元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士が16日、TBS系「Nスタ」(月~金曜後3・49)にコメンテーターとして生出演し、自民党安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティーを巡る事件で、特捜部が幹部7人の立件を見送る方向を固めたことに言及した。
特捜部は安倍派幹部に対して複数回、任意の事情聴取を行ったが、会計責任者との共謀を立証する証拠が集まらなかったとみられる。
日比麻音子アナウンサーから「捜査は手詰まりということでしょうか?」とストレートに問われると、若狭氏は「結論からいくと、既に証拠が新たに集まる可能性はないという、手詰まりと言えば手詰まりだと思います」と答えた。
派閥内の会計は、会計責任者と会長が取り仕切っていたとみられ、若狭氏も「会長が会計責任者とやりとりしていたというのは、まんざらうそではないと思う。単なる責任逃れではないと思う」とコメントした。
安倍派では、安倍晋三元首相が一旦はキックバック(環流)の慣習を休止したが、その後再開されている。若狭氏は「一旦、安倍派の中ではキックバック方式をやめようと決めたと、みんなで。会長、安倍さんが亡くなった後に、元通りに復活させよう、再開しようという動きがあった。そこを特捜部はかなり着目していたと思っていて。私も経験者として、そこがあれば会計責任者との共謀は認められる証拠になるんじゃないかと思っていたんです」と、自身の見解を説明。しかし、「結論的には、それでも会計責任者との共謀を認めるやりとりが証拠としては十分ではなかったというのが、今回の結末になっていくと思います」と分析した。
国民からは逮捕、起訴を強硬すべきとの声も上がるが、若狭氏は「無罪でもいいから起訴してしまえというのは、検察のやり方としてはない」とコメント。「起訴した以上はある程度、有罪を見込める可能性が高いものに限って起訴するという今までの取り扱いからすると、おそらく特捜部は涙をのんで不起訴で仕方ないとなったんだろう」と、特捜部の無念さを推察した。
幹部らの今後については、若狭氏は「おとがめなしなんですけど」と前置き。「将来、検察審査会という、一般市民の人が検察の不起訴が正しかったかどうか判断する部署があるんですね。そこにおいて不起訴はダメだろう、起訴すべきだというような結論を出してくると、先々は検察の意思とは関係なく、起訴されて裁判になるという可能性は今の時点でもあると思います」と解説していた。
「#検察は巨悪を眠らせるな」「#検察仕事しろ」1月中旬、X(旧ツイッター)にはこんな書き込みが溢れた。多くが「日本最強の捜査機関」の異名を持つ東京地検特捜部への怨嗟の声だ。「リクルート事件」以来ともいわれる一大疑獄事件となった自民党の政治資金パーティーを巡る裏金疑惑だが、最終的に安倍派(清和政策研究会)の幹部の立件を見送る方針が伝えられ、世間の怒りが沸騰している。
「岸田さんは最も邪魔だった勢力を排除することができた」
「岸田さんの思い通りの展開なんじゃないですか」
こう苦笑いするのは、政界事情に精通する与党のあるベテラン秘書である。
「今回の事件が『岸田政権を揺るがす』という人もいますが、とんでもない。岸田さんは政権を運営する上で最も邪魔だった勢力を排除することができた。厄介払いができたというのは、言うまでもなく、安倍派のことです」
総勢99人が所属する自民党最大派閥の安倍派は、岸田首相にとって政権運営のカギを握る勢力だった。実際に「数は力」とばかりに同派は政権発足当初から影響力を発揮。安倍晋三元首相亡き後は結束力に陰りが見えたものの、閣僚や党役員の顔ぶれを見れば、首相ですらその存在を無視できないのは一目瞭然だった。
象徴的だったのは、「五人衆」と呼ばれた安倍派幹部の処遇だ。
岸田首相は2021年10月の第1次政権を皮切りに、2021年11月、2022年8月、2023年9月とこれまでに3度組閣しているが、松野博一氏は一貫して官房長官を務め続けた。西村康稔氏は要職の経産大臣を務め、萩生田光一氏は党内で各政策を議論する部会をまとめる政調会長の任に。世耕弘成、高木毅両氏もそれぞれ参院幹事長、選対委員長といずれも重要なポストを割り当てられていた。
だが、そんな彼らのキャリアが暗転したのが、件の「政治資金」を巡る疑惑だった。
「『特捜部が派閥のカネを洗っている』という噂が永田町に一気に広がったのが昨年11月末ごろ。当初から安倍派の金額が突出しているといわれていましたが、捜査対象になっている具体的な名前が出回り出したのは12月に入ってからでした」(全国紙政治部記者)
派閥から課されるパーティー券の販売ノルマの超過分を、議員側に戻す資金の環流が「キックバック」として報じられ、党全体に危機感が広がった。パーティー券購入者のうち、個人は5万円、団体は20万円以下の購入者は無記名とすることが可能になるなど、政治資金規正法の不透明な実態が明らかになったからだ。
「早くカタがついて欲しいというのが正直なところだよ」
特捜部の捜査リストに名前が上がらず、今回の問題では、比較的ダメージが小さいとみられている茂木敏充幹事長率いる茂木派(平成研究会)の中でも危機感は広がっていた。
「うちの場合、日歯連事件で政治資金では痛い目に遭っているから、派閥へのカネの『入り』と『出』については、きっちりと収支報告書に記載するようにしていた。パーティーのノルマ超過分の戻しは派閥からの寄付という形で処理していたが、それもキックバックといわれるとはなはだイメージが悪い。早くカタがついて欲しいというのが正直なところだよ」と声を潜めるのは、同派のある中堅議員だ。
日歯連事件とは2004年に発覚した疑獄事件。日本歯科医師連盟での汚職事件に端を発し、橋本龍太郎元首相ら平成研の幹部に日本歯科医師会側から1億円がヤミ献金として流れていたことが発覚し、会長の橋本氏の辞任に発展するなど、同派は壊滅的な打撃を受けた。
当時と同じように政権への逆風が強まるなか、岸田首相は昨年12月14日に松野氏をはじめとする安倍派の4閣僚を交代させる人事を断行し、局面打開を図った。このころには特捜部の捜査の狙いが徐々に明らかになってきていた。
「安倍派で危ないのは10人、と具体的な数字も出るようになった。内訳は安倍派の事務総長経験者に加えて、不記載のキックバックが4000万円以上の高額になる議員だ、と一斉に情報が回りました。同じタイミングで浮上したのが、『不記載を認めないと身柄を取られることもあり得る』という噂。いま思えば特定の議員への警告の意味合いも込めて検察がリークした情報だった気もしますが…」(前出の政治部記者)
9月の総裁選も乗り切って長期政権を築くのでは
一方、岸田首相は、民衆の中で高まる政権への批判の声を受け、政治資金制度の見直しを図るための党内組織「政治刷新本部」を立ち上げる意向を表明した。しかし、メンバーとなった安倍派の所属議員10人のうち9人に「不記載」が発覚するなど政治不信の払拭には至っていない。政権は、じりじりと追い詰められているようにも映るが、前出のベテラン秘書は異なる見方を示す。
「これまでの流れは、岸田さんのプラン通りにほぼ進んでいるのだろうと思います。思惑通りに安倍派を排除したし、二階(俊博元幹事長)さんも抑え込んだ。というのも、安倍派とともに捜査対象になっているとされる二階派では、安倍派のような資金環流は行われず、派閥内で資金をプールし、そのほとんどを二階さんが握っていたといわれているからです。特捜部は二階さんを所得税法違反の線で狙っていたようですが、どうやら捜査は本丸にまでは及ばなさそうです。
官邸と特捜部が捜査の落としどころについて擦り合わせているとすれば、二階さんに恩を売った形です。菅(義偉元首相)さんが、派閥解消を訴えて目立っていますが、政権をひっくり返すほどの大きなうねりは起こせていないし、安倍派も壊滅して自分の地位を脅かすようなライバルは当面出てくる気配はない。この調子なら9月の総裁選も乗り切って、長期政権を築くのではないかと見ています」
相変わらずの低空飛行ではあるが、SNSで広がる「岸田離れ」とは真逆の民意が示された形だ。意外とも思える狡猾さでのらりくらりと政権運営を続ける岸田首相。ただ、その視線の先に国民がいないことだけは確かだ。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
いつもの「やっているフリ」なのか。それとも党内で高まる危機感、不満の「ガス抜き」なのか……「全く期待できない」といった意見が飛び交っている。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を受け、同党が立ち上げた「政治刷新本部」のことだ。
党所属の全国会議員に呼び掛けて行われた16日の第2回会合では、派閥解消論から最大派閥「安倍派」(清和政策研究会)の幹部除名論まで飛び出したという。
こうした中、派閥に所属しない中堅・若手は「無派閥連絡会」結成に向けた発起人会を18日に開くという。参加者は初会合で派閥解消を訴えた菅義偉前首相(75)や石破茂元幹事長(66)=ともに無派閥=で、無派閥の若手議員が菅氏と面会した際、「派閥はなくすべきだ」と訴えると、菅前首相は「分かっている」などと応じたと報じられている。
自民党に派閥の解消なんかできっこない。自民党の派閥は裏金作りのうまい人間を出世させ総裁候補にするためにある。低劣な日本政治の象徴!元朝日新聞・記者佐藤章さんと一月万冊
2024/1/17