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逢坂冬馬「同志少女よ、敵を撃て」を読む

2023年04月16日 | 読書

2022年の本屋大賞を受賞した「同志少女よ、敵を撃て」(逢坂冬馬、あいさか とうま)を読んでみた。本屋でよく目につくところに置かれていたし、Amazonのレビューも多く、評価も高かったかということもあるが、独ソ戦にまつわる物語だというので読みたくなった。近現代史は興味のある分野だ。

この小説は、第2次大戦中の独ソ戦においてソ連により戦線に投入された女性狙撃兵の物語である。主人公セラフィマは1924年生まれの少女、イワノフスカヤという小村に住んでいて家族と暮らしていた、生活のため狩りをして鹿を撃って食料にしていた。あるときドイツ軍が攻め込んできて家族を殺し、村を焼き尽くした。それに復讐をするために狙撃兵になる決意を固め、訓練学校教官のイリーナに厳しい特訓を受ける。そして最後まで訓練に耐えて残った同志少女数名とスターリングラードとケーニヒスベルグの戦闘に投入され、地獄を見る、というストーリー。

感想を述べてみよう

  • 物語の中でセラフィマが憤るのが女性に対する軍人の戦時性暴力だ。これはドイツ側もソ連側もあった。戦争の極限状態に置かれた兵士はもう正常心を保つことができない、人間を狂気に陥れるのが戦争だという現実。人類がずっと行ってきた愚かなことだ。今もウクライナで同様なことが行われていると思うと暗澹たる気持ちになる。
  • そして、戦後、ロシアもドイツもこのことについは一切何も語ろうとしない。ドイツが国際社会に復帰するときも何も言わなかった。双方の被害者も何も言わなかった。本では何も触れないことによって問題を相対化してドイツの尊厳を保ったと書いてあるが、戦争当時国女性の性被害を言えば戦勝国によるニュルンベルク裁判の正当性にも影響するから事実上言うことができなかったのではないか、原爆投下や都市空襲、シベリア抑留などの戦勝国の犯罪は東京裁判でも一切触れることができなかった。
  • 物語の中でウクライナのことが多く出てくる。ソ連時代、その前の時代、ウクライナはソ連・ロシア帝国から搾取されていた、穀物などをロシアに提供されられていた。戦争中、一時、ドイツの占領下にあった、戦後は激戦のあったウクライナとベラルーシを優遇した、クリミア半島はウクライナに返還されたが、ウクライナの平和は長く続くだろうか、とセラフィマに言わせているのは意味深である。
  • 大戦でドイツは900万人、ソ連は2,000万人の命を失ったとある、本当に人類は愚かだ

期待した独ソ戦に関する知識の向上にはあまり貢献しなかったが、物語としてはまあまあ面白かったと思う。ただ、本のタイトルやカバーのイラストは如何なものか。出版社の売らんかなの意図が丸見えでセンスがないと思うが。



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