万葉趣遊・詩 秋篠の小路

2017-03-14 16:05:34 | 
       秋篠の小径        


  来る途中
  畑にいたおばあさんからのいただきもの
  苺をくるんだハンカチーフを手に提げて
   東洋のミューズってええやんか と
  寺に向う

  あんたは 
  片方の手で拂っていた草の葉っぱを
  指の間に残したまま
  カメラに向って
   技芸天は 秋篠の女優さまよね と
  あのお方のキメのポーズをとる
  苺をパクリ
  踵をかえして
  雲雀も小躍りして鳴く秋篠の小径を
  私におかまいなしに
  さっささっさと行きなさる

  黒髪を盛りあげた紫紅のシュシュが
  たまゆら 薔薇を装うのも
  思い過ごしか と
  私は後ろから
  不揃いのひとつひとつを楽しみながら
  あんたについて行く

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万葉趣遊・詩二題

2017-03-13 13:32:53 | 
        泊 瀬        

  門前町で買った木綿(ゆう)の髪飾りをつけて
  合わせ鏡で見ている
   明日の吉野はもっと寒いわね
  あんたは窓辺に寄り
  み寺の
  闇に列なる燈明を数えて
  フッと 
  手すりにもたれたまま
  何も言わなくなった

  蛾が翅を畳んでいる

  山間に濃くおりた霧の
  しめやかな埋葬地の樹々の梢に
  鳥たちはチチと睦み合う
  あけぼのの初瀬川の瀬音
  み寺から流れてくる声明

  無垢への祈りを現の闇に聞いていたのか
  と・・・・
  いつ起きて行ったのか
  あんたが天空への長い回廊をのぼっている    
  
            * 泊瀬女(はつせめ)の造る木綿花(ゆうばな)
                   み吉野の瀧の水沫(みなわ)にさきにけらずや
                               (万・巻六・九一二)

      阿騎の大野   

  泊瀬(長谷)から電車で一駅そこからバスで二〇分位
  で行けるからと 吉野行きを変更した
  <かぎろひ>を見るには季節外れ、しかも真昼だ
  「アタシの名がついてるから」
  言いだしっぺのあんたは道中は食うかゐ眠るか
  着けば着いたで「何にも無いね」
  と言ったあんたの姿は見えぬ

  阿騎の大野は平安時代お狩場だった
  何も無いからその面影が残っている
  狩の一行は十一月(陰暦)の朝 藤原宮を発ち泊瀬を通った
  雪の舞う狛(こま)峠を越えて 一日掛けて宇陀(阿騎野)に着いた
  とどこかで読んだことがある
  真っ白い冬の狩場での旅寝
  東の野のかぎろひ
  西の空の月
  夢でも見ることができない絵を
  人麻呂さんは本当に見たんだろうか

  「万葉集ってサ いつの話?」
  いつのまにか戻っていたアキは
  臍を出して 胸を立てて
  草の上に寝転んで空を見つめている
  月も
  かぎろひも……
  そうか ぜいたくな歌だな
  ぼくはうなずいて
  アキの脱いだパンプスを空に放り上げたのだ
 
            * 東の野にかぎろひの立つ見へてかへり見すれば月かたぶきぬ
            (万・巻一・四八)

しとしと雨が降っている。今日はこのまま降り続きそうだ。僕には恵みの雨だ。明太ポテトをつまんでいた指を洗って、< O HOlÿ Night >でも弾いてみよう。
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詩・セッション 今ここに居ることが嘘でない限り

2017-03-10 01:00:00 | 
*詩・セッション*
   今ここに居ることが嘘でないかぎり
                  高田数豊 & 久保田松幸

すすきの穂先に塔の水煙が見えたら魯を上げて少し休みましょう
急ぐこともないでしょう 
今ここに居ることが嘘でないかぎり
うぐいす色の水面に白鷺の羽もたゆとうています
向う岸は縁日でしょうか 幟(のぼり)がはためいています
船ごと揺れそうな真昼の花火です
音は落ちるのでしょうか散るのでしょうか拡がるのでしょうか
嫌な記憶しかありません 
今ここに居ることが嘘でないかぎり
わたしの耳は沈殿している音を汲み上げるのです
                                       (高)
    季節よ 何故そんなに急ぐのか
    昨日も今日も 大事な日ではなかったか
    明日も またしかり
    だが ふるさとの再生しない風景に
    明日が まだあるだろうか
                                       (久)
遠くまで来たような気がしますが 
この先目印となるものに心当たりがありません
かまやしません 時の流れを渡り切ろうなどと
大それたことは考えていませんから
時の流れるままに
玄関の花を換え 床屋にも行き うそ歌を口ずさんで 
折々には香を焚き 妻の出掛けを見送り 
小銭を握ってこっそり宝くじでも買ってみますか
たくさんの別れを経験してきましたがこの頃は恐ろしすぎて
わたし自身今ここに居ることが不思議でなりません
当たり前のような日々が・・・・
                                       (高)
    人を代理して機械が 宇宙を旅している
    機械には 無限に落ちているという
    実感はないのであろうか
    わが家の盂蘭盆は
    何処か宇宙の庭前になっている
                                       (久)
簾(すだれ)を立てた八百屋のおじさんは 
前掛けでひとつひとつ梨を拭いています
サーフボードを乗せた車が峠道をとばしています
重力は数々の錯覚と妄想を生み続けています
平日の予定もすべてキャンセルです 
浮世の風を風として船を流します
今ここに居ることが嘘でないかぎり 
こうしてたゆとう思いも嘘ではないでしょう
人恋しくなったらにぎやかな渡し場に船を寄せて
今ここに居ることも
「まんざらでもないわ」と
ひらきなおってみます
                                       (高)
    大柄な花弁の 酔芙蓉の花がゆれています
                                       (久)
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短い詩です

2017-03-01 11:00:39 | 
      砂浜のファンデーション
  
   
   もう日焼けした少年たちが
   サッカーボールをリフティングしている

   砂から剥きでた流木が 
   乾いた白い骨のように光っている

   寝転んだ砂浜のハマヒルガオの上は
   やわらかくて あったかくて

   化粧をしているねえさんの
   ファンデーションの匂いがしてくるのだ
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あったまる詩

2017-02-10 09:57:04 | 
トリプル寒波の第二波を待っています。雲の僅かな隙間からやさしい朝陽が射しています。ずっとストーブ番のルルに、「ほら今のうちに外へ行っておいで」とベランダの戸を開けたけど、全くその気なし。冷たい風が吹き込んできたからです。今朝、目玉焼きを作っている時に思い出しました。こんなあったかい詩がありました。

    目玉焼き  ひろせ俊子

  殻を割られて
  フライパンのなかに
  勢いよくすべりこむ
  ふたつの卵

  後からきた卵の黄身ガ
  待っていた黄身の傍に
  すっと寄り添った

  恋しい者たちが
  気持ちを抑えきれない
  というように
  懐かしい者たちが
  やっと再会できた
  というように

  ふたつの卵は
  フライパンのなかで
  なにやら沸々と
  肩をよせ合っている
  なんのてらいもなく
  なんのうたがいもなく

                 「ひろせ俊子詩集 燕」より

三年前に静岡県三島市で、ひろせさんの朗読を聞きました。その時は「悲しい竜」という詩でしたけど、「女のなかには / 一筋の川 / そこに棲む竜がいる / 悲しい竜を棲まわせる川がある」で始まる詩の最後の二行「ああ / 目を覚ましてしまう」を朗読でリフレインさせた詩人の心の響きが今でも記憶に残っています。この詩集には次のような詩も収められています。

    誕生日の朝

  誕生日の朝
  テーブルに
  お赤飯がありませんでした
  おかあさんはゆうべ
  支度をわすれたのです

  こどもは
  いいよと言ったけど
  お仕事の帰りに買ってこようかと
  きいてみました
  こどもは
  ふと悲しそうな顔をして
  買ったのはいや
  とつぶやきました

  おかあさんは
  とても恥ずかしくて
  それからちょっと
  うれしかったのです

「買ったのはいや」の一行にキュンときてしまいました。「待っていた黄身の傍に / すっと寄り添った」目玉焼きの詩、冷たい朝がポワ~ンとあったまりました。
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