幽 暗
群雲を誘い
空は低く下がり
難波津から
幽暗(ゆうやみ)がのびて
山の頂に
その雲を添え置き
鬱蒼とした墓の
若い皇子に
呪文を撒き
闇は
その裾を広げて
山を包み
さらに闇は
東方の
伊勢に向って
足を速めた
二上は伏せる
人も 動物も
駅前も
遮断機も
二上は伏せる
竹内峠(たけのうちとうげ)の
昔の賑わいも
風の匂いも
旅人の汚れた素足の傷も
すべてをのみこむと
二上は 二上で
その埋葬の いわれも閉ざし
山が 闇に忍び寄る
* 奈良県 二上山(ふたかみやま)
この詩は静岡県沼津市に住んでいた数年前に、二上山を思って書いたものです。
30年位前に二上山を下りて夕方に振り返って仰いだ時の印象がずっと消えずに記憶の壁に掛かっていました。今年9月に二上山の麓に住むようになって、改めてこの山の神秘性を感じています。よそで見る夕景とはちょっと違う。だからこの「幽暗」(ゆうやみ)という字を使いました。
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