独り身の女性、テリムはこの島で静かに暮らしていた。
彼女の唯一の家族は、茶トラ猫のチェロだった。
家で一匹の猫と暮らすことに慣れており、彼らは互いに理解し合っていた。
結婚してすぐ、旦那は森で亡くなったらしい。
旦那のゴルテは、森を探索して、珍しい動物を狩り、その肉を売って生計を立てていた。
相棒の、アーツと言う弟子の様な存在だけが生き残って森から帰って来たが、アーツは申し訳なさそうに、
「ゴルテ先生は、亡くなりました・・・」とだけ伝えて、そのまま、二度とこの村には戻らなかった。
テリムはその悲しみを乗り越えるしかなく、一人で新しい生活を始めた。
その途中で、出会ったのが、チェロだ。
ある、とても暑い日、窓を開けたままにしておいたら、そのまま上がり込んで、居座った。
追い出す理由もなかったので、テリムは、革製の猫の首輪を作って、
ゴルテがいつもしていた指輪を付け、
アーツが言っていた「ゴルテ先生は亡くなりました・・・」と言う言葉を記憶から消す努力をして、
自分の旦那の帰りをチェロと、何年も待った。
子猫だったチェロはすっかり、小太りの茶色いお団子になり、朝から晩まで、最初に入って来た窓辺で日向ぼっこをしていた。
テリムは、朝起きると、庭の花に声をかけて、チェロを撫でてから、市場に向かう、そんな生活をしていたが、
その朝は、チェロの姿がなかった。
心配しながらも、チェロが死ぬ場所を探しに行ったのだと半分理解した。
しかし自分の事を納得させることは出来ない、不安で一杯だった。
テリムは一心不乱にチェロを探し始めた。
村のあちこちを歩き回り、チェロがどこに行ったのかを探った。
時折、彼女の心には若かった頃の旦那との思い出がよみがえり、それが彼女の力になっていた。
結局、夕方まで探し続けたが、諦める事はせず、また明日もチェロを探すんだという気持ちのまま、家に帰った。
帰る途中に、まだ、本当に自分が小さかった頃、不思議な体験をした岬に寄り道をして、日没を見たが、
あの頃にあった感覚は、蘇らなかった。
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