衆院解散決定後から大幅な株高円安が続く「安倍相場」。外国人投資家が飛びつき、個人投資家も市場に戻り始めた。
期待感で急騰した相場はとかく一過性となりがちだが、安倍晋三新首相が掲げる経済政策「アベノミクス」の後押しで2013年も株高と円安が続くと予測する市場関係者は多い。
安倍氏は衆院選でデフレ脱却のために「2%のインフレ目標」を政策の柱に掲げ、日銀に大胆な金融緩和を求めた。これをきっかけに株高が進行、首相就任翌日の27日には、日経平均株価が1万300円台に乗せ、ついに年初来高値を更新した。
「13年も『ストロング・バイ』でいい」と“強い買い姿勢”で臨むのは、カブドットコム証券チーフストラテジストの河合達憲氏。「日経平均の13年1~3月の高値レンジは1万800~1万1400円」と一段高を予測する。
株高と同時に進行しているのが円安だ。27日には1ドル=85円台後半と2年3カ月ぶりの円安水準となった。円安が続くことで、輸出企業を中心に業績改善が期待できる。
対ドルの想定為替レートが78円のトヨタ自動車は、1円の円安で年間営業利益が350億円増える。想定レート80円のホンダも170億円、想定レート78円のキヤノンは92億円の増益要因だ。欧州に強いソニーは対ユーロで1円の円安が60億円の増益要因となる。
「9月中間決算時点で円高を理由に業績見通しが2割程度下方修正されたが、85円台でそのうち15%程度は戻る。さらに来期(14年3月期)は控えめにみても2割増益が見込まれるため、年後半に1万3800円の高値となっても驚かない」と河合氏は語る。
個別の業種や銘柄については「国策に売りなし」の相場格言が当てはまるという。1つめが円安で「12年末までに1ドル=90円で推移し、自動車や民生用電機が出直る。対ユーロでの円安でリコーやキヤノン、コニカミノルタなど精密機器も強いだろう」と河合氏。2つめが金融緩和で「銀行、証券、不動産」に追い風になる。3つめが公共投資で、「物色対象が大手ゼネコン4社から東急建設やピーエス三菱など中堅ゼネコン、さらには不動テトラや日本橋梁などへ波及し、さらに大手に戻る好循環となっている」と指摘する。
岩井コスモ証券投資調査部副部長の有沢正一氏も「13年春ごろに1万2000円、13年中に1万3000円、1ドル=88円もありうる」と強気だ。「円安株高の流れは日を追うごとに強まっている。安倍政権の組閣をみても安定感のある人が多く、早々に失望感が出るということはないだろう」
中長期的にみると、世界の主要市場が08年のリーマン・ショック後の株価下落から回復する中、日本株が出遅れているという。有沢氏は「米国のダウが史上最高値近辺まで戻っていることと比較しても、日経平均は上方修正の余地が大きい」と分析する。
ちなみに、海外投資家に影響が大きいゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長のジム・オニール氏は12月19日のニュースレターで「米国の景気回復が予想を超えて進めば、今後12~24カ月の間に100~120円という水準に達することも考えられる」と一段の円安が進む可能性を示している。
SMBC日興証券株式調査部部長の西広市氏は13年の経済情勢について「1~3月は米国の“財政の崖”、4~6月はイタリア経済の不透明感払拭が焦点になる。9月にはドイツの連邦議会選挙、10~12月は欧州不安沈静化と脱デフレの行方が注目される」と解説、「日経平均は4~6月に1万1000円、年内1万1500円だが、上ぶれも期待できる」とする。
ネット専業のカブドットコム証券には最近、個人の顧客から「取引口座のIDとパスワードを忘れた」という電話が増えているという。「このところの上昇に半信半疑で乗り遅れた個人投資家が年明け以降に戻ってきそうだ」(前出の河合氏)というように、相場全体が盛り上がりを見せてきている。
ただ、「今後はどこまで政策が実行されて効果が出てくるか見極められることになる。市場の期待が相当大きいだけに失望に変わると反動も大きい」と前出の有沢氏。13年は日本の株式市場の熱を取り戻せるかどうかの正念場だ。