Sbagliando si impara. (間違うことで人は学ぶ。)

イタリア語の勉強に、nonna ひとりでフィレンツェへ。自分のための記録。

「暗い林を抜けて」を読み終えて

2020年11月11日 | 読書
図書館で予約してから長い時を経てやっと手に取った本、「暗い林を抜けて」。
語り手が作者であったり、登場人物であったりと変化しながら描かれています。
      

関西で暮らす私には、京都や奈良などの馴染み深い地名が出てきて、
より親しみを感じながら読み進める事が出来ました。
 
主人公は京都の大学を出て(作者と同じ)、通信社に勤めています。
戦争捕虜としてシベリアに抑留されていた老画家に、
当時の事を聞くため訪ね取材した話は、過去と現在を繋ぎながら
人間関係の意外な接点などを描きながら語られていました。

目の粗い麻のキャンバス上に、蜜蝋に絵具を混ぜペインティングナイフで描き殴り、
雪解けの雪面を表現したような抽象画的な彼の絵を見て、主人公はそこに
世界の姿そのものが描かれた作品であると気づいたようです。
そんなどろどろとした重いものが1枚の絵に込められていたなんて、
それを感じ取った主人公も凄い! 

画家が抑留されていた場所は、黒澤明の映画「デルス・ウザーラ」
(ヤマザキマリのエッセイの中でこの映画のことが書かれていました。)の舞台に
なっている「虎頭(地名)」のあたりで、読んでる私自身も日本軍敗戦間近の
悲惨な状態の真実を垣間見たような感じになりました。

第二次世界大戦、経済学者都留重人の事、「核」、湯川秀樹の日記、
ゾルゲ事件、雲仙普賢岳の火山活動、9.11、サラエヴォ等の歴史上の事も
書かれており、歴史小説のようでもありました。

また、長崎で迫害を受けていた禁教のキリシタンの話とは真反対の話には驚きました。

最初のキリシタン大名となった大村純忠の時代にはキリシタンの勢力が強く、
仏教や神社を破壊したり、お坊さんや神主を殺したり、墓まで壊し、
そこにキリスト教の教会を建てたりしたようです。
その上、領民全員をキリシタンに改宗までさせ、また、地域一帯のキリシタンたちが
押し掛けてお坊さんら30人くらいを皆殺しにしてしまい、
今でも「坊主原」とか「卒塔婆の首」という地名が残っているそうです。

遠藤周作の「沈黙」のキリシタンを仏教徒に変えて想像してみました。
人間は立場が変われば同じことをすることもあり得るという恐怖を感じました。

印象強く残ったひとつに、京都「岩倉」の精神病者の解放療養のことがあります。

宮家や公家が京都から東京に移動した後も、身内に精神病者が生じた場合には、
岩倉の民間施設に託された「解放療養」という施策が1950年精神衛生法が
施行されるまで残ったとも書かれてました。

また、滋賀の「朽木」の後一条天皇と関係深い「興聖寺」の住職から聞いたと言う、
当時高校生だった礼宮さまがこのお寺をご学友たちと訪れた時の実話です。

多感な時期の礼宮さまは、長く続いた宮家の血統に長い間不安を抱えておられた
思うと私も心が震えました。
昔から日本だけでなく、他国においても地位を存続させるために
近親婚で子孫を残していったことを歴史小説などで読んだことがあります。

主人公が取材した歴史上の事実と彼の人生を絡めた小説となっていて、
私は強く心を動かされるとともに、無知な自分を恥じ入りました。
過去となった歴史の中に、異形な人生があったことをもっともっと知りたいと
感じる読書となりました。

「暗い林のなかには、生きとし生きてきたもの、皆が立ち去らずにくらしている。」
と書かれています。
「弓子。太郎。会いたいときがあったら、あの暗い林に来てくれ。」とも。
主人公は死後もこの世界を立ち去りがたくて、まだしばらく、あそこらあたりを
ほっつき歩いているそうです。

その暗い林を抜けると何があるのでしょう、何が見えるのでしょう、
          何が待っているのでしょうか。
文庫本になったら改めて購入し、私の側に置きたい1冊となりました。


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2 コメント

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ショック! (旅の友)
2020-11-11 22:33:56
2025年までに、『近ツリが従業員3分1削減』のニュースを今見ました。
少なくともあと5年位は今の状況が続くという読みでしょうか?
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ショック、ショック! (jun)
2020-11-12 17:46:54
「近ツリ」さん、大丈夫でしょうか
旅の友さん、情報が早~い!
せめて2年後には脱出したい~

ワクチン接種を来年中に全世界で同時接種して、
憎きCOVID-19を抑え込んで・・・。
祈るばかりです。

YouTubeでバーチャル世界旅行してますが、却って
ストレスが増しそうです
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