おもしろい分析、興味のある方はアクセスして続きをお読みください
「朝ごはんは食べたか」→「ご飯は食べてません(パンは食べたけど)」のような、加藤厚労大臣のかわし方
上西充子 | 法政大学キャリアデザイン学部教授 5/7(月) 16:15
国会質疑を見ていると、加藤厚生労働大臣の答弁は「野党の追及をいかにかわすか」だけに関心があるように思えて、うんざりさせられる。実際にどのような追及かわしの手法が用いられているのか、具体例を見てみよう。
はじめに
筆者の下記の連続ツイートが、思いがけなく数多くリツイートされた。
(中略)
●「追及かわし」の手法
その1:論点のすり替え
その2:はぐらかし
その3:個別の事案にはお答えできない
その4:話を勝手に大きくして、答弁拒否
また、上記の「朝ごはん」ツイートにはないが、次の問題も末尾に指摘しておきたい。
●「追及かわし」の手法・その5:過去の事実の書き換え
「追及かわし」の手法・その1:論点のすり替え
冒頭のツイートの前半に示したのは、気づかれないように論点をすり替えて答弁する手法だ。
(筆者作成)
Q「朝ごはんは食べなかったんですか?」
A「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」
「朝ごはんを食べたか」と問われたとき、誠実な答え方は、
●食べました
だろう。
しかし上記で回答者は、「朝ごはん」を食べたかを聞かれているのに、「食べた」とは答えたくないので、「ご飯」を食べたかを問われているかのように論点をすり替えた上で、
●ご飯は食べませんでした
と答えている。実際には「ご飯」ではなく「パン」は食べていたのだが、それは答えない。
尋ねた人は、「朝ごはんを食べなかったんだな」と思うだろう。不誠実な答え方だ。
ちょうどそういうやりとりが、野村不動産への特別指導の背後にあった過労死の事実認識をめぐって、行われている。
野村不動産に対しては、昨年の12月25日に厚生労働省東京労働局が、裁量労働制の違法適用があったとして異例の「特別指導」を行い、その指導の実施を翌日の12月26日に記者会見で記者に伝えていた。
しかし、実際にはその背後に、裁量労働制を違法適用された社員の過労死について、労災の申請と認定があり、新宿労働基準監督署による労災認定の日は、「特別指導」の翌日、まさに記者会見で「特別指導」が記者に伝えられた、その日だった。そのことは今年の3月4日(日)に朝日新聞が独自取材により明らかにした。
●裁量労働制を違法適用、社員が過労死 野村不動産:朝日新聞デジタル(2018年3月4日)
そのため、過労死が起きたことを知っていながら、それを伏せて、裁量労働制の違法適用をきちんと指導したかのように国会で安倍首相や加藤大臣が答弁していたのではないか、という問題が、翌日から国会で問われることとなった。安倍首相や加藤大臣は、過労死や労災申請・労災認定を答弁より前に知っていたのか。それが追及の焦点だった。
その3月5日(月)の参議院予算委員会で、石橋通宏議員の質疑に対し、安倍首相と加藤大臣は、こう答えている。
●石橋通宏議員
日曜日の朝日新聞の朝刊一面トップ、裁量労働制、野村不動産の裁量労働制、まさに昨年末に発表された、問題となった違法適用、この対象になっていた労働者の方、50代の男性社員(が)、2016年9月に過労自殺をしておられた。
昨年、ご家族が労災申請をされて、まさに特別指導の結果を(東京労働局が)公表された12月26日、その日に労災認定が出ていたということです。総理、この事実は、ご存知でしたね?
●安倍首相
(略)これは、特別指導についてですか? 特別指導について、報告を受けたということですか?
特別指導については報告を受けておりましたが、今のご指摘については、報告は受けておりません。
●石橋通宏議員
安倍総理は報告を受けていなかったと。加藤厚労大臣は、もちろん知っておられたんでしょうね?
●加藤厚労大臣
それぞれ労災で亡くなった方の状況について、逐一私のところに報告が上がってくるわけではございませんので、一つ一つについてそのタイミングで知っていたのかと言われれば、承知をしておりません。
●石橋通宏議員
知っておられなかった、と。この事案。
そうすると、これだけの深刻な事案がまさに、裁量労働制の適用労働者に対して発生をしていた。労災認定が出たわけです。(以下、略)
さて、ここで加藤大臣は何を答えただろうか?
石橋議員が「知っておられなかった、と。この事案」と確認したのに対して、加藤大臣は、
「いや、そうではなくて・・・」
と、訂正はしていない。普通に聞けば、
「承知をしておりません」
と答えているのだから、知らなかったと答弁した、と受け取る。翌日の新聞各紙もそのように報じた。
●厚労相「当時、承知せず」 野村不動産の過労自殺認定 「認識いつ」野党追及:朝日新聞デジタル(2018年3月6日)
しかし、改めて野党が追及していくと、この答弁は、野村不動産における過労自殺について、知らなかったという答弁ではなかった、ということが明らかになった。野村不動産における過労自殺については、
個別の事案についてはお答えできない
と、その後、加藤大臣は、説明を拒み続けた。
では、「承知をしておりません」とは何を承知していない、という答弁だったのか。
よく見ると、加藤大臣の答弁は、
●「それぞれ」労災で亡くなった方の状況について、「逐一」私のところに報告が上がってくるわけではございません。
●「一つ一つ」について「そのタイミングで」知っていたのかと言われれば、承知をしておりません。
となっている。
そんなことは石橋議員は尋ねておらず、野村不動産の事案について、過労自殺とその労災認定があった事実を知っていたかを問うているのに、加藤大臣は、論点をすり替えて、聞かれてもいないことを答えて、あたかも何かを答弁したかのように装っていたのだ。
これでは質疑は成り立たない。
(後略)