末筆ながら、この度の事故で亡くなられた方のご冥福をお祈りします。ケガをされた方の1日も早いご快癒を心よりお祈り申し上げます。

    

渡部史絵

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