トマ・ピケティ「トランプ主義的国家資本主義は力を誇示するが、実際には脆弱で追い詰められている」(詳細サマリー) https://lemonde.fr/idees/article/2025/02/15/thomas-piketty-le-national-capitalisme-trumpiste-aime-etaler-sa-force-mais-il-est-en-realite-fragile-et-aux-abois_6547427_3232.html…
経済学者ピケティは自身のコラムで、レーガン以来、誤った政策を続けてきた米国が、世界の支配を失いつつあると主張。
「現在進行中の国家主義的な硬直化はこの衰退をさらに加速させ、最終的には国民の期待を裏切ることになるだろう。」 (詳細サマリー)
1. 国家資本主義:暴力的なイデオロギーだが、脆弱な体制 トマ・ピケティは、トランプ主義が権威主義的資本主義の一形態であると分析し、これを国家資本主義(national-capitalisme)と呼ぶ。このイデオロギーは、攻撃的なナショナリズム、社会的保守主義、極端な経済的自由主義を融合させたものだ。トランプがグリーンランドやパナマについて発した発言は、彼が最も攻撃的な権威主義的・収奪的資本主義に執着していることを示している。これは、歴史的に見ても、自由主義経済が多くの場合とってきた実態そのものである。 しかし、こうした力の誇示の背後には、国家資本主義の脆弱性と危機が隠されている。ピケティは、ヨーロッパがこの動きに対抗するためには、自信を取り戻し、このイデオロギーの強みと限界を冷静に分析する必要があると主張する。
2. 収奪的・帝国主義的な歴史とのつながり ピケティは、国家資本主義が歴史的に軍事的・収奪的な植民地主義と結びついていることを指摘する。ヨーロッパもかつては、このモデルに依存して発展を遂げてきた。19世紀には、海上貿易路や資源、繊維市場を武力で支配し、ハイチや中国、モロッコなどの国々に植民地税を課していた。 この帝国主義的競争は、第一次世界大戦前夜にはヨーロッパ諸国間の熾烈な資本争奪戦へと発展し、結果として帝国主義体制の崩壊を招いた。この歴史的事実から、ピケティは国民資本主義の第一の脆弱性を導き出す。つまり、国家資本主義を採用する国家同士は、最終的には互いに対立し、共倒れに陥るということだ。
3. 「繁栄」の幻想と経済的失敗 国家資本主義のもう一つの根本的な問題は、それが主張する経済的繁栄が実現しないことである。米国では、レーガン以来の新自由主義的政策が、大多数の人々の所得の停滞を招いた。かつて米国は、教育面での優位性によりヨーロッパを圧倒する生産性を誇っていたが、1990年代以降、この差は消滅し、現在ではドイツやフランス、スウェーデン、デンマークといった先進欧州諸国と同水準になっている。 ピケティは、米国の経済力を誇張する幻想を批判する。株式市場の巨大な時価総額は、単なる独占企業の市場支配の結果であり、ドル建ての金額の大きさも、米国国内の物価の高さによるものでしかない。購買力平価(PPP)で比較すれば、米国とヨーロッパの生産性の差は消えてしまう。
4. 中国の台頭と米国の孤立 ピケティは、より広い視点から、中国が2016年に購買力平価ベースで米国のGDPを超え、2035年までにその2倍に達すると予測されると指摘する。この動きは、グローバルな投資や南半球の経済支援の面で具体的な影響をもたらしており、米国の国際的影響力を徐々に弱めている。 トランプ主義的な排他的・新植民地主義的な姿勢では、この大きな潮流を食い止めることはできない。
5. ヨーロッパはどう対応すべきか? ピケティは、ヨーロッパが国家資本主義の流れに巻き込まれず、自らの道を歩むべきだと強調する。特に、軍拡競争に巻き込まれるべきではない。トランプは米国の軍事予算をGDPの5%に引き上げることを要求しているが、ヨーロッパは軍事力ではなく、法と正義によって影響力を行使すべきだとピケティは提言する。 具体的には、対象を絞った経済制裁を実施し、権威主義的な指導者に対して財政的圧力をかけることで、軍事力よりも効果的な影響を与えられると主張する。また、南半球からの経済的・税制的・環境的な正義の要求に耳を傾けることが不可欠である。
さらに、ピケティは、ヨーロッパが戦後に築いた社会民主主義的な福祉国家モデルを強化し、教育と生産性を重視する政策を進めるべきだと提言する。このモデルは、単なる資本主義の修正ではなく、「民主的かつ環境配慮型の社会主義」へと発展させるべきものである。
結論:国家資本主義への対抗策としての新しい社会モデル ピケティの主張は、トランプ主義的な国家資本主義がいかに矛盾に満ち、持続不可能な体制であるかを示している。このモデルは、一時的には力を誇示できるが、国際的対立の激化、経済的不安定、グローバルな影響力の低下といった内在的な弱点を抱えている。
ヨーロッパは、こうした流れに対抗するために、軍事的な対抗よりも、法の支配、経済制裁、社会福祉の強化を通じて影響力を行使すべきである。そして、戦後の福祉国家の発展を新たな民主的・環境的社会主義の構想へと昇華させることが、長期的な安定への道となると結論付けている。