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レンズ越しに見えるもの または 見えざるもの

深いジャズ喫茶の話〜東松島 ABBEY ROAD 

2024-05-24 | 音楽







宮城コンプリートのプロセスでは、幾つものジャズ喫茶にも立ち寄った。仙台市では、カウント、カーボ。栗原市では、コロポックル。登米市のエルヴィン、等々。何をもってジャズ喫茶と呼ぶかという定義は難しい。そういう意味では未踏の店舗は多いかもしれない。それでも宮城県の主だったジャズ喫茶は殆ど網羅したのではないか。今回、石巻市からの帰路にGoogleマップで、「ABBEY ROAD」なるジャズ喫茶を見つけた。折角の機会なので、旅の最後に立ち寄ることにした。

ABBEY ROADは、東松島市(旧・矢本町)の住宅街にあった。予備知識なしに訪問したところ、現地は本当に普通の住宅街だった。というよりお店自体も一般住宅の隣に建った車庫の二階にあった。クルマはその民家(大きくて立派な民家ですが)の門扉の中に停めることになった。少し困惑した。入り口で靴を脱ぎ、二階の扉を開けると、ちょっと外からは想像できない正統的なジャズ喫茶ワールドが展開していた。先客は二名、持参したレコードをかけてもらい、うっとりとしている。JBLの大型システム、マッキントッシュを中心としたアンプ群、プレーヤーは僕もかつて使っていたトーレンスのTD520系だった。この日は帰路を急ぐこともあり、短時間の滞在となったが、正直びっくりするほど音の良いジャズ喫茶である。自分でCDとかレコードを持ってくれば、それも掛けてくれるという。あまりに正統的かつ古式ゆかしい内装だけど、あとで調べたら、オープンしたのは2012年とのことだった。以下は直接お聞きしたのではなく、ネット記事で読んだ内容だ。

元々、マスターは石巻の水産関連を扱う流通会社の役員だったそうだ。その会社の社長を慕い、右腕として忙しいながらも充実した日々を送っていた。当時、現在のジャズ喫茶店舗は個人のオーディオ部屋であり、自分の趣味として築き上げたシステムだという。要するにマニアさんである。そんな時に当地を襲った東日本大震災。勤務先の会社は津波で全壊、残念ながら社長もご遺体で発見され、会社は廃業となった。マスターのご自宅にも津波の浸水があったものの、二階にあるオーディオ鑑賞室は無事だったという。色々なものが失われたけど、音楽は残った。一念発起。その後、一年半かけて自宅の復旧と鑑賞室の改装を行い、2012年12月にジャズ喫茶として開業したのである。

そんなドラマがあった店とは全く知らなかった。優しそうで人当たりの良いマスター。懐かしい雰囲気のする店内。羨望のオーディオ。薫り高い珈琲。いかにもジャズ喫茶らしい音。それらが生死を潜り抜けた先に出来上がったものかと思うと、心が震えた。失われたもの、残ったもの。そこから導かれた「やりたいこと」。岩手コンプリートの際は、「東日本大震災」を強く意識した。宮城コンプリートでは、その気持が薄れていたように思う。石巻周辺は多くの方が犠牲になった鎮魂の地でもある。最初に店に入るときに、「何だか普通の家みたいだな~」なんて呑気に構えた自分が恥ずかしい。ジャンル問わず、どんなレコード(ジャズ以外でも)でも持参すれば掛けてくれるという。勿論、店内のレコードだって聴くことが出来る。是非、もう一度お邪魔したい。

追伸:本来は予約してから行く方が良いようです。でも普通に受け入れてくれました。ありがとうございました。

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10 コメント

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訪れてみたい素晴らしいお店ですね (azumino)
2024-05-24 08:04:03
こんにちは

写真と本文読ませていただきましたが、震えがきました。店内のたたずまい、オーディオ装置、そして、マスターとお店の来歴と、もう行くしかありません。文章と写真から音楽の傾向も、僕の好きなもので、これは訪れて、音のシャワーを浴びてみたい、と痛切に思わされました。

飛びきりのお店のご紹介ありがとうございます。この6月末~7月初めくらいに行くように、計画立てたいと思います。もちろん、その際は予約入れるようにします。
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6さんへ (のびた)
2024-05-24 10:22:22
素敵なジャズ喫茶で 宮城コンプリートを終える
写真を愛し 音楽を愛する方の一つの楽章のエンドマークでしたね
人生や運命 人によって 時間によって 環境によって 様々の分かれ道があるものと 改めて思わされました
愛する音楽で立ち直り 今がること その意味では祝福です
こんなお店が身近にあれば 行きたいものです
今月のある日 上野不忍池周辺を歩きました
若い頃 有名なジャズ喫茶が一軒あったののですが
探しましたがありません
多分 遥か前に姿を消したのでしょう
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匂いが・・・ (てり)
2024-05-24 11:53:35
最近のJAZZ喫茶に行って感じるのは「明るい!」そしてオシャレ。
音も素晴らしいしそれはそれで大好きですが、この店は昔の匂いがしますね。
学生時代に通っていた(主に都内)お店は暗くて湿っぽい匂いとコーヒーの香り、
その全体的雰囲気がちょっと背伸びして聴きに行く私のあこがれでした。
そんな雰囲気の店が宮城県にあったんですね、予約というのがちょっとハードル高いですが、
機会を作って訪問したいです。
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こんにちは (矢嶋宏人)
2024-05-24 13:20:31
私は旅行はほとんど行ったことがありませんが、いつかベイシーに行ってみたいとずっと思っています。
東北ジャズ喫茶巡りの旅も楽しそうなので、その時はアビーロードも候補に入れたいと思います。
ジャズ喫茶に物語あるように訪れる客にも物語があります。これが人生の出会いというものかのかと思いました。
妻は間違っても同行しないと思いますが^^
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azuminoさん (6x6)
2024-05-24 20:29:38
おお、6末から7月に行かれるのですね!
本当に普通の住宅街ですが、実は駅(陸前赤井駅)からも10分以内のようです。
音、本当に良かったです。何よりも音楽への想いを感じました。常連さんがレコードを預けて置いていたりします。

ちなみに登米市のエルヴィンという店も中々でした.
コロポックルもありますしね。
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のびたさん (6x6)
2024-05-24 20:34:19
演奏される方も、お店をされる方も、はたまた聴く方の人間も、様々な形で音楽と関わって、しかも運命の分岐に接するのだなと痛感しました。

震災で色々なものが失われましたが、一方でこうして立ち上がる方もいる。僕なんてまだまだ門前の小僧以下なので頑張らなきゃと思いました。

追伸:良い旅をされて本当に良かったですね。間接的にですが、僕もおすそ分けも頂きました。ありがとうございます。
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てりさん (6x6)
2024-05-24 20:43:06
全く同感です。
それが駄目とは言いませんが、ジャズ喫茶は明るく健全ではなく、暗く重く不健全の方が好きです(笑)。
このお店、ジャズ喫茶業界でいえば最近オープンしたわけですが、個人趣味部屋として培ったものをベースに、観念としてのジャズ喫茶を見事に具現化していると思います。

予約云々は、折角来て貰ったのにいないと悪いから、念のためみたいな感じだと思います。僕は飛び込みで行きました。
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矢嶋宏人さん (6x6)
2024-05-24 20:47:31
そうですよね。今の時代にわざわざジャズ喫茶に行くのですから、スイーツを食べる目的ではない。物語が優先されますね。

ベイシーですが、ここ数年、不定期の休みに入ってます。マスターは店には足を運び、稀に突発的に営業するとも聞きます。出来ることなら僕ももう一度、ベイシーに行きたいです。
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Unknown (上総)
2024-05-24 22:14:04
普通のお店と違って、聴かせるとか、見せるではなく、
自分が聴くために作った空間なので、音は抜群ではと想像します。

コーヒーの香りに包まれて、じっくりゆっくり。
透き通るような音を楽しみたいですね。
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上総さん (6x6)
2024-05-25 08:03:32
そうなんですよね、自分が聴くための空間。
初期投資なんかも店舗営業目的であれば成り立たない世界ですよね。
熟成された世界がそこにありました。可能であれば、ここでゆっくりお酒を飲みたいものです。
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