暗黒世界に緊張感が続き、息つく暇もない「テスカトリポカ」を読んだ後、
ユニークな家族の「じい散歩」の日常物語で心のリハビリ。
アラ90(around90歳)の老夫婦と全員未婚のアラ50の3人の息子たちとの日常を描いた小説。
主人公「新平」は89才、一日のルーティンを毎日きっちりとこなす健康オタクで元気な老人。
その妻「英子」は88才、新平と真反対で運動嫌いで甘いもの好きで、夫からは「丸い体の妻」とか、
「あんパン」とか心の中で言われている。軽い認知症を患っています。
私なんか、夫から「トドが寝そべってる」、なんて(^^;)口に出してニコニコしながら言われてます~。
開き直っている私は「そだねー、かわいいでしょ。」とニコニコ。
新平夫婦の長男「孝史」は長~い間、引きこもり状態。ただ気が弱いだけのようで、
食卓は家族と一緒にしています。
次男「健二」は明るく頼りになるMr. 長女
彼はフラワーアーチストとして独立して暮らしてます。
ユーモアも分かり、さっぱりとした性格で♪お友達になれば楽しいだろうな~♪と思います。
三男「雄三」は、これまた何も気にしない暢気で行き当たりばったりの性格。
計画性もなく、それこそ行き当たりばったりで事業を立ち上げては失敗ばかり!
それでも懲りず、将来の不安も持たずぐうたらと実家暮らしを送ってます。
この三男もいい味出してて、憎めないんです。
この家族の物語なので面白くないはずがありません。
妻がトイレの前で倒れて意識がないと分かっていても、夫の新平は救急車を呼びません。
次男健二に「保護責任者遺棄致死で逮捕だよ」と言われやっと救急車を。
老衰だ、延命治療しない等、新平は妻が倒れたにも関わらず、落ち着いて動揺すらせずいた
のは、ひょっとしたら私も以前読んだ長尾和宏医師の著書「痛くない死に方」を熟読して
心に留めていたのではと、ニンマリ(^_-)*。
親からしてみれば悩みの種である筈の個性溢れるアラ50才で独身の3人の息子たちを持ちながら、
誰の責任にもせず、おおらかに描かれているのは父親の立場で書かれているいるからだろうか?
母親の立場で書かれていたら、少しは悩みや愚痴が描かれていたかも。
実際、母親英子は一時期、新興宗教にはまっていたようです。
「8050」、「引きこもり」、「痴呆症」、「LGBT」、まさに社会で話題になっていること
が「じい散歩」にユーモアを持って描かれ、構えないで普通に日常生活を過ごせば良いので
はないか、そんな人生もあってもいいのではと思わせてくれる小説でした。
この本の作者「藤野千夜」さんは芥川賞作家であり、トランスジェンダー。
自称長女である健二のことも、さらりと何処にもいそうなちょっと個性的な人間として、
書かれていて、クスッと笑いながら親しみを持ちながら読みました。