シャンソンを文字で聴いているような、そして叙情詩のような表現をも
感じた小説でした。
瀬戸内海の2つの島を舞台にした千早茜さんの「ひきなみ」
装画は西川真以子さん
2つの島を繋ぐ「みかん色の橋」:図書館の本は表紙がしっかりと貼り付けてある
ので、美しい絵の全体を分断してしか見られません。
主人公は小学校最後の年に、「7月には必ず迎えに来る」という母の約束をどこかで
不安に思いながらも信じ、瀬戸内海の*『香口島』の祖父母の家で暮らし始めた東京
育ちの「葉」。彼女が隣の『亀島』に祖父とふたりで暮らす「真以」と出会い、島の
古い因習の中で2人の友情を育む第一部『海』と、社会人となり、東京の大手企業に
勤務し、上司のハラスメントに毎日疲労困憊する葉が「亀島」から行方不明になった
真以の消息を知る『陸(おか)』の2部作からなる千早茜さんの新作です。
偏見と差別の中で淡々と生きる「真以」と親に置き去りにされた「葉」は息苦しい
環境の中で、お互いに癒やし、信じ、認めながら、逃げ場のない狭い島のなかで抗う
ことなく生きているのです。
そんな中、目立たないように生きている「真以」ですが、悪行を見て見ぬ振り出来ない
彼女は則行動するタイプ。そんな真以に人見知りでおとなしい「葉」はぞっこんなんです。
中学生になった時、島に逃げ込んだ脱獄犯をふたりがこっそりとかくまったことから
ふたりの間も大きく変わっていきました。
この話しは2人の人生を通して、社会の偏見、差別、排除や分断を描いていて、
それらで縛られた縄を少しだけ解くヒントは「真以」の言葉の中にあるように
思えました。
みんな見たいように見る、 人の目を変えるのは難しい、
その人が見ている世界はわたしの世界とは関係ない、
偏見や悪意には抗うけれど、そのためにわたしを拒絶することとは違う、
闘わなくてもいい、どうにかしようと思わなくてもいい、自分を変えようと
しなくてもいい、間違っているのは相手だから、自分のやり方で、生きて、
人生は足掻きながら、強く進むしかないのでしょう。
真以が好きだった海の道「引き波」
道なき海の面を駆けた確かな証を残していた航跡
進んだ背後には道ができる
*生口島(檸檬、みかん栽培の島)、亀島(実際にこの名前の島が有りました)、
向島(2人が船で通った中学校がある島)をモデルかなと思ったのですが。。
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