或る夜の事。
狐は先輩と一緒に或るパブリック・ハウスのカウンター席に腰をかけて、絶えずホットミルクを舐めてゐた。
狐は余り口をきかなかつた。
しかし先輩の言葉には熱心に耳を傾けてゐた。
「君はSNSとやらはしないのかね?」
前髪ぱつつんで黒髪美人さんの先輩は頬杖をしたまま極めて無造作に狐に訊いた。
「君はメールはするけれども、FacebookとかLINEとかTwitterはしていないよね? 何で?」
個人的なことで世間様に伝えたい事とかはほとんど無いし、何処かの誰かと繋がりたいという欲求がほとんど無いからです。
「え? さうなの?」
FacebookとかLINEとかTwitterとかは始めると大変そうつて気もするのでしていません。
「え~。楽しいよ?」
私の気質では、FacebookとかLINEとかTwitterとかを始めるとそれらに夢中になつてのめり込んでしまつて他のことに手を付けない廃人になりそうで怖い気がします。
「そこは常識を働かせてさ。楽しいよ。始めては如何?」
面倒なので嫌です。
「ふむん?」
先輩はお喋りを止めて考え込んだ。
狐の言葉は先輩の心を知らない世界へ神々に近い世界へと解放したのかもしれない。
狐はカルーアを注文し、割賦の中でミルクと混ぜ合わせてカルーア・ミルクを作り、舐めた。
先輩は言つた。「つまんない」
狐は何か痛みを感じた。が、同時に又歓びも感じた。
人の好みとは様々なものであるな。面白ひものだ。
そのパブリック・ハウスは極小さかつた。
しかしパンの神の額の下には赫い鉢に植ゑたゴムの樹が一本、肉の厚い葉をだらりと垂らしてゐた。
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