狐の日記帳

倉敷美観地区内の陶芸店の店員が店内の生け花の写真をUpしたりしなかったりするブログ

朝露が招く光を浴びて、はじめてのように……。

2018年02月21日 22時07分16秒 | VSの日記



 本日2月21日は、ジャンヌ・ダルクの異端審問が開始された日で、足利義政が慈照寺の造営を始めた日で、イギリスでリチャード・トレビシックが蒸気機関車の試運転に成功した日で、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの『共産党宣言』が出版された日で、改正日米通商航海条約が調印されて不平等条約を撤廃されて関税自主権が確立された日で、ミュンヘン革命の中心人物クルト・アイスナーが暗殺された日で、孫文が第三次広東軍政府を設立した日で、天皇機関説を唱えた美濃部達吉が襲撃されて負傷した日で、日本の警視庁が婦人警察官の募集を開始した日で、東パキスタンでベンガル語運動家と軍隊が衝突した日で、フランシス・クリックとジェームズ・ワトソンがDNAの二重螺旋構造を発見した日で、アメリカの黒人運動指導者マルコムXが演説中に暗殺された日で、イスラエル空軍がシナイ半島でリビア航空機を撃墜した日で、東京地検が『四疊半襖の下張』を掲載した雑誌の編集長・野坂昭如らを起訴した日で、漱石の日です。

 本日の倉敷は曇りでありましたよ。
 最高気温は十度。最低気温は一度でありました。
 明日も予報では倉敷は曇りとなっております。






 若い娘の命を取る事も真つ白な張の有る躰を目茶目茶にする事でも平気な顔でやつてのける力を持つた刀でさえ錦の袋に入つた大店の御娘子と云うなよやかな袋に包まれて末喜の様な心も其の厚い地布の影には潜んで何十年の昔から死に変り生き変わりした美くしい男女の夢から生れた様な艶やかさばかりを輝かせて育つた我が友である女の名は其の美しさに似ず勇ましい名である。
 友の心の底にちらつと怪しい光りものの有るのを私は見付けた。
 其の光りものの大きくなつた時に起る事も私は想像する事が出来た。
 友の心の中に棲む光りものの細やかに物凄い煌めきを見るにつけて天が人に与えるものについて考えさせられた。
 友の心に住む光りものの広がる毎に其の美くしさは増して昔から御話にある様な美くしさと氣持を持つて居るのを知つたのは私きりではなかつた。
 粋な模様の裾長い着物に好きでかつら下地にばかり結つて居た様子は其のお白粉気のない透き通るほどの白さと重そうに好い髪とで同じ学級の者がこぞつて附文をする程の美くしさを持つて居た。
 或る時、自分の名が勇ましい名であることに笑つて「私は大好きよ」と云つていた。
 「女は柔しい名の方がどれだけいいんだか……。名のあんまり凄い女は嫌がられるものよ……」と彼女の母親は云つた。
 「そう、咲くかと思えば直に萎んで散つてしまう花。直に年寄りになる様なお花なんて名が良いのでしょうか。でも私は自分の名が好きなんだもの。龍があの黒雲に乗つて口を喝つと開いて炎を吹く所などかは堪らなく良いけども、まあ只の蛇が真つ青に鱗を光らして口から赤い舌をぺろりぺろりと出す事なんかも私は大好きよ」
 其の凄く光る瞳を憧れる様に見張つて友は斯う云つて母親が顔色を蒼くしたのを真つ黑な瞳の隅から見て居た。
 細工ものの箱に役者の絵葉書に講談本の有る筈の室には、壁いつぱいに地獄の絵が貼りつけてあり畳の上には古い虫ばんだ黄表紙だの美くしく顎が尖つた男達が睦む本が散らばつて真つ赫に塗つた箱の中には勝れた羽色を持つた蝶が針に刺されて入つて居た。
 そんな事も母親に何とはなしに涙ぐませるには充分な事だつた。
 友は家業を手伝つていたが、仕事を教わる際には気儘に教わつて居たけれども教える任にあたつた者は友の冷たい美くしさに自分の気の狂うのを畏れて成る丈は避けて居た。
 友は男が鉛筆を握つて居る自分の横顔を見詰めてぼ~つと顔を赫くしたり小さな溜息を吐いたりして居るのを見ては、其れが面白さに分るものを態と間違えて癇癪を起したふりをして弱い男のおどおどしてただ情けなそうに俯く様子を見ては満足の薄笑いをして自分の部屋に入るのが常だつた。惡い奴である。

 今も其の氷のやうな美貌と共に恐ろしくも冷たくも美しい内面と煌びやかな才が頭に浮かぶ。
 でももう居ないのだ。
 友は恐らく笑いながらこの世界から去つていつた。
 あいつは莫迦だ。底無しの莫迦だ。
 でももう居ない。
 だからあいつに直接文句も云えない。


 其の事は私をとても寂しい氣持ちにさせてしまうのだ。




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