産業革命によって農業や製鉄業など幅広い分野の技術革新が起こり、イギリスの首都ロンドンには職を求めて大勢の労働者が集まりました。やがて労働者を管理する多数の資本家が誕生し、イギリスは資本社会となります。
その結果、政治を牛耳る王族・貴族(上流階級)と資本家(中流階級)、低賃金で働く労働者(労働者階級)といった3つの階級制度が定着化したのです。
さらに、ヴィクトリア女王に統治された19世紀イギリスは「世界の工場」と呼ばれ、階級による大きな貧富の差が生まれました。この頃のイギリスは完全なる階級社会であり「生まれた階級によって人生が決まる」といっても過言ではありませんでした。
その後、労働条件の改革を求めた運動や労働組合の誕生によって少しずつ階級格差は縮まっています。しかし、数世紀前に強く根付いた「階級」という制度は今もなおイギリスという国に息づいているのです。
イギリス階級社会・制度の種類
イギリスの階級は大きく分けて3つあります。「上流階級」「中流階級」「労働者階級」です。
イギリス階級をピラミッド型にした写真を見ての通り、人口の約半分が地位の低い「労働者階級」で占められています。次に「中流階級」があり、トップである「上流階級」は全体の1%ほどしか存在しません。
この階級制度をもとにイギリス社会では教育から職業、言葉にいたるまで生活環境が異なります。「生まれたときから住む世界が違う」社会であるともいえるでしょう。
①上流階級
上流階級とは王族と貴族から構成された階級であり、貴族には代々爵位を継承してきた世襲貴族の人々のみが当てはまります。
世襲貴族が所有する爵位は全部で5種類。爵位の順番は下記の写真の通りに構成されており、呼び方も爵位によって異なるので注意してくださいね。
世襲貴族の爵位の下には準男爵や叙勲制度によって与えられるナイト(騎士爵)の称号があります。ただし、ナイトの称号は爵位の一つであって「一代貴族」にはなっても世襲貴族にはならず上流階級に含まれません。
そのため、イギリスの「上流階級」は人口の約1%の割合しか存在しないのです。しかし、割合が少ないからこそ権力や地位は絶対的なものとなります。1%とは少ないながらも現実的な数字といえるでしょう。
②中流階級
中流階級とは企業家などのビジネスマン、医師や弁護士といった専門的知識を持つ人々で構成されています。職業によって地位が3つに分かれていることも特徴的ですね。主な組み分けは以下の通りです。
- 上層部:医者、弁護士、企業家、著名な芸術家
- 中層部:教師、エンジニア、公務員
- 下層部:会社員
しかし、中流階級では会社内での昇進や事業の成功によって下層部から上層部への下克上が可能になります。上流階級や労働者階級とは異なる特徴ですね。
③労働者階級
労働者階級とは工場労働者やお店の店員など主に肉体労働を行う人々で構成された階級です。イギリス国民の過半数がこちらに該当します。
労働者階級から中流階級になることは難しく、日々の生活で精一杯な人々が多いです。しかし、稀に天才的な才能や運によって労働者階級から一気にスターダムにのし上がった人が存在します。
元サッカー選手のデビッド・ベッカムやビートルズのメンバーだったポール・マッカートニーも実はイギリスの労働者階級出身です。彼らはスポーツ界や芸能界で活躍し労働者階級から抜け出して今や中流階級のトップに存在しているといえるでしょう。
階級を見分ける3つの基準
イギリスでは日常生活を送るうえで階級ごとに違いがあります。それは「言葉遣い」と「服装」です。気をつけて観察していると相手がどの階級に属する人か分かります。
基準①:言葉遣い
万国共通語である英語ですが、イギリスでは階級ごとに英語の話し方が異なります。
王族をはじめとする上流階級の人々は「クイーンズ・イングリッシュ」と呼ばれる上品で美しい英語を使い、中流階級の人々は少し訛りを交えた英語を使うことが特徴的です。
労働者階級の人々は「コックニー」と呼ばれる下町訛りなど生まれ育った地域によって異なる英語を使います。イギリスの下町や郊外に行くと店員さんの訛りがひどくて聞き取れないこともあるぐらいです。
基準②:服装
階級の違いは服装にも表れます。上流階級の人々が主に着るのは王室御用達のファッションブランド。コートやチェック柄が特徴的な「バーバリー」や紳士服ブランド「ダックス」などが有名です。
お金に余裕がある中流階級の人々もハイブランドの洋服を着ていることがあります。低所得者である労働者階級の人々はファストファッションなどカジュアルなスタイルが多いですね。
基準③:読む新聞の種類
身近な日用品でも階級の違いは分かります。例えば、新聞の種類。イギリスでは階級によって読む新聞も異なります。
上流階級の人々が好んで読むのは高級紙と呼ばれる新聞です。中でも発行部数が多く認知度が高いのは「デイリー・テレグラフ」「タイムズ」ですね。
学者向けの「ガーディアン」やビジネスマン向けの「フィナンシャル・タイムズ」などの高級紙は中流階級の人にも読まれています。
そして、中流・労働者階級の人々が好むのは事件やゴシップ記事が多いタブロイド紙。主に「デイリー・メール」「ザ・サン」が人気です。
イギリス階級社会・制度が与えた3つの影響
学歴に差が生まれた
イギリスの階級社会や制度が与えた影響としてまず挙げられるのが「教育」です。
上流階級では寮生活の私立学校「パブリックスクール」に通い、大学もオックスフォード大学など名門校へ進学することが当たり前になります。中流階級でも大学進学をする人がほとんどですね。
しかし、労働者階級は高額な学費を払うことが難しいため進学をせずに就職する人が多いです。学歴において上流・中流階級と差があるため、就ける職業も限られてきます。
ひと昔前だと「労働者階級が成功するにはサッカー選手か俳優になるしかない」といわれるほどでした。その影響からイギリスの有名なスポーツ選手や俳優は労働者階級の出身者が多いです。
階級ごとの差別が発生
階級制度があれば上の階級が下の階級を見下すことが多々ありますね。イギリスの階級社会でもそれが見受けられました。
労働者階級の言葉遣いを揶揄するなどの暴力的な差別のほかにも、低所得者用の公営団地「カウンシルエステート」が建つも民営化されたり取り壊されたりなど社会的な被害も受けています。
首都ロンドンでは西側の「ウエストエンド」は上流・中流階級者、東側の「イーストエンド」は労働者階級が住むといった住み分けもあるぐらいです。これは階級社会が定着化した18世紀から19世紀ごろの名残でもありますね。
貴族という地位が特別化した
イギリスの階級制度は他の国々と違い世襲貴族の数が非常に少なく、現在でも世襲貴族は約800家しか存在しません。そのため、首相や官僚には上流階級だけでなく中流階級の人々がなることもあります。
しかし、どれだけ社会的地位が高く資産があっても彼らの家族が上流階級の仲間入りをするのは難しいものでした。叙勲制度によって一代貴族にはなれても世襲的な爵位の継承はできないからです。
現代において「資産運営に苦労する貧乏貴族」と「資産はあっても貴族になれない企業家」がいるのはこうした背景がもとになっているのですね。イギリスにおける上流階級の貴族とは特別な存在なのです。
例外として、大地主や領主である「ジェントリ」は爵位を持たずに上流階級の一部として扱われています。
ギリスの階級制度の現在
上記で紹介した現代イギリスの7つの階級制度は以下の通りです。
- エリート階級
- 確立した中流階級
- 技術系の中流階級
- 新富裕労働者階級
- 新興サービス労働者階級
- 伝統的な労働者階級
- プレカリアート階級
トップの3つは経済的に恵まれた人々であり、「新富裕労働者階級」「新興サービス労働者階級」の2つは教養や社会的人脈を持つ人々になります。ワーストの2つは低賃金労働をしており、特に「プレカリアート階級」の人は公共福祉に頼って生活している状態です。
イギリスの階級制度がよく分かるおすすめ映画3選
おすすめ映画①:「ハリーポッター」
誰もが一度は聞いたことがある映画「ハリーポッター」ですが、作品にはイギリスの階級社会の要素が散りばめられています。ハリーやハーマイオニー、ロンなど登場人物の生い立ちをよく観察するとイギリスの階級制度の仕組みが分かりやすいですよ!
おすすめ映画②:「タイタニック」
映画「タイタニック」はイギリスの豪華客船タイタニック号の沈没を描いたものです。作中では上流階級の女性と労働者階級の男性の身分を超えた恋愛が描かれており、20世紀イギリスの階級社会が垣間見えます。
おすすめ映画③:「わたしは、ダニエル・ブレイク」
2016年公開の映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」では労働者階級である老人とシングルマザーの生活模様が描かれました。現代イギリスの貧困層の生活をよく表現した作品です。
イギリス階級に関するまとめ
今回はイギリス階級社会・制度について解説しました。一口に階級といっても複雑な制度や仕組みがあり、なかなかに難しいものがありますね。
昔と比べて少しずつ階級による貧富の差はなくなったとはいえ、上流階級や中流階級に比べて貧困にあえぐ労働者階級の人々はたくさんいます。
イギリスの階級についての歴史や知識を学ぶことで、現代に生きる私たちにとって「階級とは何か」を改めて考えるきっかけとなれば幸いです。
【英国 階級社会】英国で見たリアルな階級社会 収入・住宅・教育の格差 ロンドン在住の元為替ディーラー 松崎美子×松島修
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現代のイギリスは、 「医学系はインド人が多い、あとエンジニア 。中国人は弁護士系。 きれいに分かれる 。インド人はものすごく優秀」