実は、私もそれを感じていた。一般向けに売り出しかけた新築マンションが、広告開始から何カ月もたたないうちに「販売中止」になるケースが散見されるようになったのだ。だいたいが駅から近く、いかにも賃貸付けが容易そうな物件である。
この現象には、既視感がある。2003年から08年ごろまで、不動産市場は「ファンドバブル」と呼ばれる状態だった。オフィスビルやマンションをファンドが丸ごと買ってしまうケースが多発していたのだ。
しかし、このファンドバブルは08年のリーマン・ショックで雲散霧消する。その後、日本の不動産市場は12年頃まで低迷。ところが、13年に日銀総裁に就任した黒田東彦(はるひこ)氏が始めた異次元金融緩和によって、徐々に上昇基調に転じる。
その後10年にわたり、都心を中心としたマンション市場は緩やかな価格上昇を続けて今に至った。その結果、都心のマンション価格は、この10年で約2倍になった。
そんな東京に、再びファンドが「買い」を入れてきた。そういったマネーはどこから出ているのだろうか。
00年代、中・後半のファンドバブルの場合、最初にやってきた海外勢を形成していたのは資源マネーだったというのが、今の定説である。00年代、中国経済は年率2ケタの高度成長を続け、世界中から資源を買い漁っていた。当然、資源価格は高騰していた。そんな資源マネーが投資先を求めて世界をさまよい、当時では国際的に比較的安価だった日本の不動産に流入したのだ。
今回もどうやら、資源マネーが形成しているファンドではないかと想像する。20年にアメリカでバイデン政権が発足以来、彼の「グリーン政策」で原油価格が高騰。昨年のウクライナ戦争勃発で、他の資源価格まで爆上げとなった。
資源マネーは潤ったが、世界の主要都市の不動産価格は東京以上に高騰していた。そこで彼らが再び目を付けたのが、社会も政治も安定している日本の不動産。折しも円安でドル建てでの価格が低下。日本の国内金利も史上最低で資金調達も容易。ファンドマネーと組み合わせれば、年率7~8%の利回りを確保するのは容易だ。
しかし、今回の「ファンドバブル2・0」は前回よりもかなり短期で終了しそうだ。その理由は、アメリカの急速な利上げと、日本の金融政策の転換にある。
今後、円高になれば割安感が薄れる上に、金利が上がれば、投資のうまみも薄れる。ファンドはそういった投資環境の変化にかなり敏感。1年もすればその影は消えていそうだ。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。