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聖路加国際病院 QIセンター感染管理室マネジャー 坂本史衣  『新型コロナ医療の現場から 命の選択を避けるために今できることを』 全文

2020年04月13日 11時49分20秒 | その他の日記
 以下の文は、Yahoo!ニュースの坂本史衣氏の『新型コロナ医療の現場から 命の選択を避けるために今できることを』と題した記事の転載であります。




      『新型コロナ医療の現場から 命の選択を避けるために今できることを』
      坂本史衣  | 聖路加国際病院 QIセンター感染管理室マネジャー 


  東京都では感染者数が増加
 東京都では3月下旬から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数が上昇を続けています。
 イタリア北部やニューヨークのような爆発的急増は起きていないものの、コンスタントに増えている印象をCOVID-19の医療に携わる私たちも持っています。 

  診療協力病院の現状
 現在COVID-19が疑われる患者さんが病院を訪れるルートは全部で3つあります。
 ウォークイン(直接外来を受診)、救急車での搬送、行政機関や近隣のクリニックからの診察依頼です。
 患者数の増加に伴い、診療協力病院では、外来にあるCOVID-19専用待合エリアを拡大したり、集中治療室や病棟をCOVID-19専用にして対応しています。 

  【診療協力病院はこれから増える見込み】
 今もまだ、不安やマスクなどの防護具の不足から、発熱している方やCOVID‐19が疑わしい方の診療を行わない病院があります。
 そのため、一部の病院に負担が集中している状況は以前から変わりませんが、これからいくつかの大学病院で患者さんの受け入れが始まるので、一時的な緩和が期待されます。
 軽症者の宿泊施設への移動も非常にゆっくりとではありますが、病院あたり1日1人~数名のペースで進んでいます。
 ただ、すべての患者さんが移動を希望されるわけではなく、解決すべき課題もあります。 

  【病院の経済的負担も大きい】
 COVID-19の流行拡大に伴い、病院を利用する患者数は減少傾向にありましたが、COVID-19患者を受け入れるために予定手術や健診業務を中止したり、差額ベッド代の徴収を行わなくなった結果、診療協力病院は巨額の経済的損失を負っています。
 幸いCOVID-19の診療に対して診療報酬が算定できるようになりましたが、損失が完全に補填されるわけではなく、どこも赤字覚悟で取り組んでいます。 

  【検査はCOVID-19が疑われる場合に実施】
 診断のためのPCR検査は、症状、経過、胸部CT検査の結果などからCOVID-19が疑わしい患者さんに対し、行政検査または保険適用で行う検査のいずれかとして行われています。
 東京都のウェブサイトに掲載されているのは行政検査件数だけで、保険適応で行った検査件数は計上されていません。
 そのため、現在実際に行われているPCR検査件数は東京都が公開している件数よりもやや多いと考えられます。 

  【陽性は多く、偽陰性と思われるケースも】
 検査結果が判明するまでには、少なくとも1~2日を要します。
 そのため、比較的症状が軽い方は結果が分かるまで自宅待機となることが多く、中等症~重症者は入院になります。
 検査結果の多くは陽性です。
 ただし陰性であっても、疑わしい症状があり、胸部CT検査でCOVID-19に特徴的な影を認めることなどからCOVID-19が否定できない患者さんもいます。
 そのため、陰性の場合の判断は慎重に行われています。
 また、感染が心配だからという理由で検査を求める無症状の方が救急車を要請したり、外来や電話で医師や事務員を30分以上離さないために診療が中断することもたびたび起きています。

  【防護具は不足している】
 マスクやガウンなどの防護具は相変わらず手に入りにくい状況です。
 そのため、使用をかなり制限しています。
 N95マスクは今後枯渇する可能性が高いので、厚生労働省は4月10日にマスクに付着したウイルスを不活化する処理を行うなどして使用期間を延長する取り組みを検討するよう病院に通知しました。
 プラスチックガウンも不足する見込みです。
 すでに入荷できていない病院もあります。
 顔を覆うシールドも同じような状況です。
 そのため、ガウンの代わりに大きなゴミ袋をかぶり、シールドの代わりにクリアファイルで顔を覆うなど、さまざまな代用品を使った試みが行われています。
 決して安全な状況とは言えず、院内感染のリスクと隣り合わせです。 

  重症患者の命を救うために
 COVID-19は経過が長い病気です。
 感染から診断までは2週間前後、入院から退院までは3週間ほど(重症ならそれ以上)かかります。
 一般病棟に入院し、鼻カニューラで低流量の酸素投与を行っている患者さんのなかには、短時間のうちに高流量の酸素が必要となり、やがて集中治療室(ICU)で気管挿管されて、人工呼吸器管理となる方がいます。
 ですから、中等症から重症の患者さんの診療を引き受ける急性期病院では、そのような急激な病状の変化をおこす可能性が高い一般病棟の入院患者(ICU予備軍)の数に応じて、あらかじめICUのベッドを空けておく必要があります。
 ICUが満床の場合は、病棟にいる患者さんの急変への対応が難しくなるからです。 

  【人工呼吸器は誰もが使える器械ではない】
 人工呼吸器は重症患者の命綱ですが、使いこなせるのはトレーニングを受けたベテランの医師、看護師、臨床工学技士などです。
 人工呼吸器を装着した一人の患者さんの治療やケアには、複数の医師、看護師、臨床工学士に加え、リハビリスタッフが、感染予防に非常に神経を使いながら当たることになります。
 今のところ、比較的高齢の方を含め、多くの方が無事に人工呼吸器から離脱して、回復しています。
 各診療協力病院のICUで提供されている手厚い医療が日本のCOVID-19による死亡率の低さに貢献していると考えられます。
 
  【集中治療室に余力を残すことが救命につながる】
 このように重症化する患者さんの診療が可能な急性期病院が安心して引き受けられるCOVID-19患者数は、ICUのキャパシティ(許容量)に左右されます。
 つまり、人工呼吸器の数とそれをあつかえるマンパワーがICUのキャパシティであり、キャパシティに余裕があれば重症患者さんを救命できる可能性が高まります。
 ただ、残念ながら日本全体の集中治療室のキャパシティはもともと大きくはなく、すでにCOVID-19の流行によりひっ迫しています。 

  【医療現場の願い】
 COVID-19患者数が増加すれば、人工呼吸器管理を要する重症患者数も増加します。
 増加が続けばやがて、限られた人工呼吸器を誰に使うのかという選択を医療従事者は迫られることになるでしょう。
 そして選択の対象にはCOVID-19 以外の病気で運ばれた患者さんも含まれることになります。
 誰もそのような命の選択をしたくはありません。
 第三者が示してくれた選択基準に従ったとしても、医療従事者の心には大きな傷が残るでしょう。
 患者さんにも家族にも耐えがたい状況となります。
 それが、医療現場の私たちが恐れる医療崩壊です。 
 人と人との接触を8割減らす短期決戦を行えば、感染者数を減らし、命の選択を回避できる可能性が高まります。
 今、できる限り人との接触を減らしてください。
 どうか、患者にならないで。
 それがCOVID-19医療の現場にいるすべての医療従事者の願いです。

                               転載終わり。



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