2023年6月24日 06時00分 東京新聞
東京湾を望む癒やしスポットとして親しまれている東京都立葛西臨海水族園(江戸川区)の樹木が大量に撤去されるのではないか、との懸念が広がっている。老朽化した施設の建て替え計画を巡る都民の情報公開請求で環境負荷計画などの大半が、小池百合子知事がかつて「のり弁」と批判した黒塗りにされたためだ。情報公開の専門家は「公共施設の整備内容は早い段階で公開しないと、神宮外苑のように最終段階でもめることになる」と警告する。(三宅千智)
◆「税金で整備するのに隠すのはおかしい」
建て替え計画では、現在の水族園本館の北の土地約1万3000平方メートルに新施設を整備する。開園は2028年3月を予定する。新たな建物の敷地とされる場所の一部に樹木約1400本がある。日本建築家協会が「30年かけて育てた樹木の保存に不安がある」と懸念を表明していた。
一方、2月の都議会環境・建設委員会で都側は「樹木への影響を極力減らすよう配慮し、樹木が支障となる場合、困難なものを除き移植を前提に設計する」と答弁した。
建て替えは民間資金などを活用するPFI方式で実施され、入札には2組が参加。NECキャピタルソリューションなどのグループが約431億円で落札したが、都が説明した計画では樹木保全の具体策は明示されなかった。
このため、日本建築家協会メンバーの村松基安さん(66)が昨年11月、入札時の提出書類を都に開示請求したが、落札グループの案は全85ページのうち76ページがほぼ黒塗りで、樹木への影響の考え方も公開されず。落札できなかったグループの案は非開示だった。村松さんは「都民の税金で整備するのに隠すのはおかしい」と問題視する。
都建設局の担当者は「提案に企業ノウハウが含まれ、公表すれば競争性に差し障る。公表の度合いは事業者の意向にも基づく」と説明。「樹木1400本を伐採するなどの情報もあるが、事実ではない。設計などが固まり次第、正しい情報を発信する」と強調した。
◆小池氏「公開できる時期とそうでないのがある」
23日の定例会見で、水族園の整備を巡る情報公開のあり方を問われた小池知事は、PFI方式の採用によって民間事業者の意向が情報公開に反映されることから「今進めていることで、公開できる時期と、そうでないのがある。できるだけ必要な条件にのっとって行っている」と述べた。
小池知事は前2代の知事が不祥事で辞職したことを受け、情報公開に力を注いできた。16年8月の会見で、情報公開の黒塗り部分を「のり弁ののり」にたとえ「皆様方が公開請求しても、何も分からない状況だ。『見える化』を徹底する」と話していた。
◆「神宮外苑の整備のように最終段階でもめる可能性も」
NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長の話 公共施設の整備、運営を民間事業者が受注する場合、提案内容は本来、早い段階で公表されるべきだ。情報公開に関して民間同士の事業と同じように保護されるわけではない。よっぽど高度なノウハウや営業上の秘密は別だが、入札段階で、すべてがその類いの情報ではないはずだ。事業者がノウハウを盾に情報公開を拒めば、公の施設の整備内容や決定過程を都民が知ることができず、不満や不信感を持つ人が増え、樹木の伐採が問題になっている神宮外苑の整備のように最終段階でもめる可能性も出てくる。
葛西臨海水族園 1989年10月に開園。米国・ニューヨーク近代美術館(MoMA)を手がけた世界的建築家の谷口吉生さんが設計した。約2200トンのドーナツ型の大水槽で群泳するクロマグロをはじめ、600種を超える世界の生物が楽しめる。地上30.7メートルのガラスドームや、自然が豊かだったころの東京周辺の水辺を再現した「水辺の自然」エリアが特徴。ガラスドームを含む現在の建物を保存するかどうかや保存する場合の活用方法は、水族園の機能を新たな建物に移した後に決める。