2021年8月2日 06時00分 東京新聞
<民なくして 2021年夏>
困窮する子育て家庭への公的支援を訴えるNPO法人「キッズドア」の渡辺由美子理事長は「政府は国民の声に耳をふさごうとしている気がする」と懸念する。政府のコロナ対応は後手後手に回っているが、幅広い要望を吸い上げる機能が衰えていることが要因ではないのか。その源流は、2012年12月の政権交代で発足した第2次安倍政権にさかのぼる。(柚木まり)
第2次安倍政権が真っ先に取り組んだのは、民主党政権時代に揺らいだ日米関係の立て直しだった。自衛隊と米軍の「一体化」の前提となる防衛機密の収集に不可欠として国民の「知る権利」を侵す恐れがある特定秘密保護法を成立させた。さらに、歴代政権が違憲としてきた集団的自衛権の行使を、政府による憲法解釈の変更だけで容認した。
いずれも国民の反発は強く、内閣支持率は下落したが、当時の安倍晋三首相は14年11月、野党の機先を制する形で衆院を解散し、大勝する。安倍氏や妻の昭恵氏とかかわりがある人物への便宜供与が疑われた森友・加計学園問題を巡っては、不十分で不誠実な説明姿勢に批判が集中したものの、野党分裂などの「敵失」にも助けられて計5回にわたって国政選挙を制し続けた。与党でさえ異論を挟みにくい「安倍一強」が確立され、強気な政権運営は加速した。
◆源流は菅政権に引き継がれ…
官房長官として安倍政権を支えた菅義偉首相も源流を引き継ぐ。就任直後、過去に特定秘密保護法や安全保障関連法への反対を表明した日本学術会議の新会員候補6人に関し、法的な根拠があいまいなまま任命を拒否。昨年12月以降の新型コロナウイルス感染拡大を招いたとの見方がある観光支援事業「Go To トラベル」の対応でも、当初は停止を求める専門家の意見に耳を貸さなかった。
愛知学院大の森正教授(政治学)は「安倍政権に限らないが、選挙に勝てば何でもやっていいということだったのだろう。内閣支持率を上げ、選挙に勝ち続けることで求心力を維持してきた。菅政権も支持率を重視している本質は同じ。しかし、コロナの感染者が増え、支持率が下がると慌てて緊急事態宣言を出すので、国民に後手後手の印象を与えている」と話す。